第十四話 「密約」



一瞬にして世界が変るなんて体験は初めてだった


丁度比美加と討論の最中に


三人が現れたかと思うと、次の瞬間に船の中にいた


これがテレポートという奴なのだろう


黒子の応接室のソファーの肌触りの感覚がまだ残っているまま


突然ソファーが消えたように尻餅をついた感じだ


ところが、辺りの景色は一変している


潮の香りが突然鼻に入り込んできた


微かな揺らぎは、一度乗ったことのある船と同じ感じだったので


私たちは今海上を移動中だと認識するのに時間はかからなかった


気分を悪くして柿崎は吐いている


相方の府川も流石にジョークの一つも出てこないようだ


矢部は今の状況を把握しようとしている


少しは冷静な所はあるな


海猫深は、初めての体験に刺激を受けたのか大騒ぎして喜んでいる


アイツは頭で判断するより心で感じるタイプだから


今どんなに危険な状態かは感じ取っている筈だが


それ以上に芸術的な感性が勝っていて


恐怖より、好奇心や新しい体験に感動しているようだ


郷田が居ないのはラッキーだった


良いときに風邪を引いてくれたものだ


あいつがいると話がややこしくなるからな


それより気になるのは黒子だ


まるで、今の状況になる事は予測していたかのように落ち着いている


どちらかと言うと黒子も海猫深のように、はしゃぐタイプだと思うのだが


そこまで考えて、私は首を振った


相手の事を知れば知るほど


逆にその事が色眼鏡になる可能性もあるのかもしれない


人間実際の所は、その状況になって見なければ判らない


色眼鏡と言うものは、その都度外さないとならないようだ


それは気がつけば、自分の目の前にあるものだと認識した


「だから、言ったのよ手を引きなさいと、この状況を招いたのはあなたの判断だと自覚なさい」


比美加は相変わらず、こんな状況でも口うるさい


だけど、それだけ冷静に状況判断が出来ているのだから心強くもある


それにしても、私等が拘束されていないのは


あの三人にとって取るに足らない子供だと判断したからだろうか


ここは海の上で、逃げられる心配が無いと考えたのだろうか


いずれにせよ、その油断に付け入る隙はありそうだ


あの三人組は、比美加が言っていた


グバザルーン共和国のスパイDDK03の可能性が非常に高い


しかし奴等が能力者だとはな


悠里やさっきまで居た能力者たちとこのDDK03と呼ばれる連中


全て能力者だとすれば


悠里がなぜこいつらに絡まれているのか大よその察しがつく


状況から見て悠里を確保している連中と、こいつらとは明らかに別組織だ


この中で可能性が高いのは


悠里を確保した組織とこいつらが争っていて悠里が巻き込まれた


いやそれなら詩織も巻き込まれていたはずだ


それにしても詩織が何故奴等に見つからなかったのだろう?


「ちょっとまる、話を聞いている?」


「少し待っていろ、今考えているから」


「まぁ~こんな状況未だに理解できませんの?」


「お前は理解できているのか?」


「DDK03の狙いは能力者たちだと思えば簡単な事ですわ」


成程流石は比美加だ


「奴等の狙いは能力者狩り、つまり能力者を誘拐して洗脳して兵士にでもするつもりでしょ」


比美加がそこまで言うとドアの向こうから拍手が起こった


「凄い推理力だ、とんだハズレを掴んだと思ったけれど、面白い収穫だったかもしれない」


ドアを開けて女の兵士が入ってきた


見事なまでの赤毛と、ブルーの瞳が違和感を感じる


「あなたもそう思う?私に会った者は、みんな私の目の色と髪の色に関心を持つみたい」


どうやら、気を失った奴と同じテレパスのようだ


「気を失った?」


彼女はチラリと私を見た


その瞬間私は、こいつは私と同類のような感触がした


「あなたは本当に日本国人なの?この平和な国ではありえない過去を背負っているように感じる」


彼女は私に顔を近づけてきた


どうやら、私に近い過去をこいつも背負っている


この前気を失った奴とは、全然違う種類の人間だ


「あなた、テレパスの攻撃を跳ね返したようね」


怪しい微笑みの目の奥にケモノの光がちらりと見えた


「でも、私はその相手と同じと思えないでしょ、日本国育ちの甘っちょろいテレパスとは訳が違うのだから」


流暢な日本語はとても柔らかく響くが


その中に鋭い棘が私の心に刺さるのを感じた


「面白い試してみるか?」


「ちょっとまる止めなさい」


比美加の気持は感じるが、私は面白いと思ってしまった


「そんなツマラナイ事は望んでいない、私が知りたいのは情報だ」


更に私に顔を近づけてきた


こいつは正真正銘の軍人だ


一切の無駄を排除するように訓練されている


その為私の挑発には決して乗らないと理解した


「自慢のテレパシーで私たちの心を読み取れば事は澄むのではないか」


「そうしたいのはやまやまなのだけれど、この中に特異体質が紛れ込んでいて力が存分に使えない」


特異体質とは何だ?


