「何か好きな方言ってあるか?」
「ちょっと、私に近寄らないでちょうだい」
「えっ?何で?会話が出来ないじゃないか」
「うるさいわね。私があなたの行く場所ならどこへでも付いて行くと思ったら大間違いよ。妙に回りくどい事をしないでまずどこへ行くのか話すのが誠意じゃないかしら」
「えーと、何を言ってるのかよく分からないんだけど……」
「まぁ、あくまで話すつもりは無いと言いたいのかしら。もう二度と私に近寄らないでちょうだい」
「ちょ、ちょっと待った!何でこうなったのか全然分からないぞ!好きな方言の話をしようとしただけじゃないか」
「しつこいわね。それならあなたがどこの方言に興味があるのか言えば良いじゃないの」
「いや、僕は特にどの地方が、ってのは無いんだけどさ。だからお前に訊こうと思って……」
「あらそう。何も興味が無い、というよりはいくつもいくつも興味があるカンジなのかしら。ようやく将来について真剣に考え始めたと思ったら、あなたが興味のある会社は転勤だらけの会社なのかしら?とはいえもう私がそんな事を気にする必要も無いのかもしれないけれど。二度と私に近寄らないでちょうだい」
「ちょっと待ってくれ!何でそういう展開になるんだ!?会社とか転勤とか言われても意味が分からないぞ。お前こそ回りくどい事を言わずに言いたい事があるならはっきり言ってくれないかな」
「うるさいわね。将来は東京を離れて生活する事になるから、今のうちに私に方言を仕込んでおこうと思っているんでしょう?もちろん方言を使える方が会話はしやすいでしょうけれど、今のままでもそこまで不便な生活にはならないと思うわ。言葉よりも通勤や買い物のような普段の生活の方が余程不便に感じるケースが多いんじゃないかしら。人間というのはいざ準備万端で臨んだ事は拍子抜けするほど波乱が起こらなかったりするけれど、全く心配していなかった事で思わぬトラブルに巻き込まれたりするのよ。あなたもいつまでも私が一緒にいると思って油断していると全く予想と違う未来がやってくる可能性があるから注意してちょうだい」
「な、なるほど……僕が方言を使おうと思って今回の話を始めたと思ってたわけか。最初からそう言ってくれれば良いのに」
「……うるさいわね。はっきり真っ直ぐ正面から言ったらみっともない事になるのが分かっているから違う方向から言っていたんじゃないの。要するに方言よ。もしくは会話を方向音痴にする言葉とも言えるわね。要するに方言よ」
「いや、僕が訊きたかったのはそういう言葉遊びじゃなくて、実際にどんな方言が好きなのかと……」
「うるさいわね。人間なんて全員扱う言葉が異なるし、人の数だけ方言があると思うわ」
「言いたい事は分かるけど、ある地域の大多数の人だけが使う、ってのが方言の定義なんじゃないのか?」
「あらそう。じゃぁ地球上のある地域だけで大勢が話している日本語はもう一まとめで世界の方言という事で良いんじゃないかしら。最近は日本企業も英語の勢力に押されているし、日本語もいつかは日本国内でもマイナー言語の扱いになってしまうかもしれないわよ」
「そうなったら大変だな。でも遠い未来はどんな世の中になるのか分からないし、少しずつ少しずつ英語に変わっていくのかも……」
「ええ、そうね。英語になるとかいう以前に翻訳機を片手に誰も口を動かさない時代になるかもしれないわね。翻訳機さえ使わずに、脳で思考すれば相手に思った事が伝わる時代だって来るかもしれないわ。そうなったら世の中には本音しか存在しなくなって私なんてすぐに死んでしまうんじゃないかしら、みっともない。やはり私に近寄らないでちょうだい」
「おい!意味が分からないぞ!一人で未来の世界になりきっちゃってるんじゃないだろうな」
「うるさいわね。結局今日は何を話したいのかしら?何が何だかさっぱり分からないからころすしかないんじゃないかしら」
「こら!話が分からないだけで殺すなんて酷過ぎるぞ!」
「違うわよ。熊本弁で【殴る】という意味の【くらわす】って言ったの。くらわすが早口になると殺すに聞こえてしまったかもしれないわね」
「ああ、なるほどな。って、少なくとも殴られるんじゃないか!好きな方言を訊こうとしてるだけだぞ!」
「うるさいわね。それならさっき話したじゃないの。日本語だけよ」
「うーん、日本語から更に細かく分類して欲しいんだけど……」
「違うわよ。この方向だけよ、って言ったの。いつも私が見ているこの方向から出てくる言葉しか聞きたくないわ」
「さっき言ってた【方向の言葉】で方言、ってヤツか。そ、それはもしかして僕の事を言ってくれて……って、おーい、突然横を向かないでくれ!」
「全方向からのクリックを待っているわ」
「ツイッター とかいうものを始めてみたわ」
過去の会話一覧を表示する
小説版会話ブログ
第一弾【はじまりの日】
第二弾【拝啓、わが路】
第三弾【そして欠片は花弁のように】
会話ブログRPG
第1章
第2章
小説【えすえぬえす】
「リクエストや質問 、待っているわ」