☆ビタミンD不足だと妊娠率が低下する | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ビタミンDの話は、妊娠を目指す方にも、妊娠中の方にも重要なトピックです。そのため、私のブログでも「ビタミンD」のテーマを独立させています。2014.4.7「☆ビタミンD不足で着床障害になる?」では、ビタミンD不足の方では妊娠率が有意に低下することを、ドナー卵子を用いた99名の症例で示しました。本論文は最多の症例数での検討であり、ビタミンD不足の場合に妊娠率が低下することを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 2032(ペルー)
要約:2011~2012年新鮮胚盤胞移植1個を実施した368名を対象に、ビタミンD濃度と妊娠率の関係を後方視的に検討しました。トリガーの日の血液を保存しておき、後日25ヒドロキシビタミンD濃度を測定しました。 ビタミンD濃度>20 ng/mLの方(54%)と比べ、ビタミンD濃度< 20 ng/mLの方(41%)では妊娠率が有意に低下していました。さまざまな交絡因子を除外し、ビタミンD単独の影響を計算したところ、ビタミンD不足の場合に臨床妊娠率は0.61倍になりました。また複数の胚盤胞から1つを選択できた場合には、その影響はさらに顕著であり、臨床妊娠率は0.56倍となりました。

解説:25ヒドロキシビタミンD濃度は、十分>30 ng/mL、不十分20~30 ng/mL、不足<20 ng/mLと分類されます。ビタミンDはAMH遺伝子に結合するため、卵子の数を含め卵子に影響することが知られていますが、ドナー卵子を用いた移植においては、卵子の影響を切り離して考えることができます。2014.4.7「☆ビタミンD不足で着床障害になる?」では、ドナー卵子を用い、その部分をクリアーしました。本論文は、「さまざまな交絡因子を除外」して統計学的処理により、そこをクリアーしています。いずれにしても、ビタミンD低下と妊娠率低下(着床率低下)を示しています。

ビタミンDの基準値をいくつに設定するかに関しては意見が分かれるところですが、米国医学研究所(Institute of Medicine)では20 ng/mL国際内分泌学会(Endocrine Society)では30 ng/mLと定めています。ビタミンDの受容体は、骨や筋肉のみならず、脳、前立腺、胸、大腸、免疫細胞、子宮、卵巣にも存在することが明らかとなっています。

ビタミンDと着床の関連についての理論的背景を考察すると、非常に興味深いいくつかの事実があります(多くは動物での研究です)。
ビタミンDが胚と子宮内膜のコミュニケーションに必要であること
 胚が産生するIL-1βに反応して子宮内膜から1α-ヒドロキシラーゼとカルシトリオール(活性化型ビタミンD)が産生されます。カルシトリオールは子宮内膜のビタミンD受容体に結合し、カルビンディン、オステオポンチン、HOX10A遺伝子を調節しますが、これらの遺伝子は着床や胎盤形成に重要な役割を担っていることが知られています。また、HOX10A遺伝子とビタミンDは、着床直前にパラレルに発現されます。
ビタミンDが免疫調節因子であること
 カルシトリオールが子宮内膜のT細胞機能やNK細胞を調節すること、習慣流産の方の子宮内膜から産生される異常パターンのサイトカイン産生をカルシトリオールが抑制することが報告されています。
ビタミンDがホルモン調節因子であること
 カルシトリオールはhCG分泌を調節し、さらに、E2とPの分泌も調節しています。胎盤におけるビタミンD受容体と1α-ヒドロキシラーゼの発現は、妊娠初期~中期にかけてパラレルに増強します。1α-ヒドロキシラーゼの発現異常は、胎盤の形成不全から妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)を引き起こすことが知られていますので、ビタミンDと胎盤形成の関連を示唆します。

ビタミンDは、男女とも生殖に非常に大きな関連があります。下記の記事を参考にしてください。
2012.10.19「AMHとビタミンDの関係 その1」
2012.10.20「AMHとビタミンDの関係 その2」
2012.10.22「AMHとビタミンDの関係 その3」
2012.11.2「ビタミンDの必要量は?」
2012.12.6「ビタミンDの効用 男性編」
2012.12.8「ビタミンDの効用 女性編」
2012.12.10「ビタミンDの効用 妊娠—授乳編」
2013.2.5「白人ではビタミンD濃度が高いと体外受精の妊娠率がよい」
2013.3.25「冬に妊娠すると赤ちゃんの骨の成長が悪くなる」
2014.3.17「☆ビタミンD欠乏は不育症のリスク因子です」