三國屋物語 第8話
「評判といわれましても……」
新選組の前身は十四代将軍、徳川家茂(とくがわいえもち)上洛のおり警護の為に集められた浪士隊である。
この年の春より洛西(らくせい)壬生(みぶ)村を宿としていたが、その大半が江戸に呼び戻された。その中で京に残ったのが、芹澤鴨、、近藤勇、土方歳三、沖田総司、山南敬助、新見錦、原田佐之助、藤堂平助、野口健司、井上源三郎、平山五郎、平間重助、永倉新八、その他をふくむ二十四名だ。その後、芹沢たちは京都守護職である松平容保(まつだいらかたもり)の預かるところとなり再結成された。
新選組と名乗りだしたのは、つい先日のこと。「蛤御門の変」以降からだ。とはいえ、それまでの壬生浪士による狼藉蛮行(ろうぜきばんこう)は酷いもので、治安維持どころか京都守護職の面目も丸つぶれであった。ようするに京の町における新選組の評判は地に堕ちていた。
「やはり、よくないか」
篠塚も噂をきいているらしい。それにしても、水戸といえば江戸のむこう。京までの旅は想像以上に大変であったろう。
「水戸から京まで、どれほどかかったのでございましょう」
「半月……いや、もっとか」
「それはまた……。藩命でございますか」
「ん?」
「京へは藩命で、お越しになられたのでしょうか」
篠塚が咳払いをひとつして「いやなに」と、言葉を濁してきた。なにかあるのだろうか。
瞬は「ああ」というと、右の拳(こぶし)で左の手のひらをぽんと打ち声をひそめた。
「もしや。密命でございますか」
「まあ……そんなところだ。いいか、俺が水戸藩の者だということは他言無用だ」
瞬は大きくうなずいた。
胸がそわつく。まるで紙芝居にでもでてきそうな話だ。
明日にはいってしまう……。
せめて藩命を終えるまで、この家にいてはくれないだろうか。篠塚を引きとめる手立てを考えながら、瞬は篠塚にめぐりあえた幸運に感謝していた。
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