学校が冬休みに入って、兄の下宿に遊びに行くと、兄が
「十二月二十四日のクリスマス礼拝に行くかい」と聞きました。
「どこであるの?」
「明治学院のチャペルだよ」
私は「行きたいわ。大崎教会の子供のクリスマスは二十五日だからちょうどいいわ」
「それじゃ、あさって六時迄にここにおいで。晩ごはん食べてね」と云いました。
二十四日の晩、私だけ先に姉にご飯にしてもらって、兄の処に行きました。
兄はもう支度をして待っていました。
学生服の上に、黒いマントを着て毛糸のえり巻を首に巻いて、手袋をしてマスクをしていました。
兄はとても寒がり屋なのです。
「お兄さん、目だけしか出ていないわね」と云って笑いましたが、私もお正月用に買ってもらった毛糸のボテボテのジャケットの大きめのを着てえり巻をして手袋をはめて、くつしたの下にはモモひきをはいて、「これじゃあ、転んでもけがはしないわね」と云って二人で出かけました。
会堂に着くともう大勢の人がきていました。
でも、大勢いるのに静かでした。
チャペルの中も満員で、やっと席を見つけて二人で腰掛けました。
奏楽が始まりました。広いチャペルにオルガンの音が響き渡りました。
兄が、「パイプオルガンだよ」と耳元で小さい声で教えてくれました。
ステージの下の左側から音が聞こえてきます。よく見ると、何だか人の頭が出たり引っ込んだりしているのです。
兄がまた私の耳元で「パイプオルガンだから、小遣いさんが空気を入れているんだよ。」と云いました。
大崎教会で、大人の礼拝の時に聞いた佐藤先生の奏楽も良く響いて厳かに聞こえますが、今夜のこのパイプオルガンの音は、胸の底に染み込むような何とも言えない神々しい音に聞こえました。
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