「初恋」 3 | 15でオカマ オカマで女優

15でオカマ オカマで女優

ドラマチックに咲いてほしい性転換後

彼の姓と名前を自分のものにしたあと、私はいく夜眠れぬ日を超え、
第二次成長期前の時代を過ごしていた。


年が明けたころ、小4の教室に彼が出没するのを見かけた。

そのとき、私が友達とはしゃぐような感覚とは違う感覚が
大きな銅鑼の音とともに私の全身にいき渡る。

「Fくんと話してるのは木○くん?」

私は向こうにいる話し相手に気づいた。
木○くんというのは非常に可愛らしい男の子で、
私のお気に入り(というより好意に近かった)のサッカー少年。

木○くんとどういう関わりなんだろう、
疑問と興奮の何回かの鼓動のあと、Fくんは廊下の向こうへと去っていった。

私はそ知らぬフリをしながら木○くんへ近づき、
核心の喉笛に噛みついた。

「そういえば、さっきの男の人、やけに馴れ馴れしかったけど、
知り合い?」
木○くんは相変わらずの赤い頬を動かしながら、
サッカーの人だよ、と教えてくれた。

その時、私はまた一つ、
私の生活に彼を想起させるものが増えた。


なるほど、別の日には放課後の下駄箱で
隣のクラスのサッカー少年・大杉くんとFくんが話しているのを見かけた。
大杉くんはFくんに「先輩!!カッコイイです!」
とふざけて宣わっている。

その時、いまさらというのか
『やっぱり世間一般から見ても、Fくんはカッコイイのね~』
なんてことを私は初めて知った。
当然といえば当然だけど、
なにしろ‘初恋’だったのものでこれがどういうものかとか分からず、
相手の人物像についても、世間の定規を当てることがなかったのです。



サッカーと彼が親密な関係と知ったあと、
小4の終わりごろ、
ボールを蹴るのを禁止されているグラウンドで、
Fくんが思いっきり天高くボールを蹴りあげたシーンが
今も私の頭に焼き付いています。



それからの夜、私は布団の中でサッカーボールみたいにうずくまっては、
Fくんのサッカーをする姿を想像した。

そして、サッカーという球技を擬人化しては、
その人に酷く嫉妬した。

今でも、私は野球よりサッカーの方が好きです。




小4がようやく終わろうとして、
小5が始まろうとしていたころ、
私はふいにFくんがもう学校にいなくなってしまうようなそんな気がした。

卒業式は小56しか参加出来ないので、
Fくんが私の知らない所で学校を去ってしまうんじゃないか、という不安に駆られた。

『Fくんはいま小5で、次は小6だから大丈夫』

そうやって声にも出さず祈りながら、
いつしか校門には桜が咲き、新学期が始まった。


小5になった私は
姿を見れないまま不安な日々を何日か過ごした。

不安で、不安でどうしようもない毎日を流して、
ある時、私は廊下で見覚えの後ろ姿を見た。


『?』

こっそりと近づいてその人の尊顔を拝借した。

「!」

Fくんだった。
少し髪を切って、黒いお肌が露出した新しいFくん。
出会ってまだ数ヶ月だけど、とても懐かしい。
懐かしくて心の中が地面にへたり込むような感覚。

『よかった』

私は浮かれた弾むような気分になって、数ヶ月続いた不安にピリオドを打った。

そう…。
あの、久しぶりにあの顔を見たときの嬉しかったこと…。





しかし、同じころ、浮かれた私の後ろで、
黒い魔物が轟々と音をたてながら近づいてきていた。

私の喉の中に生きるカナリアを毒ガスで殺し、
カビのような呪いを私の体に植え付ける
恐ろしい魔物が。


〈つづく〉