「そういえば僕もお前も腕時計ってしてないな」
「あら、何かしら、突然。いつ時間を訊いても正確な時間を教えてあげられない彼女で悪かったわね。そんなに正確な時間をあなたが知りたがっているとは思わなかったのよ。山手線の運転手か何かになるつもりなのかしら?」
「何を言ってるんだ?僕はただ……」
「あら、それならオリンピックに出場する事を目論んでいるマラソン選手をオリンピックに送り出す事を目論んでいる監督になる事を目論んでいるのね。あまり目論んでいると目が眩んでストップウォッチが見れないわよ」
「……何でこんな若いうちから選手じゃなくて監督を目指すんだ……っていうかどっちも目指す気は無いけど」
「あらそう。それなら仕切りの制限時間一杯を告げる勝負審判になりたいのね。上手に分配しないと中継するN○Kに怒られるわよ。そもそもあれは現役時代にそこそこ活躍して親方株を取得しないと出来ないんじゃないかしら」
「今度は何の話だ?相撲か何かか?」
「あら、あなたは相撲好きだったと思ったけれど、どうやらそれも興味が無いみたいね。それなら砂時計判定員とか日時計計測官とか腹時計診断士にでもなれば良いじゃないの。そんな仕事があるのかどうか知らないけれど」
「さっきから何を言ってるんだ!僕は別に正確な時間に関する話をしたいわけじゃないぞ!」
「うるさいわね。正確な時間に興味が無いならサッカーの主審でもしていれば良いじゃないの。いつロスタイムが終わるのか分からずにイライラを募らせたファンからペットボトルを投げられても責任は取れないわよ」
「そうじゃなくて……僕は腕時計の……」
「何でもかんでも嫌々尽くしで贅沢ね。そんな事ではどんな仕事にも就けないわよ。それなら野球の審判でもやれば良いんじゃないかしら。微妙な判定の連続で選手も監督もファンもイライラを募らせて、猛抗議を受けて試合時間がどんどん長引いてしまうでしょうね。ついに終電の時間になっても終わらずに、試合の途中で帰るハメになったファンからメガホンを投げつけられても責任は取れないわよ」
「だからそんなのには別に興味が無いって言ってるじゃないか!腕時計をしてないだけでどうしてこんな展開になるのか理解出来ないぞ!」
「うるさいわね。腕時計さえしていなければ質問をする前の過去にまで戻れると思ったら大間違いよ。いきなり腕時計に興味を持ったりして、失礼な。あなたが何を考えているのか全てお見通しよ」
「え?何が?腕時計の話題になると僕が何か不都合な事を言い出すと思ってるのか?それなら早く言ってくれれば良いのに……っていうかどうして嫌なのか教えてくれないかな」
「……うるさいわね。訊けば何でも答えると思ったら大間違いよ。どうせ腕時計を早くしたくてウズウズしているに違いないわ、腹立たしい」
「うーん、別にしたがってるつもりは全く無いんだけど……」
「違うわよ。腕時計が早く帰りたくてウズウズさせるに違いないわ、って言ったの。正確な時間が分かったら夕飯の時間に合わせて会話中でもさっさと私を置いて帰るに決まってるわ、失礼な」
「うっ、そんなに僕との会話を楽しんでくれてるなんて嬉しいな。でも僕はお前との会話中に突然帰ったりしないぞ。どっちみち今だって見ようと思えば携帯に時刻が表示されてるわけだし……」
「あら、そうだったかしら。どんな状態なのかちょっと見せてちょうだい」
「え?うん、別に良いけど。お前の携帯と大きく変わらないはずだぞ」
「……この時計の表示を永遠に消すにはどうしたら良いのかしら……」
「おい!心の声が聞こえてるぞ!時間なんて気にしないって言ってるだろ!」
「ここを見たらすぐにクリックよ。多少の時間オーバーは認めてあげるわ」
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