65、仮通夜
父の葬式は、一週間後と決まりました。
警察の都合とか、内地から来る人達の都合と云はれていました。
人間は、嬉しくても悲しくても食べることがついて廻ります。
台所は、刑事さんたちの奥さんたちの手伝いで、お正月よりももっと忙しくなりました。
煮物をしたり、お酒のかんをつけたり。
屋敷では線香の煙の立ち上るそばで、男の人たちがお酒を呑んでいました。
みんな父の話をしていました。だれかが「署長さんは死に花を咲かせなさったなあ」と云いました。私は、父の足元に居て話を聞いていました。
「死に花ってなんだろう」
少し経ってオンドルに行きました。
奥さん達が、台所の仕事が一段落ついてお茶をのんでいました。
山本さんの奥さんが「奥さまはお気の毒にね。お若いのに・・・でも署長さんは死に花を咲かせなさったわね」と云っていました。
父はどんな花を咲かせたのでしょう。
死に花、私もうすうすはわかりました。
死に花を咲かせた父はいいけれど、残された私たちはどうなるのでしょう。
かわいそうな母は、こんな遠い所で、四人の子供をかかえてこれからどうするのでしょう。
父は四十九才、母は三十八才です。