☆乳製品は精子に悪い?? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今回ご紹介する論文も衝撃的な内容です。乳製品には大量のエストロゲンが含まれており、その摂取量増加に伴い精液所見が悪くなることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2265(米国)
要約:2009~2010年に行われたロチェスター若年男性スタディーの189名(18~22歳、健康、運動は週に平均10時間)の乳製品の摂取状況と精液所見を横断調査しました。年齢、禁欲期間、人種、喫煙、BMI、運動の状況、テレビ視聴状況、総カロリー数で補正し、回帰分析を行いました。全体の乳製品の摂取が多くなると、精子形態の異常が増加しました。特に、全脂乳製品の摂取において顕著であり、摂取が少ない方と比べ摂取が多い方では、正常形態精子が3.2%有意に減少しました。また、全体の乳製品の摂取が増えると、直進運動精子が減少しました。

解説:WHOの調査などによると、世界中の男性の精液所見はどんどん悪くなっています(2013.2.16「☆人類の精液所見は悪化している」を参照してください)。この理由として、運動しなくなったこと、座位、食事、環境ホルモンの関与が考えられています。環境ホルモンは女性ホルモン(エストロゲン)様作用を持つ訳ですが、乳製品には大量のエストロゲンが含まれています。そこで、乳製品の摂取が精液所見に影響しているのではないかと考え本研究が行われました。本論文は前方視的研究ではありませんので、因果関係について言及することはできませんが、乳製品の摂取は精子によくないことを示しています。

現代の畜産業では、牛乳は時期の異なる妊娠中の牛(約75%の)と妊娠していない牛の乳をミックスしたものです。米国では、肉牛にはエストロゲンの入った飼料を与えていますが、乳牛には与えていないということです。しかし、妊娠中の体内ではエストロゲン、プロゲステロンをはじめインスリンなど多くのホルモンが大量に産生されています(妊娠中にいかに大量の女性ホルモンが産生されているかは、2013.5.27「☆女性ホルモン剤を使うのは心配ですか?」を参照してください)。これらのホルモンは乳汁中にも移行しますので、乳製品には大量のエストロゲンが含まれています。実際に欧米諸国では、全体に摂取されるエストロゲンの60~80%が乳製品由来となっています。げっ歯類(マウス、ラットなど)のモデルでは、牛乳によるエストロゲンの影響は認められませんが、ヒトでは乳製品の摂取に伴い男の子の血中および尿中のエストロゲン、プレグナンジオール、IGF-1(成長ホルモン)などが増加していることが知られています。また、大人の男性では、乳製品の摂取に伴いテストステロン(男性ホルモン)、LH、FSHの減少が認められます。つまり、「乳製品摂取→エストロゲン↑、テストステロン↓→LH↓、FSH↓→精子形成↓」というストーリーとなります。

なお、全脂乳製品(full-fat)には、牛乳、チーズ、クリーム、クリームチーズ、アイスクリームがあり、低脂肪乳製品(low-fat)には、低脂肪牛乳、ヨーグルト、カッテージチーズが含まれます。

「牛乳は身体に良い」といわれていますが、良いことばかりではないことを示しており、男性には要注意です。それにしても、妊娠中の牛から作られているとは、、、これは非常に驚きの事実です。米国産の牛肉にエストロゲンが大量に含まれていることは有名ですが、牛乳までもがエストロゲンを大量に含むとは、本当に衝撃的です。昔の畜産業では、妊娠中の牛を使っていなかったようですから、いつからか悪い方向に変わってしまったのですね。おそらく、生産量を安定させるためなのでしょう。余談ですが、米国の牛乳には砂糖が入っていますから、就寝前に飲む場合には飲んだ後にきちんと歯を磨かないと虫歯になります。

エストロゲンについては、下記の記事も参考にしてください。
2013.2.7「☆女性ホルモンのサプリは本当に健康によいか:米国編」
2013.2.13「☆女性ホルモンのサプリは本当に健康によいか:日本編」