「昨日はおでんを食べたんだけど、ああいう鍋物が美味しい季節になってきたな」
「あらそう」
「色んな具があるけど、どれが一番か訊かれたらちょっと迷うな。要するにおでんという作品の主人公みたいなものだからな」
「あらそう」
「大根も玉子も好きだし、厚揚げやはんぺんやがんもどきも美味しいしな」
「あらそう」
「でもおでんの時以外はほとんど見かけない事を考えると、もち巾着という選択もあるかもしれないな」
「あらそう」
「ちなみにお前はどれが一番好き、っていうかおでんの主役だと思うんだ?」
「あらそう」
「おい!薄々気付いてたけど、完全に僕の話を聞いてないじゃないか!」
「あらそう。……あら、何かしら。おでんの話だと思ったけれど、ずいぶん興奮しているわね。口の中をヤケドでもしたのかしら?」
「全く……興味の無い話題だったらちゃんと言ってくれれば良いのに」
「あら、別に興味が無いわけではないわよ。聞いていない素振りをするとあなたがどんな反応をするのか、を確かめる事により強い興味があっただけじゃないの。本当はちゃんと全部聞いていたわよ、失礼な」
「そ、そうか。突然そういう事をするから油断が出来ないんだよな……」
「当たり前よ。この手の実験を事前に話してしまったら何も面白くないじゃないの。避難訓練で誰もがニヤニヤダラダラしているのだってそれが理由よ。毎度思うけれど、どうして事前に伝えたりするのかしらね。突然何の予告も無く避難訓練をすれば、親友と思っていたクラスメイトに突き飛ばされたり、いつも厳しい先生が我先に逃げてしまったり、恋人の【私も連れてって】という懇願を振り切って一人で走り去ったり、常に死にたい死にたいと漏らしていた人が凄まじい生への執念を見せて校庭へ飛び出して行ったり、その後の学校生活でとても役立つ貴重なデータが取れると思うわ」
「そうやって人間関係がギクシャクしないために訓練って事前に言うのかもな……って、そうじゃなくて、とにかく今はおでんの話をしてたんだ」
「ええ、そうね。ちゃんと聞いていたと言っているじゃないの。ちくわぶとじゃがいもが抜き打ち避難訓練中の人間関係のように崩れて大変という話の途中だったわね」
「そんな事は一言も言ってないぞ!やっぱり聞いてないじゃないか!」
「うるさいわね。冗談に決まってるじゃないの、失礼な。こんなありきたりなベタな冗談でグツグツと興奮しないでちょうだい。だから玉子や大根が好きとか、ありきたりな事を言い出すのよ」
「うっ、まぁもち巾着もありきたりと言えばそうだからな……じゃぁお前は何が一番好きなんだ?やっぱり変り種か?いくらなんでもフライドポテトは無理だから……トマトとか、さえずりとか?」
「そうね。私はおでんが良いわ」
「えーと……どういう事だ?」
「おでんという概念そのものよ。私がいないとおでんという料理として認められないのよ。私がいて初めて煮物や寄せ鍋という名前ではなくておでんになるのよ。逆に私がいればそれがどんな料理でもおでんになるわ。そんな圧倒的な存在感、世界の中心としてのおでんが良いわ」
「何だか抽象的というか、よく分からないけど……」
「うるさいわね。そんな事を言って私に楯突いていると私だって放っておかないわよ、失礼な。おでんから追放するわよ」
「どういう事だ!まさか別れるっていうんじゃないだろうな!」
「違うわよ。おでんは熱い方が好きよ、って言ったの。グツグツグラグラして近寄れないくらい熱いのが良いわ」
「な、なるほど……そんな状態でも美味しく食べられるとはスゴイな」
「あら、そんな状態ではとても食べられないに決まってるじゃないの。だからフライドポテトを食べるしかなくなって、かえって嬉しい展開ね」
「じゃぁやっぱりおでんよりフライドポテトの方が好きなんじゃないか!とてもおでんという概念そのものの発言とは思えないぞ!」
「クリックしないとスジ肉にするわよ」
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