ワセダ三畳青春記 // 高野秀行 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)/高野 秀行
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 「ワセダ三畳青春記」


 高野秀行、著。 2003年。


 

 高野秀行さんが22歳~33歳の11年間を

過ごした、「野々村荘」での出来事を中心に

綴られたエッセーです。


 三畳一間の部屋で、暮らす奇人・高野秀行。

そして、33歳までを「青春記」と平然と言い切る、

永遠の少年・高野秀行。


 この部屋で、「ムベンべ」も「アヘン王国」も

執筆されたのだと思うと・・・。

「辺境ライター」と呼ばれる彼は、日常生活まで

辺境の暮らしであったのかと、変に感心してしまう。


 どうも、通常の社会生活に適応出来ない人なのだ。

世間一般では、単にビンボー生活に過ぎないのだが、

この人はそんな事はいっこうに気にしない。


 価値観がすでに常人とは違うようだ。

本当に、子供のまま生きている。

たぶん、今も・・・。


 このエッセーも、馬鹿なエピソード満載です。

読むと、可笑しくて、何故か懐かしくもあり、切なくも

気恥ずかしくも感じる。


 「キルドレ」では無いが、この人は永遠に青春の

時間を生きているのだ。

人生そのものが、旅の途上なのだ。


 旅に病み 夢は枯野を 駆け廻る


 たぶん、自宅にいてさえ、彼は異境を旅している。

だから、実際に辺境に身を置こうとも、それは特別な

ことでは無いのかも知れない。


 この本については、二つのエピソードを紹介します。

一つは、「早稲田探検部」時代のトリップ体験。

当時、探検部の一部で、「合法ドラッグ」実験が

はやっていたようです。


 この、馬鹿どもは、「ケシの実」やサボテンの一種

「ペヨーテ」などを試して何の効果も得られず、なんと

「ベニテングタケ」を探しに行く。


 結局、入手出来ないのだが、入手してそれを食べる

つもりでいたのだ。

・・・、馬鹿だ・・・、もはやそうとしか言いようが無い!


 あげくに、幻覚症状を引き起こす「ダチュラ」の種子

を入手して、これを高野秀行氏が「人体実験」する。

通常、3~4粒で幻覚症状を引き起こすらしい。


 ただし、その効果が表れるのは、30分~1時間後。

中には、暴れ出す者もいるというので、見張り番を

数人用意して実験開始。


 30分後、効果無し。

さらに、数粒食べる高野。


 効果無し。

ポリポリとさらに齧る高野。

そのまま、100粒ほど齧り続ける。


 1時間経過。

喉の渇きを訴える高野。

ウーロン茶のコップに手を伸ばすが、距離感を

失いつかめない。


 体が重くなり、

「重力が・・・・・・木星の重力が・・・・・・」

と口走り、そのまま失神。


 その後、本人の意識は無いまま奇行を続け、

やがて眠ったようだ。

意識を取り戻したのは15時間後。


 しかも、瞳孔が開いたままになり、文字などが

読めない状態であったという。

その代り、色彩認識能力が常人の域を越え、

普段は知覚出来ない色まで識別できたと言う。


 この世界は、色彩に溢れた感動的な世界だと

感じたそうだ。

少し、視力が戻った時に、もしやと思い駅の

岡本太郎氏のポスターをみたところ、氏の瞳孔は

やはり開いていたと言う。


 これが、天才の秘密だったかと、納得したそうだ。

そして、完全に正常な視力を取り戻したのは、

なんと一ヶ月後であったと言う。


 常人は、その前に眼科に行く。

不安で堪らない。 まぁ、それ以前にそんな人体実験

などしないのだが・・・・。


 この男は、文字が読み書き出来ないのでは作家に

成れないから、画家になろうと思ったと言う。

・・・馬鹿だ!


 そして、もう一つのエピソード。

33歳になろうとする頃、同じ歳の女性に恋をした。

ある日、その人と昼間から河原でビールを飲み、

その人は彼の部屋に泊まった。

そのころは、彼も四畳半に出世していた・・・。


 それまで、互いに異性を知らぬでは無かったが、

その後、互いが何故か緊張してしまい、連絡が

取りずらかったと言う。


 「もう一度会いたい」と言って、

「アハハ、あのときはあのときよ。 大人じゃないの、

いやねえ・・・・・・・」

などと笑われたらどうしようと思ったと言う。


 そして、彼女のほうから電話が・・・。

二人は緊張しながら、待ち合わせの喫茶店へ・・・。


 「私ね、電話をするのがすごく怖かったの。

もし、高野くんに、おれたちもう大人なんだし、

そういうのナシにしようよ、とか言われたら

どうしようかと思って。」


 しかし、彼女はこう続けた。

「でも、もし、そんなこと言われたら、怒鳴り返して

やろうと思ったのよ。

 大人だから子供とちがって情が深いんだよ!

ってね」


 そして、この「人生の初恋」が始まった。

この、エピソードは可愛らしくなかなか素敵です。

やがて、高野秀行は住み慣れたアパートを離れ、

新しい暮らしを始める決意をする。


 こうして、この奇人の「ワセダ三畳青春記」は

幕を閉じた。

その女性は、多分今の奥さんではなかろうかと

私は想像するが、それには言及していない。


 しかし、今も高野秀行は変わらない。

相変わらず、永遠に少年の心で生きている。

相変わらず、馬鹿だ・・・・・・。


 この愛すべき馬鹿の話が、私はたまらなく好きです。