彫刻家 安藤英次さん 第4回 ~素材に学ぶというよりは、素材と摺合せをしている感じ~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の安藤英次さんです。


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

安藤英次さん


前回の彫刻家 織本 亘さんからのリレーでご登場頂きます。

  彫刻家 織本 亘さん 第1回  第2回  第3回   第4回 

 

安藤英次さん 第1回  第2回  第3回

 
第4回目の今日は、制作や素材についての思いについて
お聴かせ頂きました。

 
お楽しみ頂ければ幸いです。


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「カレワラ タリナ」 1996
130×130×350cm

御影・真鍮・ステンレス・アルミ・欅

アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館


「倭は國のまほろば たたなずく 青垣 山陰れる 倭しうるわし」 1996
大理石
25×25×60cm



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「倭は國のまほろば たたなずく 青垣 山陰れる 倭しうるわし」  1996
小松石
35×25×55cm


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「月に落ちる滝」    1989
砂岩   
20×20×90cm



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「天之叢雲之剣」    1990
白御影
25×25×90cm



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「星と鯰」   1989
黒御影
40×40×60cm



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」    1999
樟・大理石
50×40×205cm




日下
安藤さんは、近年は主に石彫で
「たまごのなかで おこっていること」
という制作をされていますね。
安藤さんの制作や素材についての想いをお聴かせいただけますでしょうか?



安藤英次さん
美術大学に入って、いろいろやってみた中で
石彫が、肌に合っていそうな気がしたんです。
ブロンズなんかも、興味はあったんですけど、
工程が多くて、途中で疲れてしまって、
ちょっと、たどり着かない・・・。


石や木だと、彫りながら仕上げの様子が見えてくる。
3年生になって、卒業制作に向けて、いちおう素材を決めるんですが、
粘土をやりながら、石彫室にちょこっと顔を出して、
木彫室にもちょこっと顔を出して、・・・まだいろいろやりたかった。
もちろん、技術も、構想も、まだまだ未熟で
石膏やブロンズ、石や木を使って、
思いつきで小さいものをぽこちょこ作っていました。


3年生も終盤になったころ、
卒業制作のことが視野にはいるようになったころ、
石彫室の中井延也先生に、相談に行ったように思います。


その後、4年生になって
本格的に卒業制作の準備に入るころ
フィンランドの、カレワラ・タリナ というという物語を
ちょっと読む機会があったものですから・・・。
ちょうど、3年生のころ、ごちゃごちゃ小さいものを
作っていたとき、古代、北欧の風俗をまねたりもしていたので、
カレワラ・タリナの一場面をイメージして、
石を主な素材に使って、石彫室での卒業制作に決めたのです。


たしか、卒業制作の課題に、立体とは別に
デッサンの提出があったと思います。
その時提出したのが、古事記のなかの、倭建命の國偲びの歌
「倭は 國のまほろば たたなづく靑垣 山籠れる 倭しうるはし」
をテーマにしたもので、素材に、大理石に着色をイメージしたデッサンでした。


けっきょく、学部を卒業して、研究科に進んで最初に
高さ60センチほどの倭建命全身像を、
「倭は 國のまほろば ・・・」
のテーマで、大理石に一部、浅い着色で作ったんですが、
舟越保武先生に、
大理石はハレーションを起こすから、むしろ小松石を使った方がいい、
と指導されて、以後、小松石を多く使うようになりました。


小松石は、石ノミの当たり具合や、トンボという道具の使い勝手が
じつに、僕の肌に合っていて、けっこう気分よく仕事が進むんです。
手仕事、という意味で考えると、舟越先生のおかげで
小松石と出会えたことは、実にありがたい事でした。
今でも、「小さい寺」の作品には、小松石をつかいますし、
小松石をたたいているときは、・・・気分が、いい。
自分に合った素材と出会うことは、大事なことですね。


研究科にいた2年間は、物語的な作品が多く、
黒御影影石なんかも使いましたが、
やはり、小松石が多く、倭建命をテーマにした作品は
ほとんどこの時期のものです。


研究科を修了して、JR川越線の南古谷駅の傍の共同アトリエで
ちょっとの間、作業していました。
「月に落ちる滝」、「天叢雲剣」、「星と鯰」など、夢で見たものを
テーマにしたり、荘子の「鯤」をテーマにしたり、
河童や天女をテーマにしたり
砂岩や御影石を、このころは多く使っていました。


2~3年して、共同アトリエを解散することになり、
上尾で造園業をやっている慶応大学のころの友達の好意で
植木畑の一部を借りて、今のアトリエを建てて、上尾に移りました。


その頃から、物語的な作品は、何を作っても、同じようなものばかりで、
きゅうに新鮮味が感じられなくなってしまって・・・。
そうしたら、ふと
「たまごのなかで おこっていること」
“COSMOS INSIDE AN EGG”
というテーマが、頭に浮かんだんです。


今度は、やはり若いころ読んだ、宇宙の話や相対性理論の解説本、
精神科の医師になった先輩から聞かされた、人の心や命の話し、
そういったものが頭のなかで絡み合って
上尾のアパートで、ドローイングを描きながらアトリエで石彫に
したり、石膏で原形を作って友達に頼んでブロンズに起こしたり
していました。


