本論文は、欧米型の食事により卵巣がPCOS様に変化することをアカゲザルの研究で明らかにしたものです。
Fertil Steril 2016; 105: 1023(米国)
要約:1歳のアカゲザルの皮下にテストステロンを放出するインプラントを埋め込み、5歳半から西洋型の食事(高脂肪+果糖)を与え、7歳で卵巣を摘出しました。なお、アカゲザルの初潮は平均2.6歳です。摘出した卵巣は、免疫組織学的検討と小さな胞状卵胞のmRNAマイクロアレイ解析を行いました。対照群として、通常のアカゲザル食(低脂肪+低糖質)を与えたサルの卵巣を用いました。インプラントの有無に関わらず、西洋型食のサルは、通常食群と比べ、全体に小さな胞状卵胞が有意に増加し、健常卵胞も閉鎖卵胞も有意に増加していました。健常卵胞では増殖能を持った顆粒膜細胞が増加していましたが、閉鎖卵胞では細胞分裂抑制因子を持った細胞が増加していました。西洋型食のサルの胞状卵胞は、通常食群と比べ、莢膜細胞のCYP17A1が有意に増加しました。西洋型食、西洋型食+テストステロン、通常食の3群で2倍以上のmRNA発現が異なった遺伝子は1944個見出され、特にステロイドホルモン合成、炭水化物代謝、脂質代謝、卵巣構築に関連する遺伝子に有意な変化が認められました。なお、この変化は、PCOSの卵胞のものと類似の変化でした。
解説:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害+多嚢胞性卵巣(PCOM)+ホルモンバランス変化(LH>FSH、テストステロン増加)の3つを満たし、卵巣の皮膜が硬くなっています。卵巣の皮膜が硬くて排卵しないから多嚢胞になったのか、多嚢胞で排卵しないために卵巣の皮膜が硬くなったのかは、ニワトリが先か卵が先かの議論と同じです。一方で、PCOSの方は、肥満、インスリン抵抗性(耐糖能異常、糖尿病予備軍)、メタボリックシンドロームを合併する方が多く、糖代謝や脂質代謝との関連が示唆されています。サルやヒツジでは、思春期前に子宮内あるいは皮下にテストステロンを入れると、PCOS様になることが報告されています。また、西洋型の食事により肥満、インスリン抵抗性、メタボリックシンドロームを引き起こすことが知られています。本論文は、このような背景のもとに行われました。本論文は、アカゲザルでは、西洋型の食事により、卵胞や代謝関連の遺伝子変化が生じ、PCOSの状態になることを示しています。これは、PCOSの発症には後天的な場合があり得ることを示しており、食生活の重要性を示唆します。非常に貴重なデータです。
PCOSについては、下記の記事を参照してください。
2016.3.17「PCOSにおけるエクササイズと代謝の関係」
2015.11.17「PCOSと腸管ホルモンの関係」
2015.9.22「☆PCOSでのメトホルミン治療:Cochrane review」
2015.6.3「PCOSにおけるリポ蛋白の役割」
2015.3.8「☆PCOSの第一選択はフェマーラ」
2015.3.3「睡眠障害と多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の関連」
2015.1.30「PCOSにおけるIVMの効果」
2014.11.18「メトホルミンは顆粒膜細胞にも良い」
2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!」
2014.10.21「プロラクチンとPCOSとメタボの接点」
2014.9.24「ライフスタイルとPCOS関連遺伝子」
2014.5.26「PCOSと耐糖能異常の関係」
2013.12.30「高GI食がPCOSと関連」
2013.8.28「☆PCOSには食事と座位が関係する」
2013.8.8「PCOSの多毛は食生活のせい?」
2013.6.11「PCOSの方は血液凝固しやすい」
2013.6.3「☆PCOMとは?」
2013.5.29「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における耐糖能異常」
2013.5.23「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の真犯人はメラトニン?」
2013.4.18「乾癬と多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の関係」
2013.4.10「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は出生時の体重で予測がつく?」