医師の資質 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

日本心身医学会という学会に入会して十数年になります。米国留学から帰国してすぐ、当時東海大学精神科教授の保坂隆先生(現聖路加国際病院精神腫瘍科医長)と共同研究をすることになり、東海大学では不妊症の心のケアに携わっていました。産婦人科医で日本心身医学会に入会している方はほとんどいないと思います。今月の日本心身医学会の学会誌に興味深い記事がありましたので、ご紹介したいと思います。

Japanese J Psychosomatic Med 2013; 53: 9
要約:医師として大切なこと(2つのエピソード)
エピソード1 胃が痛いのに検査をしても何も見つからず、いろいろな病院を受診しても、「気のせい」「ストレスでは?」と言われました。心身医学の医師は、機能性胃腸症と診断し、「体調が悪い原因は、検査結果に出てくるとは限らないこと、検査で異常がなければ悪い病気である可能性は低いから安心してよいこと、原因は胃腸の機能の不調によって起きることが多く心身両面から治療すると治りやすいこと」を説明しました。だんだん和やかな雰囲気になってきて、「気のせい」じゃなくて「機能性(きのうせい)」なんですよと、笑いも誘って、患者さんは納得して帰りました。
エピソード2 米国の心理学者Watkins教授は、医学的知識や技術以外で治療効果に影響を与える人間性「治療的自己」と名付けました。ある大学病院で、医学的知識や技術が同等の2名の臨床研修医を観察しました。研修医Aが担当する入院患者さんは順調に回復し、病棟スタッフとも協調的で病棟は和やかな雰囲気でした。研修医Bが担当する患者さんの病状は悪化し、病棟スタッフもイライラや困惑の状態でした。双方の担当病棟を交代したところ、研修医Aが担当する患者さんは回復し、研修医Bが担当する患者さんの病状は悪化しました。このように、知識や技術を超えた「何か」が存在することを医療者が認識すべきであると、「治療的自己」という書籍を出版しました(近々和訳本も出版されるそうです)。

解説:心身医学らしいアプローチだと思います。私も保坂先生と一緒に不妊症のグループカウンセリングに長く取り組んできましたから、いろいろなテクニックも身に付いています。しかし、テクニックではなく、もともと備わっている人間性が大切ではないでしょうか。エピソード1には、言い方と順番にテクニックが隠されています。エピソード2はまさに人間性だと思います。その方が育ってきた環境、教育、周囲の人間などが大きく関与していると思います。私も出版されたら早速「治療的自己」読んでみたいと思います。