三國屋物語 第22話 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

三國屋物語 第22話

 体勢をくずし庭へと倒れこむ。

 地面に叩きつけられると思った刹那、背中が柔らかな壁にぶつかった。どうやら、誰かに受け止められたようだ。篠塚だろうかと首をひねり確かめる。見たこともない男だった。
 見も知らぬ男が夜中に庭にひそんでいる。瞬は冷静に状況を判断し、やがて短く息をのんだ。
 おしこみ強盗……。
 身体中に震えがきた。またしても恐怖に声がでない。
「駿介(しゅんすけ)……駿介なのか……」
 男がいった。とりあえず肯(うなず)き混乱した頭を整理する。
 いま確かに声の主は「しゅんすけ」といった。人違いだ。だが人違いだとわかった時点で危害をくわえてくるかもしれない。ここは様子をみよう。
 男は月あかりをたよりに瞬の顔をみると、にわかに声をつまらせた。
「この五年間、どれほど探したことか……。やはり、京にいたのだな」
 塀のむこうで、荒々しい足音が響いてきた。数は四、五名といったところか。それは、またたくまに近づいてきて、ぴたりと止まった。男の顔に緊張の色が走った。
「たしかに、この通りに逃げたはずなのですが」
「土方さん、ここは……」
「ああ」
 沖田と土方の声だ。とすると、この男は新選組に追われているのか。
「踏み込みますか」
 誰かが早口にいう。

 男の腕に、つと力がくわわった。瞬を引きよせ息をひそめる。男の胸の鼓動がつたわってきた。不思議と恐怖はきえていた。それよりも気になったのは先刻から漂っている異臭だ。
「いや。騒ぎになってはまずい。他をしらみつぶしにさがせ」
 土方だった。

 足音が散っていく。

 男が大きく肩を落とし、すばやく唇を重ねてきた。
 あ……?
 頭の中が白くなる。男がしかけてきた行為を理解するまで、しごく時間がかかった。
 どうして……。
 駿介という名からして相手は男のはずだ。つまり、この男と駿介は念友(ねんゆう)の関係にあるのか。
 瞬は接吻(くちづけ)をしたことがない。一度だけ友人に連れられ妓(おんな)遊びをしたことがあるが、したたかに酔わされ、結局、なにもできなかった。だが、決して興味がないわけではない。十三、四の頃から誠衛門の部屋の棚に隠してある艶本をこっそり盗み見たりもしていた。だが、あれでは流れがわからない。唯一、教示して欲しい兄の良蔵は江戸にいってしまっている。とどのつまり瞬は女をまだ知らなかった。
 息が苦しくなってきた。唇を吸われ、火がついたように体が熱くなる。抗(あらが)うことさえ忘れて、あろうことか、めまいまでしてきた。
 長い接吻(くちづけ)がおわると、瞬は大きく息をはきだし、くたりと首をのけぞらせた。
「そこで何をしている。逢引(あいびき)か、それとも夜這(よば)いか」
 のんきな声がきこえてきた。みると篠塚が縁側にいて二人を見下ろしていた。




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「三國屋物語」主な登場人物

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