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64、父の死(その5)



座敷に入ると、父は北枕に顔に白い布をかけて、布団を逆さにかけてねていました。

母と姉がそばで泣いていました。おじさんが父の顔の上の布をはがして、私に「お父様は冷たくなってしまわれた。」と云って見せてくれました。

父は蝋人形のような顔絵をして目をつぶっていました。

少し開いた口には、綿をつめられてその隙間から金歯がのぞいていました。

手は胸の処に組んで!

私は涙なんか出ませんでした。少し父の顔を見て、姉のそばに行きました。姉は私の髪をなでながら泣いていました。私は「お父さんは死んだんだ。愛子ちゃんも産まれたばかりの赤ん坊も死んだんだ。これで三度目だ。」なんて考えていました。

やがて知らせを聞いて駆けつけた人達で家の中は大騒ぎになりました。