「春の雪」
三島先生も雲の上で喜んでおられると思います
(美輪明宏氏談)
【劇場公開作品より】
11/26 日劇PLEX にて
監督:行定勲
原作:三島由紀夫
撮影:リー・ピンビン
出演:妻夫木聡、竹内結子、高岡蒼佑、岸田今日子、山本圭、榎木孝明、大楠道代、若尾文子、他
この作品の予告が流れ始めた頃は、私この作品を見る気は全くなかった。
なぜなら三島由紀夫原作という事で、私は勝手に「潮騒」あたりを連想し、
妻夫木聡・竹内結子主演のアイドル映画まがいのものと決めつけていたのだ。
ところが「春の雪」は三島由紀夫の「豊饒の海」4部作の第一部で、
三島文学最後の名作とまで言われている書。
「金閣寺」や「憂国」、「仮面の告白」、「女方」など
数えるほどしか三島文学に触れていない私にとっては「春の雪」など未知の上に無知な書。
本当にお恥ずかしい限り。
それでも本作「春の雪」を見る気までには到ってなかった。
とどめは10/4 PARCO劇場での「美輪明宏音楽会<愛> L'AMOUR」
でのこと。
アンコール前に美輪氏が自身のコマーシャルを兼ねたちょっとしたトークの場があって、
そこで自身のCMに加えて、特例的に「他人の宣伝」と前置きがあった上で
「春の雪」の素晴らしさをとうとうと喋りだしたのだ。
「絶対にご覧になられたらよい」「全てが素晴らしい!」「三島先生も喜んでおられるだろう」
美輪氏の手放しに絶賛する、その言葉の数々に、
私はすっかり覚醒され自然と「春の雪」を鑑賞するに至りました。
私の最も苦手なラブ・ストーリー、
しかも上映時間2時間30分の大作。
果たして最後まで我慢して見る事が出来るか不安ですらありましたが、
結果、全く問題ありませんでした。
いくつか不満はあるものの、その見事な映像美に圧倒され最後まで一気に観切ってしまいました。
何度も言うようですが、この作品の美術や衣裳、
そしてそれを鮮やかにフィルムに収めた映像美は本当に素晴らしい。
今年の日本映画の1・2を争う見事な映像だったのではないでしょうか。
撮影は台湾から招かれたリー・ピンビン。
ホウ・シャオシェン監督作品には欠かせぬカメラマンとして、
彼の傑作「恋恋風塵」「戯夢人生」を手がけた名カメラマンであります。
どおりで“引きの見事さ”と申しましょうか、
「恋恋風塵」のラストで失恋した主人公の無情感を、主人公の表情で見せずに、
ゆったりと流れる雲の動きで見事に表現したように、
人物のアップに頼らず、思いきってその登場人物たちの顔がわからなくなるくらいまで引いた画で、
その周りの風景を入れた的確な画面構図で
主人公たちの心象風景までも表現する見事なカメラワークを見せます。
作品の始めに清顕(妻夫木聡)と繁邦(高岡蒼佑)が邸宅の浮島で話をしていて
浮島から小舟に乗って邸宅に戻るシーンがあります。
舟が橋の下をゆっくり通り過ぎようとすると、
橋の上をまさに月修寺門跡(若尾文子)を先頭に集団が通り過ぎようとしており、
後ろの方に聡子(竹内結子)が蓼科(大楠道代)とともにおり、
聡子は清顕と目が合いゆっくりと挨拶する…
この何気ないシーンすらもリー・ピンビンの見事なカメラワークが、
清顕と聡子の2人の立場や関係を、周りの風景と共に的確に表現していて、
それはもう見ながら溜息が出てしまうほどの見事さでありました。
その後の展開でも、リー・ピンビンのカメラは周りの風景や美術、衣裳を
巧みに画面の中に取り込みつつ、その中で登場人物たちの感情を表現しており、
やたらとアップで「これでもか」とばかりに感情表現をする作品に食傷気味であった昨今、
この見事なカメラワークには目から鱗状態で、全く新鮮に映りました。
行定勲の“ねばり”の演出も、このリー・ピンビンの撮影に大分助けられてか、今回も好調です。
但し、私はこの作品を手放しで「傑作だ!」とどうしても言えない点、
どうしても心に引っ掛かる点がありまして
それは、ストーリー的に清顕の気持ちがイマイチ把握できなかったところなんですね。
というのも、清顕を演じた妻夫木聡が【いい人すぎる】んです。
清顕は聡子が好きである。
好きなんだが、家柄のプライドの高さが邪魔してというか、
男性特有の【いじわる心】から、決定的な場で聡子に冷たい仕打ちをしてしまう。
それが後々までズーッと尾を引き、2人を引き裂く原因となり、
清顕は実らぬ恋にやがて破滅の方向へと向かっていくのであります。
あのプライドの高さからにじみ出る【いじわる心】が、
演じる妻夫木聡が【いい人】すぎるために表現しきれてないんですね。
この役は難役だと思いますし、あの家柄から出る【いじわる心】を理解し、
表現できる俳優が果たしてこの日本にいるか?という問題にまで、
トドのつまりはなってしまうのですが、
妻夫木聡はどう見ても【普通の青年】なんですよ。
この作品で、聡子の婚約者として登場し、
ほとんど台詞はなかったけれど強烈な印象を残す及川光博あたりだったら、
あの【イヤミさ】は表現できたかもしれない。
ですけど、この役はあまりにもプライド高く【イヤミ】に演じると鼻つまみものになってしまったでしょう。
プライド高くイヤミな男なのだが、
どこかで見る者を「しかたないよね」と納得させなくてもいけないのですから、
清顕という役は本当に難しいと思います。
以前マーティン・スコセッシの「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993)が
これと似たような内容で、主役のダニエル・デイ=ルイスが、
この自分の気持ちを己のプライドから素直にいえない男を見事に演技していたのを、
フト思い出しました(ちなみに恋の相手はミシェル・ファイファー)。
名優ダニエル・デイ=ルイスが演じるような役を、
日本の俳優の誰が演じることが出来るのか。
「春の雪」の不満点を様々な角度から追いかけてみても、
最終的にはこの問題にぶつかってしまうようです。
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