第十三話 「手のぬくもり」




生まれ始めてテレポートというものを体験した


一瞬にして周りの空気が変る


肌で感じる気温も空気の柔らかさも匂いも


体がその変化に対応しきれていない感じがする


鳥肌がたったのは、ここが今までいた応接室より気温が低いからだけではない


湿度も少しある、自然の声が近い


ここはどうやら、山中だと感じられる


誰かの別荘だろうか


いくつもの思いが流れ込んでくる


ここには少なくとも十人以上の人がいる


自分の能力に対する封印が解けているわけではない


黒子によってPCと連動する能力の使い方を知ってから


封印の効力が弱まってきている気がする


何故だろう?


しかし悠里の感覚がここには感じられない


「悠里はここにはいないの?」


「君は大丈夫なんだね、初めてテレポートを体験して気分を悪くする奴もいるんだけれど」


小次郎が心配そうに話しかけてくれた


「あらテレポートして直ぐに話しかけられる人もいるのね」


小夜は驚いたようにボクを見た


ボクは今時珍しい柱時計を見て


テレポートして数秒しか経っていないのだと知った


ボクには数分間くらいに感じたのだけれど


時間的な感覚も狂ってしまうのだろうか?


しかし、ボクの質問に誰も答えてはくれない


暫くして三人入ってきた


播磨新に土岐薫、見本美紀三人ともボクと同い年位に見える


どうしてだろう、三人の名前まで感じ取れる


「祥子様がお呼びです」


土岐薫が言うと、他のみんなは顔を見合わせた


「大丈夫、あなたがここにくる事は祥子様は既に解かっていましたから」


見本美紀がボクに話しかけてきた


解かっていたというのは、どう言う事なのだろう?


ボクは小次郎を見た


すると、祥子様の能力は未来予知だと感じられた


何故だろう、自分の能力を封印している事は自覚できている


なのにみんなの気持や考えがいつもより鮮明に感じられる


しかし、そんな謎も祥子様と会う事でハッキリするような気がする


三人に導かれるままボクは、奥の部屋に入った


長いテーブルの向こう側に一人の少女が座っている


見ただけでボクと同い年だという事が解かった


何処となく黒子に似ている


透き通るような白い肌のせいだろうか?


目鼻立ちは全然違うのだけれど


彼女は手で座ってと促したので


僕たちは彼女の右横の席に着いた


暫くして、イメージが心に閃いて来た


そのイメージは少しずつ言葉のようなカタチになっていく


(・・・キコエマスカ?・・・)


そのイメージに意識を集中させていくと、言葉のように聞こえてきた


(・・・私は、幼い頃に聴力をなくして、話せません、不愉快かもしれないけれど、テレパシーで話す事を許してくださいね・・・)


少しずつ彼女の背負ってきた過去が流れ込んできた


殆どが闘病生活だった


「おい君は何故泣いているんだ?」


小次郎に言われて初めて、ボクはまた泣いてしまっていると気がついた


(どうやら、あなたには私の過去がみえるのですね?)


ボクはゆっくりと頷いた


(私の寿命は子供の頃に尽きているのですが、少し無理をして生きています)


「そんな事が出来るのですか?」


彼女はゆっくりと首を横に振った


(理由はわかりませんが、私は生かされているのだと認識しています)


「生かされている?」


(やらなければならない事があるからです、それを果たすまで、いなくなるわけにはいないから)


何だろう、ボクと同い年なのにボクなんかより遥かに辛い人生を送ってきた


それがまるでそよ風のように優しくボクに流れ込んでくる


みんなは驚きの顔で僕を見ている


多分祥子様のテレパシーはみんなに感じ取れているのだろう


(あなたの力はとっても危険だと自覚して下さい、悪用された場合世界を破滅へと誘うことも出来るからです)


「ボクには、そんな大それた事なんて出来ませんよ、心だって決して強くない」


(あなたは自覚して下さい、あなたは弱いのではなく強すぎるのです)


ボクが強いなんて、考えられない


子供の頃は悠里に助けられ


今はまるに支えられている


(まると呼ばれる方は決して強いわけではない、より自然に近いだけ、それは逆に人間の世界に遠いから強く見えるだけです、人間は長い時間をかけて大自然と違う道を歩き出していて、今や異なるカタチになってしまいました)


