久しぶりの投稿となりました。今年も残りわずかです。

 アベノミクス効果により始まった円安は、ほとんどの原料を海外からの輸入に頼るもやし業界にとって向かい風となっています。もともと中国からの原料価格が高止まりしているところに円安の追い打ちです。いまだ原材料高が価格に転嫁できないもやしにとってさらに厳しい状況となりました。ですから今年も中堅どころのもやし屋さんが倒産した、とか“●●さんちは今危なそうだ…”なんて情報、噂を業界関係者からよく聞くようになりました。もっとも私ども深谷のもやし屋も危ないもやし屋のひとつでありますが。

 そのような過酷な状況下で、飯塚商店も価格で取引先を失いながらも、その一方で私は新規の、価格に左右されない部分での新しい販路も開拓しています。もちろんまだまだ小さい市場であり、いきなり会社が黒字に転化にはなりませんが、このように増え続ける新規の取引は、それなりの実績として評価されています。

   ここのところ取引先との商談で

え。もやししかやっていないんですか?

と驚かれることがあります。ああ、そうか、とその時は思います。

現在、

「もやし業界で、もやしだけを生産、販売して成り立っている会社は
ほとんど無い」

はずです。この原材料高で量販店への卸価格が緑豆太もやし200g12~15円(店頭価格19円)が当たり前の状況では“もやしだけじゃ食っていけない”のは当然です。じゃあもやし屋は何を売っているんだとなれば、それは『カット野菜』であるわけです。もともと安いもやしを混ぜることができるので、昔からもやし屋はカット野菜(もやし炒めセット、野菜炒めセット)を手がける傾向にありました。 

こちらのニュースにもありますように、カット野菜の消費は伸びてきています。そして19円のもやしと違って『カット野菜』はまだそこそこの価格が付けられます。

 なので現在、大手も含め、『カット野菜』の製造販売を手がけなければもやし会社はやっていけないのが実情でしょう。もともとは副業扱いであったはずが、時代の流れで今は多くのもやし会社はカット野菜の製造販売がメイン事業になっているといっても過言ではないでしょう。
そうなるとさすがに「もやし屋」というより

「カット野菜屋」

と言ったほうが正しいでしょう。今、もやしだけを作って成り立っているもやし屋さんはどれほどいるのでしょうか。表題の『消えた「もやし屋」』
はここからきているわけです。

 さて時代のニーズと合致して注目されているカット野菜ですが、ひとつ大きな不安もあります。それは

もやしと同じ道を辿るのではないか

ということです。リーマンショック以降、国全体、市井レベルまでに不況感が強く漂ったあたりから安さの象徴であるもやしが注目されメディアに取り上げられ、もやし特集の雑誌もたくさん発行されました。そしてそのやや後からです、量販店からの値下げ圧力が強くなったのは。そして一部の企業が安売りもやしで乗り込み、一気に価格が崩れだしたのはほんの4~5年前のこと、もやし関係者にとっては記憶に新しいでしょう。

同じ現象がカット野菜でも起きないとは限りません

 カット野菜は価格がとれる代わり、現在では店側が求める衛生基準(菌数)を充たすため設備投資と管理が必要となります。サラダのような生食用を大量につくるには莫大な設備投資を要します。さらには、もやしならば機械化により人の削減は可能ですが、様々な商品構成に対応しなければならないカット野菜では沢山の人手が必要となります。そして原材料、つまり野菜ですが、安定価格で仕入れるのは至難であり、頼りの外国産野菜も円安がマイナスとなっています。自社農場の野菜を謳っている会社もありますが、もちろんそれにもコストはかかりますし、とてもそれだけでは賄いきれるものではありません。

 つまりカット野菜がもし価格競争に入ると、即致命的なダメージを受けること必至です。カット野菜で成り立つもやし業界のためそうならないことを祈るばかりですが、スーパーもコンビニにシェアを奪われて必死です。もやしと同じく、カット野菜製造者も生き残りをかけてシェアを大量に奪うため格安のカット野菜商品で勝負に出てくる可能性もあります。先日もやしの値下げを要求したバイヤーの言葉が脳裏に浮かびます。

「もやしもこのくらい安くなるんだな。今までが儲けさせすぎた」