第九話 「パッション」




黒子の秘密基地のマンションで


ボクたちは、二人の消息を探っていた


けれど、二人の足跡さえ見つけられない


そんなある日、比美加さんとまるのクラスメート達が


この秘密基地にやってきた


そして、探していた一人が向こうからやって来たんだ


この話をする前に、少しだけ時系列を遡ってみる



ボクの能力は少しずつ進化して行く感じがしてきた


まるが言っていたように、能力それ自体には善も悪も無い


それを何にどのように使うかが大切なんだとボクも思う事にした


だから、この能力にある可能性を


少しずつ試してみたくなったんだ


PCは言葉の命令を忠実に実現するように作られている為


会話する事は出来ないけれど


自分の意思で自由自在に操ることは出来るようになってきた


この中にある情報は今では端末の近くにいれば直ぐに手に入れられる


最近では黒子の助言もあり


仮想PCのイメージを作り出して


テレパシーで話をするように


メールの遣り取りや、チャットくらいはPC端末が無くても


出来るようになってきた


これを応用すると、例えばPCで出来ているものなら


自在に操れる可能性も見つけてしまった


つまりコンピューター制御のものなら何でも自由に操れる


ただ、それをする為には


そのPCの言語や本体の構造も理解しなければならない


ボクはネットを介してその技術関連の情報をハッキングする事で


本体の構造を理解する方法も見つけてしまった


しかも、理解するのに数秒くらいしかかからない


全ては超高速の早送りのように吸収してしまうからだ


ここまで来て、また恐怖を抱くようになった


もし、この能力が軍事利用された場合


敵国の原子力爆弾など、武器の構造を理解し自爆させたり


その国の首都に発射させる事も出来る


悪用すれば、これ以上恐ろしい武器は無いだろう


ボクは大きな責任を背負う事になってしまったのだと


その時初めて気がついた


そんな自問自答している時に


比美加さんたちが現れて、まるを止めようとしたのだ


比美加さんは昔から僕を嫌っていた


理由は判らないけれど


時々見下されているような気持ちになる


悠里が僕の親友だから、我慢して傍にいてくれたけれど


彼女から話しかけられた事はいままで一度も無い


それでも、悠里の最愛の人なのだから


決して悪い人ではないなと思うように頑張っていたけれど


悠里がいなくなってから彼女は一度も彼を探そうとはしなかった


それどころか、悠里を否定するような事を言っていると聞いた


ボクはなんで冷たい人なんだと思うようになっていたけれど


まるは、彼女もまた心から悠里を愛していて


彼がいなくなって悲しんでいると知らされた


ボクのテレパシーは、どういう理由か判らないけれど


意志の強い相手の心は何も感じない時がある


だから、比美加さんの心は何も感じない


もちろん、真剣に彼女の心を覗こうとした事は無い



そして、あの日悠里の部屋の前の中庭の木が記憶していた


高谷小次郎がもう一人と現れた


もう一人は岸谷誠司だと小次郎から読み取れた


テレポートの力が使えることや


小次郎がボクと同じ能力者なのだと解ると


不思議な親近感を感じてしまう


それに、最初から彼らには悪意を感じなかった


むしろ危険だから近づくなと警告に来たのも瞬時に感じ取れた


当然彼もボクの能力の事を瞬時に理解出来たに違いないと思ったけれど


どうやら違うみたいだ


彼には、ボクの能力の事がまるで感じていないらしい


一体何故なのだろう?


ところが、まるは何故か小次郎を挑発して戦いを挑んだ


テレパシーの力は相手の心を壊す事も出来る


だけど、ボクはまるには何か考えがあっての事だと気がついた


どうやら黒子もそれに気がついたようで


事の成行を見ているようだった


相手がテレパシーを使える以上余計な小細工は出来ない


彼女はボクと関わる事でテレパシーについては


少なからず理解しているはずだから


今はまるの考えを見守るしか出来ないと判断したのだろう


ところがギブアップしたのは高谷小次郎の方だった


「なんなんだ、こんな拷問があるのかっっ」


狂気に歪んだ顔は恐怖へと変り遂に発狂寸前にまでなっていった


小次郎の呪縛が解けたのか、まるはパッと目を開けると


「なんだもう音を上げたのか、これからが面白くなるんだぞ」


まるを脅えるように小次郎は見ている


「少しばかり特殊な才能を身につけたくらいで、自分が人間を超えたなどと笑わせやがる、所詮はお前もこの程度で音を上げる弱い人間でしかないんだ」


そういうと脅える小次郎のおでこに頭突きを食らわれた


ダメだ、まるは怒りで我を忘れている


当初の目的よりも小次郎を倒す事にしか頭が回っていない


ボクは比美加さんに目を向けた


彼女にとっては想定外な出来事なのだろう


小次郎が今どれだけ危険な状態なのか解るはずもない


まるはまた小次郎に頭突きを食らわせた


ボクは、岸谷誠司に目を向けた


彼もまた放心状態に近いのが見て取れた


人間は想定外の出来事に遭遇すると動けなくなるらしい


「まるっっダメだよ」


誰も今のまるを止められない


嫌だっっこのままでは小次郎の心は壊れてしまう


一度壊れた心はもう、元には戻らない


これは実質上彼を絶命させたのと同じ事になるんだよ


まるが、そんな事する所なんて見たくない


ボクは走り出して小次郎を庇いまるの頭突きを受けた


「痛ってