良い医師とは | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.1.18「医師の資質」では、心身医学的アプローチから、医師にはもともと備わっている人間性が大切であることをご紹介しました。

良い医師とはどんな医師でしょうか。
1「話をよく聞いてくれる医師」
2「的確な判断、治療をしてくれる医師」
3「手術(手技)の上手な医師」
4「相性の良い医師」

ニセ医師が逮捕されるという報道が時々ありますが、その医師の評判は決まって「良い医師」です。あの先生は「話をよく聞いてくれて、親身になってくれる」とてもいい先生です、ニセ者だったなんて信じられません。ところが、ニセ医師ですから医師免許を持っていませんし、医学教育を受けていません。果たして、医師の仕事は、ニセ医師にできるのでしょうか。答えは「Yes」です。多くの病気は、人間の自然治癒力によって治りますので、医学的介入を必要としません。ですから、「そのまま」「あるがまま」にしておけば自然に治ります。治ってしまえば、患者さん的には、「話をよく聞いてくれて親身で腕の良い先生」となります。しかし、特殊な病気や一刻を争う病気ではそうはいきません。状態が悪くなり、中には死に至ることがあるかもしれません。私たち医師は6年間の間、重箱の隅にあるような疾患からメジャーな疾患まで全ての病気を学んでいます。その勉強の成果は、しょっちゅう役立つ訳ではありませんが、ここぞという時に役立ちます。

それでは、妊娠治療ではどうでしょうか。
私は、知識と技術の差が大きく現れると考えています。それは、自然治癒力のようなものに期待できないため、医学的介入が必要だからです。自然妊娠できるのであれば、病院に来ずとも、とっくに妊娠しているわけです。一般的な医師は、病気を治す=「マイナスをゼロ」にする医療行為ですが、妊娠治療の医師は、新たな生命を生み出す=「ゼロをプラス」にする医療行為です。プラスを生み出すためには、「あるがまま」ではなく「多大な工夫」が必要です。確かに、妊娠治療もベルトコンベア式に「画一化」「単純化」することが可能で、それでもある程度は成果が出せると思います。しかし、そのクリニックの「企画」に外れた方は妊娠できない方になります。したがって、全ての方に適切な治療方針を立てることが重要で、「個別化」「複雑化」した診療が望まれます。困難なケースを成功に導くためには、「創造力」や「ひらめき」が必要です。「知識の引き出しの数」が豊富であればあるほど、全体の成功率が高くなります。そのためには、世界中の論文に目を光らせ、新たな知識の習得と実践に毎日心がける必要があると思います。

上記の1と4は重要な要素ではありますが、妊娠治療に関しては2と3が成功率に直接影響すると思います。しかし、そうはいっても人間ですから、通院が苦痛になるような医師~患者関係は好ましくありません。人間とは不完全な生き物ですから、全てを満たした医師はいませんので、どこかが欠けている訳です。どこが欠けていたら許容できないのか、どこなら許容できるのか、といった選択になります。