第十話 「迫り来る危機」




初めて同じ能力を持った人と出会えた


ボクは悠里を連れ出し、拘束しているであろう相手であるにも関わらず


高谷小次郎という能力者に深い関心を抱いてしまった


この気持ちは何なのだろう?


一体彼と何を話したいというのだろう


この力は悪用される可能性があるから


きっと彼もこの能力をかくして生きて来たに違いない


苦労話や共感を求めているのだろうか?


ボクは悠里がいたから孤独ではなかったけれど


彼はどうだったんだろう?


比美加さんとまるは相変わらず言い争っている


もちろん、悠里の事で、能力者と戦うべきかどうか


クラスメート達は、まるが見つけ出そうとしている相手が


比美加さんの想い人だと知って困惑している様子だった


何故彼女が大切な人を探そうとしているまるを阻止しようとしているのか


まるが何故比美加さんと絶交し宣戦布告までして


彼女の想い人を探そうとしているのか


能力を封印しているにもかかわらず


少しずつ彼らの思念が伝わってくる


彼らには、まだまるの心の奥から漏れてくる深い愛情を感じられないでいる


それは多分まる自信も気がついていないものかも知れない


ボクがそんな事に思いをめぐらせている時


小次郎が目を覚ました


「君は一体何ものだ?」


小次郎の最初の言葉はとっても冷たいものだった


「それはどういう意味?」


「君は何かを考えているように見えるけれど、ボクにはそれがまるで読めない」


「それはきっと、ボクが君と同じ能力を持っているからだよ」


ボクがそういうと、小次郎は目を見開いて驚いた顔になった


「いや違う、同じ能力を持った者をボクは知っている、ボクたちのような能力者は互いに相手に心を読まれないようにする為に、心をシールドで覆い尽そうとする、だけど、君はそれをしていない」


シールド?


初めてそんな概念がある事を知った、一種の暗示のようなものだろうか?


しかし暗示の力ではこの能力を押さえる事は出来なかった


或いは方法があるのかもしれない


「シールドって暗示法なのかい?何かキーワードで心をガードする」


小次郎は首を横に振った


「今からやってみるから、ボクの心を読んでみて」


言うと一瞬小次郎の目の色が変化したように見えた


途端にさっきまで漏れていた彼の思念が途切れた


「全然読めなくなったよ、こんな方法があるんだね」


「でも君はこの方法ではない何か別の方法で心をシャットダウンしているのか?」


ボクは首を横に振るしかない


今まで同じ能力者相手に対しての心のガードの事なんて考えていなかった


まして心にシールドを張れるなんて始めて知ったから


小次郎は暫く考えて、話題を変えてきた


「君がボクたちに辿り着く道を見つけ出したの?」


「悠里の庭の木に聞いたんだよ、木の中に残っている君たちの姿を感じ取って、そこからPCで探していた」


「ちょっと待て、君は木と話が出来るのか?」


「話という感じではないけれど、気持ちを通わせる感じだよ、今回はその木と同化して記憶をそのまま感じ取ったんだけれど」


みるみる小次郎の顔色が変わって行く


「そんな事はありえない、人間の心なら読めるが、自然物の声など感じないよ、テレパシーはあくまで人間に対してのみ有効だから」


え?


ボクは一瞬頭の中が真っ白になった


「君はテレパシストなんかじゃない、どうやら君は悠里と同じ特殊な能力を持ってるようだ」


「悠里も特殊な能力者なの?」


「これはとても危険な事なんだよ、だから彼は狙われていた、そして僕たちが匿っている・・・」


そこまで話すと小次郎は口を硬く閉ざした


悠里は何ものかに狙われていて


小次郎たちが悠里を守ってくれているって事?


