「初恋」 2 | 15でオカマ オカマで女優

15でオカマ オカマで女優

ドラマチックに咲いてほしい性転換後

次の日から、私の心の中には昨日出会ったお兄さんが独占していた。

けれど、彼はノックもせずに人の懐に居直りをし、
したらしたで、しばらく一向に動き、
それどころか姿すらあらわさなかった。




業を煮やした私はある日の小休憩、
‘校内探索’を実行した。

目的は簡単。そのお兄さんのクラス、あわよくば名前を把握したい。
私はひとり校内を風来坊のように彷徨して、
ひとつ上の学年、ひとつ上の階へと潜入していった。

一組

二組

三組

じっくりと見るわけもいがず、
私は廊下、クラスを一瞥、一瞥するような感じでたしなめていった。

彼はいない。

今の私は視力が悪いので、この探索でのターゲット発見率は当時よりも低いだろう。


「いた!!」

彼はいちばん端のクラスにいた。
廊下で仲間と相撲をとっていた。

『ヤバい…カッコイイ…』
私はぼやけた視界と、エコーのかかった声の世界で、
ただ呆然とあのカッコイイ先輩にときめいていた。
でも、ただときめいて立ち止まるだけでは駄目だ。
仕事に移らなくてはいけない。


一般的に仲間の風貌もその人の性格に大きく関与することを既にしっていた当時の私は、
彼の仲間の風貌もたしかめた。
『背が高く、スポーツ系でいわいるイケてる男子が多し』
私は彼らをさも知ったような気になり、更に主部を待った。

名前である。


向こうからこちらの姿が見えない範囲と、かつ私が可視可聴の位置の
ギリギリの交差点で私は彼らの会話をぬすみ聞きした。

相撲の騒音と会話が混じり合うなか、私は耳をすましていた。

もちろんではあるが、彼の名前を知るには
彼の声からは探りあてれない。

私は必死で声を聞き分けて、時おり飛び交う名前の奪取に躍起した。


そんなとき、ついに一人の男子がその人に向かってこう言った。

「おい!F!!
いい加減にしろ!」

ガヤガヤとした校舎にチャイムが鳴り響く


私はその名前を、
いままで生きてきたなかでいちばん大切な単語のように抱えて
チャイムとともに自分の教室へ戻った。




その日からしばらくして、
それから帰り道に何度かFくんと会うことがあった。

FPSの極端に低い夕方の帰り道、
私はFくんの姿を見ながら、相変わらず素敵な容貌にドキドキした。

その素敵な容姿は、いままでの私の人生を否定するものだった。
いままで私がついた
「女の子が好き」という嘘なんて、どうでもいいというような
全ての思考を停止させる素敵な顔や後ろ姿だった。


でも、いつもその出会いは
私が歩くはるか前で彼が歩いていたり、
別の時、めずらしく平行に歩けた時があり私と目が合っても
その人は以前のように話しかけてくることはなく、
いつも私の視線だけが夕方に伸びるFくんの影を釘刺してばかりだった。



年が暮れたころ、
私はふと彼のことがもっと知りたくなり、
またもや小休憩に‘探索’を実行した。

クラスと、彼の苗字は知ってる。
今度は「下の名前」である。

五年生のクラスは見渡す限りどこもからっぽだった。
その時の授業は体育だったのだろう。

「チャンスだ!」

私は以前の探索とは違い、ガランとした長い廊下を一目散に、いちばん端のクラスへと走った。


からっぽの教室には、窓から吹き込んだ風が
後ろの壁に貼ってる書道用紙をめくっていた。

『ここから探すのね』

書道の半紙の左側には名前がフルでかいてある。
なんて好都合なんだろう。

廊下の周囲を見渡し、誰もいないことを確認した私は
ドアの仕切り線から思いっきり、Fくんの学びの舎に踏みいって、一つの感動を覚えた。

「えっと……。赤松、内海、遠藤、大谷…」

端から、端へ見渡す。

「あった!!」

今でも覚えている。
それはドアから数えて4番目、天井から数えて3番目。

堂々と、かつ少しぎこちない習字の文字の隣に、
「F博史」
とかかれていた。

『いがいとインテリな名前なんだなぁ
でも、ちょっと文字が汚いところがまた素敵』
私はそう最初に思ったのが素直な感想。
そして同時に、その名前を与えた人達の顔が思い浮かんだ。
やがて近しい人だけが呼べるその単語に、私はひどく興奮してしまった。


任務を完了した私は
またもやふえた宝物を一つ抱きながら、自分の教室へと帰った。




それからの毎日は、夜になると彼のことを思い出した。

目に焼き付けた数少ないフィルムの中から、
夢心地のまま、雨のひどい(ノイズがひどい)映像を再生した。

私はあの黒く、ラインの素敵な体躯を思い浮かべては、
自分の身体を海老反りにして、
それから眠れない夜が続いた。