不思議だけれど彼女の言葉は自然に受け止められる


まるは大自然に心が近いから、人間の世界では異物のようになっている


(これは稀なケースだと思います、もっとも自然界に遠い歪んだ中から生まれて、自然界に近い存在になった、ある意味奇跡だと言える、しかし彼女は同時に大自然と相反する獣を引き受ける事になりました、彼女が自然に近い存在になる為には必要な対価なのですが、彼女はそのケモノと生涯向き合わなければならないでしょう)


時折まるが常軌を逸する行動になるのは、そのケモノの仕業だと言うのだろうか


(彼女が人間として自然界に近い存在でいられる確立は50%、ケモノに侵食されてケダモノになる確率は50%誰にも予測が出来ない)


ボクは知っている・・・


何故だろう・・・判らないけれど彼女の言わんとする事は


初めから感じていた


まるは綱渡りで生きている


「大丈夫だ、まるにはボクがいる」


こんな事今までのボクなら決して口にする言葉ではない


考えた上での言葉ではないけれど


この言葉は僕のありったけの全ての気持ちだ


(あなたには生涯彼女の傍にいて、彼女とともに生きる覚悟がありますか?)


ボクは知っている


最初から、そんな予感がしていた


二年ぶりに再会した時なんとなく


ずっと傍にいなくてはいけないと思った


だけどそれ以上にボクはまるの傍にいたい


ボクの気持ちは祥子様に伝わったのか


ほんの少し微笑んだように見えた


(あなたが彼女と出合った事、そしてあなたが彼女とともに生きる事には意味があります)


「それはあなたの予知の力での答えなのですか?」


彼女は首を横に振った


(予知に答えは存在しない、多くの人は勘違いをしている、答えと言うものはいつでも自分たちの中にあるのです、それが感じられなくなってしまっているから、その心の中にある答えをみつける手助けをする人が必要になっているだけ、予知とは可能性に過ぎない、運命も同じ因果律だけが全てではないのだから)


「運命は変えられるって事ですか?」


(運命は既にあるものではないから、変えるという言葉は当てはまらないけれど、人が歩けば道は生まれてくるのです、その事が理解できれば、宿命だと流されて生きる人はいなくなるでしょう)


もし全てが決められていたなら、人に努力など必要ない


全ては最初からこうなると決められているなら犯罪も否定できない


(人には許されているのですよ、自分の自由意志によって生きる事を、だから人が歩けば道が出来る、それは運命ではなくその人の選択だと自覚しなければ、因縁とよばれる力に飲み込まれてしまいます魔は因果律の背後に隠れています)


つまり、因縁と呼ばれる力に影響されて


その人のトラウマや性格を含めた選択するクセから


最もその人が歩きやすい道を導き出される


だから相当確立の高い道を予知というカタチで示されているのだ


祥子様からイメージが次々に流れ込んできた



だけど、その人がその人らしくない違う選択をする場合


その予知は、外れて違う道を作る事が出来るのだろうか?


(それは一概には言えないのです、因縁と呼ばれるものは、決してなまやさしいものではないから、歩く道すら飲み込んでしまう場合もあります、けれどその場合、奇跡が生まれる可能性も同時に生まれます、奇跡はその人が越えられない試練をそれでも超えようとした時に生まれる可能性が高い)


ボクはまるの顔が浮かんだ


まるは、そんな試練を乗り越えてきたのではないのか


祥子様が言う自然に近い立場に彼女が立つ為には


必ず試練にあったに違いない・・・・


そこまで考えて


ボクは一体何の話をしているのだろう?


でも、まるはまだ大丈夫だという事は感じられる


この人はまるの未来の事を語っていた


つまり、まるはモンスター達に決して消される事は無い


祥子様はゆっくりと頷いた


(彼女を信じて大丈夫です、こんな試練を超えられないようなら、最初からそんな立場になる事は無い、もちろん乗り越えられるかは本人が決めることです)


それなら心配はない


まるは決して諦めない


針が通る隙間さえ見つけられたら、そこから突破口を作り出せる


「まるたちの居場所を教えて頂けますか?」


祥子様は少し考えたようすで、直ぐには答えてくれなかった


(そこへ行けば確実にあなたは打ちのめされるでしょう、その時乗り越えられなければ貴方は魔に取り込まれてしまう、乗り越えられたとき新しい道が生まれるでしょう、あなたはその事を覚悟しなければなりません)


