第十五話 「女王様の条件」



黒子がこの船のシステムを乗っ取るのに


然程時間がかからなかった


盗聴にも仕掛けをして


私たちの言葉は彼らには届かないとなると


比美加が私に顔を近づけて囁くように


「ダメよまる」


そんな言葉を投げかけてきた


「一体何のことを指している?」


「あなたの事だら冷徹に何人助けられるか、誰を見捨てるかなんて考えているのでしょうけれど、それはダメよ、ここにいる全員で脱出するの」


最初意外に思った


比美加はとても合理的に物事を判断して


現実的に答えを導き出すタイプだ


今まで彼女の判断で間違えた事など私は知らない


なのに、こんな精神論をぶつけてくるなんて


しかしよく考えてみると


彼女は誰も傷つけない選択をいつもしてきた


どんなに厳しい条件化でも


その中の僅かな可能性を導き出して


見事実現するずば抜けた実行力も持っている


それだけではない


比美加の高飛車な態度からは想像もできないが


まるで深い母性のような愛情を頭で理解できなくとも


心が感じてしまう


少なくともそれは、ここにいるクラスメートの行動が証明している


結局誰もが彼女を支持していく


ただ気位の高いだけの女王様とはわけが違う


クラスメートだけではない、生徒会長として彼女が学校全体に


多大な影響力を持っているのも


彼女の心の根幹に、この深い母性のような愛情があるから


それに突き動かされてしまうからだろう


私が動いているのはそれに動かされているわけではないのだが


比美加は誰一人見捨てることは出来ない


これは、彼女の魅力であると同時に最大の弱点でもある


彼女を見ていると


名家で金持ちのお嬢様が


何不自由なく暮らしてきたとは思えなくなった


むしろ背負うべきものが大きいのだと言う事も思い知った


自分の最愛の人への気持すら犠牲にするくらい


彼女は全体の幸せを考えて行動してしまう


だけど、世の中にはそんなきれいごとが通用できない場所もある


私は一瞬の判断ミスによって命を落とす環境で暮らしてきたから


この中で誰が生き残れる可能性が高いのかまで感じ取れる


それでも、それは可能性でしかない


私の一つ上の兄は、私たち兄弟の中で最も能力が高かった


しかし、一瞬の判断ミスによって命を落としてしまった


兄弟の中で最も能力が低い私が、まともとは言えないまでも生き残っている


三番目に優秀と言われた兄は心の半分を犠牲にして生き残り


天才的な頭脳を持っていると言われた弟の心は既に壊れている


蓋をかけてみなければ、何事も判らないが


死線を何度も乗り越えてきた事で


ある種の勘のようなものが養われてきた


その勘が指し示すものは、


今度の相手は、私たち一人残らず脱出する事を許してくれるほど


なまやさしい相手ではないということだ


「あの女兵士は、何かを企んでいるいるわよ」


比美加が唐突に、とても興味深い仮説を言った


「面白い聞かせてみろ」


「まるあなたねぇ~少しは口の利き方を考えなさい」


「お説教は後で聞くから本題を話してくれ」


まったくメンドクサイ奴だ


「西園寺家は名家といっても戦略家が多い家系なのね、その中で生まれ育ったせいか、私は謀略や、何かを企んでいる人は何となく感じ取れるようになったわ」


私は人間の持つ勘というものは


時として推理力よりも的確に物事の本質にたどり着けると信じている


それは持って生まれた感性だけでなく


多くの体験によって、それを経験にする過程で勘が養われてくる


勘とは持って生まれた感性が体験によって鍛えられ


それが蓄積された実力によって生まれる一つの能力だと思う


第六感とは違うものだ


比美加の勘がそれを示しているなら


彼女のその企みを利用する事で私たちの生存率を高める事が出来るかもしれない


「しかし、問題は彼女が何を企んでいるのかだ」


「私は人が誰かを裏切る時に特有の雰囲気を出しているのを感じる事が出来る、西園寺家も何度か裏切りにあったけれど、私のこの勘によって回避できた」


「彼女は自分の国を裏切るというのか?」


突然話に参加してきたのは、矢部健吾だ


「それは考えにくいわね、でもね、人を裏切る人間は一つの種類ではないわ、例えば誰かに脅されて裏切るものもいる、或いは相手を憎んでいるから裏切るものもいる、自分の利益のためにだけ裏切るとは限らないわ」