ボクは小次郎に聞いたけれど彼は何も答えなかった


「知らない方が良い、きっと君の能力は誰にも感じ取る事は出来ない、だから大丈夫だと思う」


ボクはどうしても知りたくて


小次郎のおでこに自分のおでこを当てた


テレパシーの能力を持っていて


しかも心にシールドを張っている彼の心を覗き込む事は


多分不可能だろうけれど


それでも、ボクはそうせずにはいられなかった


暗闇の中で緩やかな光が見えてきた


ボクはその光に近づきゆっくりと意識を集中させた


すると花火が突然光ったようにパッと辺りが明るくなると


目の前に巨大な金属製の門が現れた


門には巨大な鎖に錠がかけられていて


決して開けられないように見えたけれど


ボクは黒子のハッキングの要領で、この鍵を見つけ出し開けることが出来た


そこから一瞬にして彼の抱えているものが流れ込んでくる


人の心を読むのは自然界の生き物よりも困難だった


複雑なのだ


何処に焦点を当てればよいが見失う


何層にもなっているのだけど


全てが一瞬に流れ込んできて溺れてしまいそうになる


このままではいけないと


ボクは彼の心の中にある悠里に関する情報にのみ集中してみた


すると


恐るべき事実を目の当たりにしたのだ


グパザルーン共和国が能力者を兵器として軍事利用をしている事


そして、世界中の能力者を拉致するために


能力者による能力者狩りなんて恐ろしい事が行われている事実


ボクは恐怖で彼から離れた


「君は一体何をしたんだ?」


小次郎は自分が心を覗かれたことを認識していなかった


「今君の記憶が見えたんだグバザルーン共和国の事も」


途端に小次郎の顔が歪んだ


「一体どうやってシールドを張っているボクの心に進入した」


「ハッキングだよ、黒子に教えてもらった、テレパシーを使ってPCを操りハッキングする要領で君の心の鍵を開けた」


「何のことだ、テレパシーでPCを操ることなんて出来ないぞ、もしそんな事が本当に出来るとしたら、君の能力はテレパシーと念動力を融合したものかもしれない」


この時ボクは少し心が混乱していた


悠里の事、グバザルーン共和国の事、そして自分の能力が


テレパシーではなかった事


それは、小次郎とは別の種類の能力で


特殊なものだと言う事も


結局ボクも悠里も仲間と呼べる相手は存在しないのかもしれない


突然、絶望感が負のオーラとなって僕を包み込んでしまった


そんな時チラリと脳裏をまるの顔が掠めた


そうだ、まるを止めなきゃ


まるがしようとしている事は


悠里を危険に晒す事になりかねない


多分ボクたちが相手にしなければならないのは


普通の能力者じゃない


軍事利用するために、特別な訓練を受けてきた


選りすぐりの兵士達だから


もしこの能力を軍事利用する事にのみ特化させたとしたら


どんな怪物になっているか判らない


とても太刀打ちできる相手だとは思えないから


まるはきっとそれでも止めはしないだろう


けれど、止めなきゃいけない


小次郎は少し冷静さを取り戻したように感じたので話しかけてみた


「今君に頭突きを食らわせた子が、君を人質に悠里と交換するという取引をしようとしている」


「バカな、そんな事をすれば悠里は見つかってしまう、今は能力者の仲間たちによってシールドを張り巡らして奴等から守っているけれど、そこから一歩でも出たら能力者を狩るモンスター達に拉致されてしまう」