「まるたちを助けられるなら、戦うよ」


ボクはまだその時、打ちのめされる意味を理解していなかった


けれど、まるたちの力になりたい


それだけが今のボクを突き動かしていたから


(乗り越えてくださいね)


彼女がボクの手を握り締めると


彼女が見えている未来のイメージが流れ込んできた


そこは港の倉庫で、今まるたちは船で移動中だけれどそこに辿り着く


(誠司さん連れて行ってあげて)


岸谷誠司が頷くと席を立って歩き出した


その時、祥子様も忘れている記憶が一気に流れ込んできた


混乱して何が何だか整理がつかない状態になったままの状態で


岸谷誠司は無情にもボクのもう片方の手を引いてそのままテレポートした


一瞬にして潮風を感じる


彼はボクをチラリとみると、そのまま消えた


彼は極限まで感情を抑えているのが伝わってくる


決して冷たい人間ではない、むしろ優しいオーラが感じられた


彼の優しいオーラの余韻を感じながら


祥子様から流れ込んできた記憶を整理していくと


それは、ボクの母の子宮の中に辿り着いた


ボクの双子の妹


へその緒が彼女の首に巻き付いて


ボクは必死でそれを取ろうとしていた


生まれなければならない、これ以上遅くなれば


母の体がもたないかもしれない


だけどこのままでは妹は助からない


その時妹はボクを押した


これはあくまで彼女からみた世界だ


ボクが出て行く姿を見ながら意識が遠のいて行く


次の瞬間


ボクが生まれる瞬間を真上から見えた


ボクは光のオーラに包まれていて


彼女には闇のオーラが包み込んでいる


次の瞬間ボクの包んでいた光が彼女を包み込んで


そのまま連れ去られるように


既に息を引き取った、生まれたての女の子の中に入り込んだ


彼女をさらってここへ連れてきた光のオーラは


イメージを彼女に注ぎ込んでいた


それは言葉なのかイメージなのか変らないけれど


彼女の記憶に刻まれていく


彼女にはやらなければならない使命がある


闇のオーラは全力で妹を亡き者にしようとした


だから光のオーラはそれに対して、今回の奇跡を起こすことが出来た


自分の魂が亡骸に宿り蘇生した所から祥子様は記憶がある


だから、それは借り物の体で、無理に生かされている事も理解している


祥子様の魂は・・・ボクの双子の妹として産まれるはずだった


妹の魂は、生まれていたんだね


止まらない、涙が止まらない


ボクは本当に泣き虫でいけない


さっきまでボクの手を握り締めていたぬくもりを感じながら


忘れていた記憶が補完されていく


父と母に教えてあげたいけれど


きっと信じられないだろうし、ボクの能力の事を話さないといけなくなるから


決して話す事は出来ないけれど


妹の魂は、さっきまでそこにあった


ボクの手はまだ、そのぬくもりを感じている


ボクはその手を抱きしめるように蹲って泣き続けた


もっと早く知っていたなら


もっといろんな事を話せたのに


祥子様とはもう二度と会えないそんな予感がするから・・・


これが今生の別れになるかもしれない


大丈夫、もう直ぐまるたちはここに辿り着く


それまでには立ち直るから、もう少しだけ泣かせて・・・



つづく


第十二話 「intertwine」


初めから読む


もっとはじめから読む



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やや、ややや、怪しげな宗教のような話になってしまいましたねΣ(@@;)


この小説はフィクションで出てくる団体も人物も内容も現実のものとは違い


全て架空の、空想の話です


ファンタジー特有の一種の宗教性を構築してみましたが


実際のものではありませんよ~


っていうか、祥子様が勝手に喋りだした感じですね(--。。


実はこの祥子様という存在は


友人が書いた物語の登場人物の一人で


そうとうストイックな話なのですが、彼は、書かないというので


私がこの話貰ったと頂きましたヾ(@^(∞)^@)ノ


ストイックな話だけど、


描き方次第では思いっきりコメディになるのですよ(>▽<。。)ノ))


しかしパー


奴はもう一人のリアともにも、この話をくれてやったらしくって


それで、その子と話し合って、お互い相手の話を潰さないように


相談しながら違う形で書いていこうという事になった


まるでリレー小説のような感じのエピソード付(≧▽≦)


そんな事より・・・


この話を何とかしなければヽ((◎д◎ ))ゝあせる



まる☆