家守綺譚 // 梨木香歩 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
家守綺譚 (新潮文庫)/梨木 香歩
¥380
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 「家守綺譚(いえもり・きたん)


 梨木香歩、著。 2004年。



 河童ってやはりいるのだ・・・。

いや、ほんの100年程前までは、河童や鬼がいて、

季節の風物のようなものだったんだなぁ・・・。


 なんとなく、そんな気にさせられる作品ですね。

綺譚とタイトルにはあるけれど、登場人物は誰もが

世の中はそれで当たり前だと思っているようです。


  

 庭・池・電燈付二階家。 汽車駅・銭湯近接。

四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚

竹精・桜鬼・聖母・亡友等々出没数多・・・・・・

本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、

文明の進歩とやらに今ひとつ掉さしかねてる

新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき

池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の

記録である。

 (裏表紙より引用)


 短編集と言うよりは、ショート・ショートの長さの

章構成です。

まるで随筆のように各章が一つの話として語られる

長編作品と言っても良いでしょう。


 亡くなった友人の家族から、家の管理を依頼

された主人公は、この家で友人の幽霊と会話し、

河童や花の精などと交歓する。


 それがまるで自然なこととして語られるのですが、

なんと風情のある物語でしょうか・・・。

まるで、少し前の日本ではそれが当たり前であった

かのようで、この不思議な情景が郷愁を誘います。


 隣のおばさんは、夕食のお裾分けのついでの会話で、

「ああ、これは河童の抜けガラね、一目見ればわかります」

などと常識を語ります。


 飼い犬のゴローは、サギと河童の喧嘩の仲裁をした

大変な人物(犬物?)として、妖しげなモノたちの間で

一目おかれているらしい。


 そうそう、亡霊となった友人は掛け軸の湖面を

ボートを漕いでやって来ては、世間話をして行く。

庭のサルスベリの木は、征四郎に惚れている様子。


 狸や狐は人を化かし、カワウソは鮎を土産に、

「カワウソ暮らし」の勧誘まがいのことをする。

この手合いはたいてい他愛のないいたずら者らしい。


 しかし、気負いなく綴られる物語は、まるであったかも

知れない良き時代の郷愁に満ちており、何故か

懐かしく胸に迫って来ます。


 しかし、考えてみればさらりと綴られた短編のひとつ

ひとつのエピソードが、展開しだいでは長編小説を

書けるような話ばかりで、なんとも贅沢な物語では

無いか・・・。


 本当に、楽しい時間を過ごすことが出来ました。

ほんのりと温かく、懐かしさに似た気持ちに満たされる

そんな作品ですね。