死神の精度 // 伊坂幸太郎 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
死神の精度 (文春文庫)/伊坂 幸太郎
¥550
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 「死神の精度」


 伊坂幸太郎、著。 2005年。



 以前の職場で、「死神」とあだ名された男がいた。

私の同僚が、新入りの彼を見るなり、「おお、死神!」

といきなり命名したのですが、・・・ひどい男です。


 「死神」の顔に似ているから、と言うのが命名の

理由だそうですが、「死神の顔」って・・・?

まあ、この同僚は確かに憎めないけどひどい男なのです。


 背も高く、センスも良く、性格も人なつっこくて明るい。

ただ・・・、ヒドイ奴ではある。

「ちょっと彼女と逢って来る」、と言ってミナミへ。

3時間程で帰って来て、「ひとごみに紛れて、彼女を

まいて来た」、と言う。


 食事をおごってもらって、ホテルへ行って、

「満腹だし、さっぱりしたから、もう用が無くなったから」

だそうです・・・、う~ん・・・。

でも、こんな奴がもてるんでしょうねぇ・・・。

私は男で良かったと、つくづく思いました。


 

 ①CDショップに入りびたり ②苗字が町や市の名前であり

③受け答えが微妙にずれていて ④素手で他人に触ろうと

しない・・・・・・そんな人物が身近に現れたら、死神かも

しれません。 一週間の調査ののち、対象者の死に可否の

判断をくだし、翌八日目に死は実行される。 クールでどこか

奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。

 (裏表紙より引用)


 これは、最高です!


 要は、六つの人間ドラマなのですが、その話の内容も

勿論面白い。

しかし、この「死神」の設定がさらに物語に奥行と

味を加えます。


 「死神」は、その人物の死の可否を調査して、報告

するだけで、実際には手を下す訳では無い。

しかも、ほとんど全ての報告は「可」であって、

調査と言っても実際にはその人物を見てるだけ。


 ほとんど、形式だけの「任務」。

死神は何故か皆「ミュージック」が好きなので、

「試聴」が楽しみでCDショップに入りびたり。


 思考形態が人間と微妙に違うので、会話や

行動が変。

調査時に、担当する人間と関わったりするのだが、

この価値観の違いが物語の展開を実に味わい

深いものにします。


 単に、このような存在がストーリーに関わる

だけで、これほどドラマチックな効果を上げるとは・・・。


 重苦しくなるべき展開は軽妙に。

軽すぎる思考は奥行を与えられ。

コミカルでありながら、切なくもあるドラマに変貌する。


 「死神」自体は、超常能力を使うわけでもなんでも

無い。

むしろ、ドラマの展開上は単なる常人でしか無い。


 でも、それがこれほど物語のグレードを上げる

とは・・・。

「死神」の存在無くしては、この物語は凡百の作品に

堕したかも知れない。

正直、舌を巻きました。 脱帽です。


 この本は、短編集なのですが、最初の作品と

最後の作品が関連付けられているために、実際

には長編小説と言えるでしょう。

実際に、その事で統一感のある作品に仕上がって

います。


 この、作品集の構造もお見事です。

いやはや、ケチのつけどころも無い完成度の

高さです。


 本当に、良い物語を十分に堪能させて頂きました。

これは、最高に面白い作品でした。