scene3 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

scene3

 しばらくして稽古が始まった。
 参加しているのは十名ほどだったが、その半分が外国人だった。
 この時間じゃ、しかたないよな……。
 平日、しかもまだ午後六時をまわったところだ。瞬(しゅん)が通っているのは、この後の八時からのクラスで参加人数ももっと多い。今日は朝から祖母の法要があったので瞬は有給をとっていたのだ。
 稽古は審査前と大会前いがいは内容が決まっており、師範が何もいわなくても進んでいく。最初は決まって受身をやらされる。その後は二人で組み「技の掛かり」の稽古、そして「決め技」の稽古だ。
「山路さん、相手、お願いできますか」
 瞬は同じ時期に入門した大学生に声をかけた。山路が屈託なく微笑む。その時、脇から二人の間に割りこんできた男がいる。篠塚(しのづか)だった。
「こいつの相手は俺がするから、おまえは他のやつとやってくれ」
 山路は呆気(あっけ)にとられ、「はあ……」と言ったきり、瞬にこくりと頭をさげて行ってしまった。
 瞬は篠塚の強引な態度が気に入らなかった。苦情のひとつも言ってやろうと、一歩踏みだし口をひらきかけた時だ、篠塚がいきなり瞬の腕をとり腰技をかけてきた。気がつくと瞬は畳の上で受身をとっていた。
「いきなり危ないじゃないですか!」
「危ない? 手加減はしているぞ。どこも痛くないだろう?」
「そういう問題じゃなくて、技をかけるなら掛けるとひとこと……」
 篠塚が声をあげて笑った。
「それじゃ稽古にならないだろう」
「でも」
「いいから。じゃあ、おまえ俺に掛けてみろ」
「どんな技を掛けたらいいんですか」
「おまえが得意な技を好きなように掛ければいい」
「僕は言ってもらったほうが……」
 篠塚が眉間(みけん)のあたりに皺(しわ)をよせた。
「俺は大学の講義にきてるんじゃないぞ。武道の稽古にきてるんだ。好きな技をかけていいと言ってる相手に、くだらない注文をつけるんじゃない!」
 周囲が一斉に振りむいた。瞬は恥ずかしさに、うつむきながら、「すみません」と、つぶやいた。
 篠塚は大きく肩で息をつくと、いくぶん声をおとし、「簡単な技でいいから掛けてみろよ」と、瞬の顔をのぞきこんできた。仕方なく入門して間もない頃に習った「足技」を掛けてみる。だが、いくらやっても掛からない。篠塚を半歩さえも動かせないのだ。相手の腕をとって足を絡(から)めながら後方へと倒す。小学生でも即座におぼえてしまうような技だった。
「おまえ、やる気あるのか?」 



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