でも、ドローイングをそのまま立体にするのには限界が
あります。いちど、それらの作品で個展をやったとき、
そのことに気が付きました。


それで、とにかく、多少複雑な形でも
思いつきをすぐに形にしてみたくて
木を使ってみようと思ったのです。


主に木で制作をしていた1992年からの8年間は、
パート・ド・ヴェール の技法を用いて
ガラスの小品もいくつか作ったりしたのですが・・・。


そのうち、子供が生まれて、赤ん坊の世話をするようになったころ、
やっぱり晩酌しているときに、ふっと、木の角柱をくりぬいて、中に
大理石で魂をイメージしたものを作って入れ、真上からスポットで
照明する形が、頭に浮かんで、急いでスケッチしました。
このメモを元に、木の角柱をくりぬいて、高さ205センチの作品を
作ってみたのです。


けっきょく、この形は、黒御影石と大理石で作ったほうが、
いろんな意味でいいような気がして、
以後、また石を素材にすることが、多くなりました。


その後は 「たまごのなかでおこっていること」
というテーマで制作を続けています。



日下
はい。
ホームページの作品を年代ごとに全て拝見していると
安藤さんは、倭建命の時も
「たまごのなかで おこっていること」でも
あらゆる素材をまんべんなく経験していらっしゃると思います。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館


「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」
ガラス(パート・ド・ヴェール)欅・ステンレス螺
20×20×50cm




安藤英次さん
そうですね。
ホームページのなかの作品で
「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」
という作品がありますが
それは、以前、僕の制作を応援してくれて、
作品を買ってくれた友人に、プレゼントしたものなんです。


その友人は自宅を建てる時に
「たまごのなかで おこっていること」を展示するためのスペースまで
作ってくれまして・・・。



日下
ああ、それは本当に素晴らしいですね~。(感動)
作家たるもの、そんな風に作品を求めて頂けたら幸せですよね。

その「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」という作品は
素材はパート・ド・ヴェール という技法で制作したガラスということですね。
確かパート・ド・ヴェールというのは、簡単にいうと
ガラスで作る鋳物のような技法ですよね。
  

安藤英次さん
その作品はガラス工芸研究所 という所で
大きな窯を借りて鋳造した作品です。

ガラス工芸研究所というのは、
勾玉や管玉などを研究されている由水常雄さん とおっしゃる
古代ガラスの研究では、第一人者と言われている方が
主催されている研究所なんです。

まあ、由水さんは、僕のことはご存知ないと思いますが・・・。
 
 
日下
ちなみにこの「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」
という言葉はどんな意味なんでしょうか。



安藤英次さん
手塚治虫の漫画に、「三つ目が通る」という作品があるのをご存知ですか。



日下
はい。そういう漫画があるのは知っています。
読んだことは無いのですが。



安藤英次さん
その中に出てくる呪文なんです。
主人公の、三つ目族の末裔の少年が、
特殊な能力を使うときにつぶやくのです。



日下
ああ、そうなんですか。



安藤英次さん
その呪文からもらったんです

それは公にするといけないのかなと思っているんですけど
公にならないから良いかと思って・・・。(笑)



日下
ああ、そうですか~。


安藤さんのホームページありますが、
ドローイングもとても素晴らしいですね。
黒地に色鉛筆で描いていらっしゃるんですね。

とても静溢な雰囲気、空間を表現していらっしゃいますね。
ぜひ、肉筆を拝見したい衝動に駆られます。
とっても神秘的な感じがします。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」 1990
色鉛筆
27×32cm




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」 1990
色鉛筆
27×32cm



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」 2007
色鉛筆
17×26cm


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」 2007
色鉛筆
30×15cm




日下
安藤さんは本当にあらゆる実材に積極的に取り組んで
いらっしゃると思います。

関わる素材によって、素材から影響を受けたとか、
素材から学んだとか
お感じになることはありましたでしょうか?



安藤英次さん
大学では、素材はひととおり学びました。
また、学部や研究科のカリキュラムにないものでも、有志で集まって
講習会を開いたり、OBに混ぜてもらって体験したりもしてとにかく、
できるだけ多くの素材に接したかった。


いろいろ使ってみたり、他人の作品でも

その素材の使い方を注意深く見てみると、
おおむねその特徴が頭に入ります。
だから、僕の場合は、作品の構想が頭に浮かぶときは、

素材もいっしょにイメージしていることが多い。


ここをああしようこうしようと考えながら作っているので、
素材から学ぶ、というよりは、むしろ
素材と摺合せをしている・・・、
といった感じですね。


そういったとき、例えば小松石のように、石ノミやトンボでたたいた
調子が、自分のイメージにフィットしているときは、
次がスムーズにイメージできる。
・・・やっぱり、こういう経験って、素材に学んでいるということなのかな・・・。


そう考えてみると、これからも、新しい素材に接したり、
使ったことのある素材でも、今までとは違う使い方をするときなんかは、
新鮮な感覚を得ることがあるかもしれませんね。



日下
これからもやはり
「たまごのなかで おこっていること」を作り続けて行こうという
ことでしょうか。



安藤英次さん
多分それはそうだと思います。



日下
そうですか~。
今日も、楽しいお話をありがとうございました。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「たまごのなかでおこっていること」小野画廊・京橋(京橋)


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今回、織本亘さんのご紹介で
初めて、安藤英次さんとお話をさせて頂きました。


安藤英次さんの「たまごのなかでおこっていること」というテーマの作品群に
とても共感を覚えました。


四角いフレームに象徴していると仰るたまごの殻とたまごの関係性が
私という個とそれを取り巻く世界に重ね合わせて感じられます。


安藤英次さんのホームページ表紙のメッセージには
「人の心の奥底は、海の底がつながっているようにつながっている」
とあります。


その作品をご覧になる方々それぞれが
作品を通して、そんな想いを体験されるのかなぁと思いました。


みなさまもぜひ安藤英次さんの作品を
直接ご覧になって見てはいかがでしょうか。


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◆安藤英次さんのホームぺ―ジ




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