桜の花が散り始めた頃、、鹿児島から右田のおばさんと息子の一郎さんが、上京してきました。
祖母の妹で、鹿児島の町で
医者をしていた夫が亡くなったので、家をたたんで姉に当たる祖母をたよって東京に出て来たのです。
おばさんは、祖母によく似て、鼻がつんと高くて、口元が引きしまってスラリとしたきれいな人です。
祖母は、おばを「おすんさあ(おすみ様)」、一郎さんを「一郎どん」と呼んでいました。
一郎さんは、二十歳の青年で、やさしいお兄さんでした。
二人は、二階の卓伯父さんの部屋に、しばらく居る事になりました。
一郎さんは、家に居る時は弟や私とよく遊んでくれました。
私は、勉強も教えてもらいました。
何日か経つと、母が一郎さんを連れて、父の知り合いの人を訪ねて職探しに出掛けました。
しばらくして、一郎さんは逓信省にお勤めが決まりました。
二人は、とても喜びました。
そして、大井町に小さい借家を探して、親子で越して行きました。
一郎さんは、「正ちゃん、そげん遠か処でもなかよ。遊びにおいで」と云ってくれました。
でも、私はまた淋しい思いをしました。