そのモンスターたちの恐ろしさは、小次郎の心の中で感じ取った


結局比美加さんの判断が一番正しかったのかもしれない


「君も協力してくれるかい?」


ボクは小次郎に懇願する思いで頼んでみた


小次郎は暫く考えていたが


「アイツの記憶が曖昧だ、君が消したのか?」


「記憶を操作するのは心が痛んだけれど、君の心は奥深くまで傷ついてしまったから、それを癒す為にはどうしても取除く必要があったんだよ」


いつのころだろう、ボクにそんな力があるのだと気がついたのは


傷ついた心を癒す為に記憶を操作する事が出来る


もしかすると、別の記憶を相手に植え付けることも可能なのだろう


まだ一度も試したことは無いけれど


「記憶を操作する事はとても難しい技術だ、君は一体何処で学び訓練したんだ」


「気がついて、一度実行してただけなんだ」


それは目の前で飛び降り自殺した子がいて


悠里が彼女を生き返らせて、ボクが彼女の心の傷を癒すために


酷い記憶だったけれど消した


「こんなのはニセモノでしかない、本当の意味で彼女を癒した事にはならない」


悠里は涙を流した


その時のボクには悠里の涙の理由も言葉の意味も理解できなかったけれど


今ならよくわかる


これは本当の意味で相手の心を癒した訳ではない


ただ消して誤魔化しただけでしかないんだ


「ありがとう、ボクはそうとう深く心が壊れてしまったようだね」


それなのに小次郎はボクに言ってくれた


「なんだよ、何を泣いているんだ?」


「こんなニセモノの力でも少しは誰かの役に立てたのかなって思ったら嬉しくて」


小次郎は横を向いた


彼もきっとこの力が何故自分に備わってしまったのか


それに意味があるのか見つけられず


苦しんできたのかもしれない


「この能力に意味があるのか、それとも意味なんて無いのかはボクにもわからないけれど、ボクがあのままの状態でいたら間違いなく心が壊れてだろう、君に救われた、それだけは確かだ」


ボクは彼の優しいオーラを感じながら


崩れかけた心を立て直して、全力でまるを止める決意をした


「ボクに何が出来るのか判らないけれど、君が悠里をとっても大切に思っている事は理解できた、僕にとっても今では悠里は大切な仲間なんだ」


それは小次郎が協力してくれるという意思表示の言葉なのだろう


一度決めた事は決して曲げないまるを


ボクたちで止めることはできるのだろうか


首を振りながら祈るような思いでまるの居る


隣りの部屋のドアを開けた



つづく



第九話 「パッション」


初めから読む


もっと初めから読む


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話がなんだか大きいことになってきましたがΣ(@@;)


中学生が戦える相手ではないですよね(--。。


今日久々にリア友にあってね


私の小説の感想聞いてみました


前に話した、お手本にしている小説を書いている友達なのです


多分私と類似したタイプ・・・


でも、まるちゃんは時々キャラの気持ちが飛んじゃうねだったΣ( ̄□ ̄;)


結構手厳しい感想でした・・・


超多忙なので、中々会えず


今日も移動中の僅かな時間だけでしたが


話せて良かった


ちゃんとキャラの声に耳を傾けている?


自分の思いが強くなると、キャラの声を見失ってしまうから


読んでいて、所々キャラの気持ちが感じられなくなるよ


多分何の事が判らないかもですが


似たようなタイプの私には彼の言わんとする事がよーくわかりました(--。。


図星なのですよ


所々キャラの気持ちを見失っていて


多分自分の思いが強いのだと思いました


自分が言いたい事が強すぎると


キャラの気持ちを無視して表現してしまう場合がでてしまうのですね(--。。


話として成り立ったとしても


違和感は拭えません(--。。


全部描き直そうか迷いましたけれど


かろうじてキャラを死なせては居ないと思うので


心を入れ替えてつづきを書いていこうと思います。。


アイデアとかに走りすぎた事


自分が言いたい事が強すぎて


キャラの気持ちに耳を傾けてあげられなかった事を深く反省します(--。。


彼が言う作者はキャラの代弁者であるべきだ


というのは、私も同感なのです


いつの間にか


キャラを作者の代弁者にしようとしていましたΣ(@@;)


幸い、この詩織だけは


私とは明らかに違うタイプなのでよくわかりません


詩織の目線の時だけはなんとか彼の気持ちのままかけたかなぁ~


いやいや、もう少しキャラの気持ちを感じ取って


書いていけるように頑張ります\(*´▽`*)/



まる☆