「簡単に言ってしまえば、我々の能力を弾いてしまう体質で、それだけでなく近くにいるだけで、能力が狂わせてしまうって困ったしろものだ、そのお陰でテレポートを見合わせてのんびり船旅をさせられている」


そんな便利な体質があるのか


それで、詩織たちの存在も確認とれなかったのだろう


「詩織とかいう子もいたんだな、別室に居たなら問題はないが、後で始末させてもらうよ」


しかし、特異体質が誰なのかまでは判らないらしい


「その通り、だからこそ厄介な相手なのだけれど、逆に我々にとっては武器にもなれる」


「成程、私たちが未だに消されないのは、その特異体質が居るからと言う事が」


「ご名答、でもそれが判明したら他の連中はみんな始末させてもらう、必要なのはその特異体質一人だけだから」


「ところで、その特異体質が誰なのか判別する方法はあるのか?」


「後二人、思念波を操る仲間が、今向かっている島に集まる手はずだ」


「テレパス三人がかりでやっと判別できるというわけか」


「他に質問はある?なければ今度は私が質問するよ」


能力を充分に使えないから、心を読み取るよりも


質問する事にしたらしい


「お前は、この中では我々に近い思考をするようだ」


澄んだブルーの瞳に私の顔が見えた


私の思考がこいつらに近い?


「一体何がおかしい?」


私は思わず笑ってしまった


「一つ教えといてやる、私の思考がお前達に近いのではなく、お前達に私の思考を合わせているだけだ」


「なんだと?」


「まる止めなさいっっあなたって子はどうしてそう好戦的なのよ」


好戦的なのではない、これは事実だ


「では、お前の思考の根幹には何があるというのだ」


彼女がそこまで言うと突然比美加を見つめた


「お前には判るのか?」


どうやら比美加の奴心の中でつぶやいたらしい


「こいつに根幹なんてものは存在しないだと?」


「そうよ、だからこその変幻自在な思考なのですわ」


「つまり、確固たる信念も、基準となる思考パターンも存在しえない」


そこまで言うと首を振った


「有り得ないな、そんな奴が理路整然とこの状況を把握して的確に判断できるとは思えない」


「そこが私にも理解できないところですわ」


比美加の奴、このテレパスを使って私を分析しようという腹だな


何処までも食えない奴だ


「面白い日本国の若者達はこんなに強かだとは」


その瞬間こいつは敵ではないと感じてしまった


何故なら、一人ひとり心を読めば、読めない相手が特異体質だと判明する


私たちを殺したくないのではないか


私がその答えに辿り着いたときその女兵士は私を鋭く睨んだ


「お前は12人兄弟で、そのうち生き残ったのは3人か」


「私の過去がそんなに気に入ったのか?」


別に隠しているつもりは無いが、


普通の中学生に聞かせるには少しばかり刺激が強すぎる


黒子以外は、驚きの顔で私を見ている


「面白いね、お前の過去は我々に近い日本国人なのに、まるで同胞と出会えたように感じる」


「お前達というより、お前が私に近いのではないのか」


明らかにこれは彼女の警告だ


彼女の意図を口にすれば、私の全てを丸裸にしてやるぞという


何故そんな事をしなければならないのか


それは、彼女の意志と仲間達の意志は一致していない可能性を示している


だから私も確認のために彼女に伝えてみた


「そうね、同じ国の軍人でも個性は違う、私はお前が気に入った、今の所はな」


ここらへんが限界なのだろう


ここでの会話は他の二人に聞かれていると思って間違いない


どうやら、比美加と黒子には


私と彼女の密約を解読できたようだ


少し落ち着きを取り戻した顔になった


理由は判らないがこいつは


今のところ私たちに逃げるチャンスを作ってくれるようだ


ただし、そのチャンスを生かす事か出来なければ


その特異体質者以外は、確実に消されてしまう


それでも私一人なら何とかチャンスを作る事は出来るだろう


だけど全員助かるなんて虫の良い事が可能な相手では無い


その事はひしひしと感じている


恐らく無人島に向かっているのだろう


チャンスがあるとすれば、島に到着して奴等の仲間が


やってくるまでの間


この船を分捕り逃亡する事位しか今の所浮かばないけれど


「ところで、日本国の能力者についての情報を提供してはくれないか?」


それが交換条件と言う事か


残念ながら、ここに居る誰一人その情報を持っているものはいない


彼女がその情報目当てで助ける取引をしているのだすれば


私は選択しなければならない


クラスメート全員を助けられる確立は限りなくゼロに近い


唯一希望があるとすれば


特異体質者の存在になるが能力者ではない私には


それが誰なのかすら判らない


少なくとも黒子は違うだろう


「だんまりか、良いだろう時間は幾らでもある、島に着いてからじっくり話して貰うぞ」


違った


こいつの目的は能力者の情報でもないようだ


同時に彼女の目的が見えなくなった


私たちを助けたところで彼女には何の利益も無い


一体何を考えているのだろう?


私は生まれて初めて不気味さを感じた


その相手を見送ると、比美加が近づいてきた


「能力者の情報をネタに取引できないかしらね」


これは間違いなく比美加の芝居だ


盗聴されている事に気が着いたようだ


比美加は目で黒子へ意識を促した


先ほどから後ろ向きで座っている黒子は間違いなくタブレットPCを改造した


モンスターマシーンでこの船のセキュリティーシステムを乗っ取ろうとしている


ということだろう


脱出の確率は少し上がったな


もっと大きな罠を仕掛けているかもしれないが


今のところ私たちの生存の確率が最も高い


あの女兵士の協力を信じてみることにしよう



つづく



第十三話 「手のぬくもり」



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これで、第十三話に繋がりますねヾ(@^(∞)^@)ノ



まるの過去はアメブロでは厳しいので


これ以上触れないつもりですが・・・


弟がもう一度出てくるかもです


その時、少し触れる機会があるかもですねΣ(@@;)


でも全ては明らかにならないので期待しないで下さいね(--。。


そんな期待している方はいないかもですけどね(>▽<。。)ノ))



まる☆