母になる、石の礫で//倉田タカシ | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
母になる、石の礫【つぶて】で (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)/早川書房

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 「母になる、石の礫で」


 倉田タカシ、著。 2015年

                 ※

内容(「BOOK」データベースより)

3Dプリンタが驚異的進化を遂げ、建築物から料理まで直接出力出来る未来。禁断の実験に手を染めるため地球を脱出したファナティックな12人の科学者は、火星と木星の間の小惑星帯にコロニーを建設していた。“始祖”と呼ばれる彼らに産み出された“二世”の虹、霧、針、そしてその下の“新世代”を含む4人は、コロニーを離れ自らの“巣”を建設していた。あるとき虹は、母星の地球から威圧的に近づいてくる巨大構造物に圧倒される。虹たちは対策を検討するため7年ぶりに“始祖”と再会するが、それは過去に2名の“二世”を失った事件に端を発する確執の再燃でもあった―未来的閉塞環境で己の存在意義を失った異形の若者たちの惑いと決意を描く本格宇宙SF。

                 ※

 進化した3DプリンターでDNAデータを基に出力された4人の若者たち。
肉体改造による異形の体を持ち、系譜を持たないアイデンティティ不在の彼らは、宇宙空間に彼らだけのコロニーを持ちながら、彼らを生み出した始祖と呼ばれる科学者たちに隷属する。

 彼らはプリンターを母と呼び、母が生み出したものを仔と呼ぶ。
母も仔も単なる呼称であり、通常の母と言う言葉とは別物である。
母は必要なものを作るための道具に過ぎない。
しかし母は彼らにとって特別なものである事に違いがない。
アイデンティティ不在の彼らにとって母は、やはり不在であるはずのアイデンティティの拠り所であるようだ。

 彼らによる始祖たちへの反抗。
そして母星・地球によるコロニーへの侵攻。
圧倒的な戦力と情報の差により、彼らは追い詰められて行く。
そして……。

 これは通過儀礼の物語だ。
若者の巣立ちの物語だ。
ここには異形の葛藤がある。
それは異形の葛藤でありながら、やはり普遍的な青春の葛藤でもある。

 SFとして。
小説として。
唯一無二のアイデアではない。
唯一無二のストーリーではない。
多くの先行作品群を踏まえた上でこの作品はある。

 だからと言って、この作品の価値が低下する訳ではない。
弱点はあるのだろう。
甘さも。
それでもなお。
良い作品だと思う。
しみじみと。
良い作品だと思う。
面白い作品だと思う。

 『母になる、石の礫で』。
異形の反抗。
青春の反抗。
印象的な作品でした。
本当に面白かったです♪♪♪