第十六話 「羅針盤は方向しか示さない」




不思議な感覚だ


祖国より遥か遠くの島国に


まるで自分の同胞のような少女に逢うなんて


今まで考えた事も無かった


彼女も我々と同じく実験体にされてきたようだ


無数の拷問にも耐えてきた


でも、彼女を兵士にする目的が見えてこない


彼女をモンスターにしたのは


どうやら肉親らしいが


相当の憎しみが彼女の心の奥に巣くっている


わが祖国ですら、肉親がわが子を実験体にするなんて考えられない


ひとかけらの愛情もなく育てられたにも関わらず


何故人の為に動くことが出来るのだろうか?


私もまた幼少より特殊訓練を強いられてきた


何人もの同胞が実験体として命を落として行くのを見てきたが


他の仲間たちは心を鬼へと変貌させたというのに


私はそうはならなかった


私の心の根幹に、意味の無い殺戮を嫌悪するものが消えずに残っている


軍人は目的遂行を最優先にする為、


意味のない殺戮に無駄なエネルギーを使わない


本来は、そのように訓練されているが


時として大佐のように、心を闇に食われる者もいるようだ


私は、自分の楽しみの為に、或いは私怨の為にする殺戮が我慢なら無い


今までは耐えてきたが、奴の悪行にこれ以上付き合うのは御免被りたい


そこで、日本国の同胞には悪いが


奴等を囮にして、大佐の悪行を暴露させてもらう


奴を軍法会議の場へと引きずり出すためだ


大佐は特異体質を特定できたら、間違いなくほかの子供たちを


おもちゃのように楽しんで始末するだろう


自分の力を試す実験体として利用しながら


だから、あの子供たちに逃げ出す手助けをする


上手くいけば何人かは生き延びられるかもしれない


あの日本国人の同胞がいる限り、何人かは生き残れるだろう


私等のように、


特殊訓練で生き残って使命を果たすように訓練されてきた者にとって


物事を一つの理論をもとにして生存率を導き出し


その確率の高い方法を選択する習性が身についている


彼女もまた、そのような訓練を強いられて身についていると感じた


全員を助けようとさえしなければ


生き残る道を構築していけるだろう


私はそこまで考えて、恐らく自分の顔が苦笑いになったであろうと感じた


まったく不思議な話だ


祖国の同胞より、彼女を信頼しているのだから


複雑な心境にもなろうというものだ


だけど、彼女には生き残ってもらいたい


そんな風に思うのだから、


軍人失格だと自己分析をくださざるを得ないな


一番最悪なケースは


大佐が暴挙に及んだ場合だ


私としても命がけの戦いしなければならなくなる


そのときは、彼らの命どころか私も覚悟しなければならないだろう


それに、他の隊の二人が賛同してくれるかどうかは判らない


リースン少佐には既に密約を交わして入るが


もし他の隊の二人が大佐の味方になれば


能力者兵士同士の戦いとなるだろう


勿論、グバザルーン共和国の誇りを守る為なら


この命、惜しくは無い


逃げるチャンスは与えてやるが


子供たちを守ってやる義理も余裕も私にはない



つづく


第十五話 「女王様の条件」


初めから読む


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羅針盤は航海には欠かせないものだけれど


指し示す方向にどんな困難が待ち受けているかまでは


示してくれません


時々自分の考えと感覚が違う方向を指してしまう事があります


実はそれには意味があって


心が示す方向は必ず正解なのですが


頭が示す方向は今の最善である場合が多いのです


心が示す方向へ辿り着く為には


迂回ルートを導き出していかなければならない場合もあって


心の中の羅針盤は現実の問題などお構いなしに


一直線に正しい事を示してしまいます(--。。


だけど、それが正しいからと、目の前の事情を無視して進めば


断崖絶壁に落ちてしまうかもしれない


迂回は一旦違う方向へ歩き出すので


表面的に見ると、心の羅針盤が示す方向と反目するのですが


要は最終的にそこに辿り着ければ良いと言う事ですねヾ(@^(∞)^@)ノ


常に最短コースを目指してしまう私が失敗の中で学んだ事なのですが


時には迂回する事も必要なのです


Σ( ̄□ ̄;)なんの話やあせる


リリーン・ピゼット少佐が、これから果たそうとする事は


心の羅針盤を示す方向を実行しようとしているのだと思います


心の羅針盤が示す方向が天の啓示だとすると


私たちが生きているこの地上世界の事情は


必ずしも、天の啓示を果たせるようにはなっていない


その相手が同じ軍の上官である事


軍人が上官の命令を拒否する事は便宜上は出来ても実際は無理です


まして悪行の限りをしている上官を告発したとしても揉み消される


そこで、彼女は迂回路を探して、


見つけたのが今回の軍事裁判へ彼を引きずり出す方法で


ただ、果たせるかどうかは、やってみなければ判らない((>д<))あせる


私のこの小説と同じです・・・・


書いて見なければ判らないヽ((◎д◎ ))ゝ前人未到ですよ~



まる☆のプロット組み直しのため、少しタルい話になってごめんなさいあせる