「それで、私怨で彼女は裏切ると?」


府川が参加してきた


「それが一番近い感じがするわ、ただ憎しみとは少し違う気もするのだけれど」


近いという表現は的確かもしれない


誰かに対する憎しみには、私が誰よりも敏感に感じ取れるはずだから


彼女からは深い憎しみのようなものは感じなかった


しかし、国を裏切るわけでも、誰かに対する憎しみでもないとしたら


裏切りの理由が見えてこない


人がしでかす事を推理する場合


もっとも重要視すべきは動機なのだが


彼女の心の奥にある何が、裏切を芽生えされたのか


それを知る事が出来れば、一体誰を裏切るのかが見えてきて


それを利用する事も出来るかもしれない


突然海猫深が笑い出した


「一体何がおかしいんだ」


矢部が怪訝な顔で言うのも気にした様子もなく


「裏切り談義があんまり面白いもの」


ケラケラと彼女が笑うと


滅多に笑わない黒子も笑った


「簡単な事だ、海猫も私も仕事をしているので、簡単にわかる」


仕事をしているから理解できる


「仕事をしていない、お前達には見えてこないのか、いやそれないね、矢部あなた、気に食わない先輩はいる?」


「そりゃあ~新川先輩だ、アイツは頭が固すぎるし、自分が部長に選ばれなかったからって俺に嫌がらせしやがる」


「俺は美河部長だ、一年生を苛めて楽しんでいる所が気に入らない」


船酔いか、テレポート酔いか判らないが蹲っていた呻っていた


柿崎も参加してきた


「つまり彼女の上官ね、余程酷い上官に違いないわ」


海猫深は眉間にシワを寄せて言った


その顔と言いようがあまりに面白かったのでみんな大笑いした


「ほわーい、何笑っているの?」


「海猫、お前最高、笑える」


「あら」


海猫深は人に褒められるのが大好きのようで


褒められるなら理由などどうでも良いといった感じで喜びの顔を見せた


それがおかしくて、またみんなは笑ったが


私は自分の心の中の生存率が跳ね上がったのを感じていた


彼女の上官は、恐らく彼女の美学に反すると考えれば


例え上官であろうと、排除するという答えに辿り着く


私たちが逃げられるチャンスがあるとすれば


彼女が上官を罠に嵌める事に乗じて船を奪いとり逃げ出す


何のことは無い、


上官を罠に嵌める為に、私たちに逃げるチャンスをくれたのだ


つまり私たちは彼女に利用されているに過ぎない


しかし、それでも逃げられるチャンスが生まれるのも事実だ


今の彼女は任務よりも、その事に絞り込んでいるはず


全力でその事に当たらねば、とても上官を倒すことはできない


「上官と戦うなら、船を奪い取って逃げる私たちを追いかける余裕なんて無いでしょうから、船の中に全員逃げ込むことさえ出来れば、助かるわ」


比美加の希望的な言葉にクラスメート達は奮起した


矛盾は無い・・・・なのに、何か違和感を感じる


もっと考えなければならない事があるのではないか?


相手は軍人である事、それにどんな罠を上官に仕掛けるつもりなのか


そのとき私は恐るべき可能性を思いついてしまった


あの女兵士がもし、逃げる私たちを囮に使うとしたら


私たちの生存率は激減する


上官を倒す為に私たちを生贄に捧げるつもりなら


皆殺しに遭うのは必定だ


私は希望と喜びに満ちているクラスメート達に


この最悪なシナリオをどう披露すべきか迷った


すると比美加がちらりと私を見た


そうか、比美加もその可能性を見つけ出したんだ


しかし、それをみんなに言えば、絶望感に打ちのめされたみんなは


恐怖でパニックを起こすかもしれない


そこで、今は何も言わないと判断したのだろう


しかし私はそういった隠蔽体質が大嫌いなのだ


私は比美加に首を横に振って見せた


「まるっっあなた」


それからテーブルの上に乗って注目させた


「みんな良く聞け、ぬか喜びしている場合ではない、あの女狐兵士は私達を逃がすと見せかけて囮にするつもりかもしれないぞ」


私の言葉を理解したものから顔色を変えて行く


こんな所でパニックを起こしてしまう奴等が


この危機的状況を乗り越える事なんて出来やしない


「まる、あなた一体何を考えているの?」


「知れたこと、それを逆手にとって見事脱出してみせる」


そうだ、ここから先は私の領域だ


絶望的な危機的状況こそ、私が子供の頃から育ってきた家庭という世界


私はその絶望を肥やしに生き残ってきた


「まる、お前本当にそんな事が出来るのか?」


「今はサッパリだが、必ず見つけてやるさ」


「あなたって何処まで正直に出来ているの?、知らない方が良い事だって世の中にはあるものよ」


「それだ、私が最も嫌悪する考え方は、人は知るべきなんだよ、それがどんな酷い現実だとしてもな」


「人は希望が無ければ生きていけないわ、希望の火が心にともっている限り道は開けてくるのだから」


「そんなニセモノの希望の中にいて、活路なんて開かれるものか」


「無神経すぎる、世の中の人全てがあなたのように強くは無いのよ」


「世の中の人なんて知らない、だけどなこいつらがこれくらいでパニック起こしてどうにかなる玉かよ」


私の言葉にみんなが反応した


「俺はこんなところで消されるつもりは無い」


府川が最初に答えた


「そうだ、俺達はまだ生きているから希望は捨てない」


柿崎は私に対する敵意の目を向けながら自分を誇示して見せた


「俺達は絶望的な状況ではある、が、それだけだ、抜け道のないものはこの世にはないからな」


矢部も私にふくむ所がありありの態度だが


カラ元気だとしても、すくなくとも現状から逃げず立ち向かう姿勢になってきた


「あらあら、おもしろそうな事になってきたじゃない」


海猫深は今の状況を把握している訳ではないが


彼女も現状から逃げる体質ではない事は確かだ


黒子は・・・相変わらず平然としている


「それなら、早急に次の手を考えましょう、囮になると想定して、私たちが逃げられる可能性をね」


比美加の言葉にみんなは共鳴するように


一つになって行く


やはり彼女は女王様なのだと認めざるをえない


ならば、私は彼女では歩けない道を歩いて行くとするか


特異体質が誰なのかを見極めること、


それが今回の危機的状況の突破口を開くカギとなる


「黒子お前が何を企んでいるのか判らないが、私の邪魔だけはするなよ」


「それは保障できないね、私はあなたの事は気に入っているけれど、お互いの目的が反目する場合、敵になるね」


「面白い、私の前に立ちはだかるものは何ものも叩き潰してやる」


「仕方ないね、それは望まないけれど、やるからには容赦しないね」


黒子は最初からこの状況を想定していた


いや、自ら進んで入り込んできたのかもしれない


「それはそれとしてだ、おまえは特異体質が誰なのかわかるか?」


「それは私も調べているのだけれど、ネットの世界にも情報が無い、つまり世の中にまだ知られていないのだろう」


「そうか」


黒子が敵となるか、このまま協力関係を維持できるのかは判らないけれど


今の所はまだ敵ではないのだから問題はない


私は今になって気がついてしまった


問題なのは比美加だ


アイツは何処まで私と反目するつもりなんだろう


少なくとも今回の事で私に大きな課題を背負わせやがった


全員でここを脱出する


こんな非現実的な夢物語を実現しろだと?


だがこれを実現できないと、私は比美加を失ってしまう事になる


比美加は例え自分を犠牲にしても、最後の一人が救われるまで


逃げたりはしない


比美加の命を守る為には全員助かる道を見つけ出すしかない


あのやろう、自分を人質に私に脅しをかけていたんだ


「私の命を助けたければ、ここにいる全員を脱出させなさい」


比美加の企みが嫌と言うほど私の心に突き刺さる


なんて卑怯なやり口だ


「この卑怯者めっっ」


「何とでもおっしゃい」


あの不敵な笑顔は本当に腹が立つ



だけど第三の道を探すしかないようだ


結局私は比美加を無くすわけにはいかないのだから



つづく


第十四話 「密約」


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やややΣ(@@;)


なんともややこしいことにまたなってしまいました(--。。


主人公やキャラの考え方が


必ずしも私の考え方と一致するわけではありませんΣ(@@;)


それに、登場人物がみんな同じ方向を向いているのって


なんかとっても不自然なように感じてしまいます


これも私のクセなのですね(--。。


キャラの生き様あくまでキャラ自身で決めて欲しい


たとえそれで、話がどんなにややこしい事になっても


なんて思ってしまうから


書きながらヴキャ~、どうすんのこれ?Σ(@@;)とか叫んでますよあせる


今まさに、この先どうしようと立ち尽くしているわけですヾ(@^(∞)^@)ノ


・・・・・汗


運よく続きが書けましたら


よろしくですあせる



まる☆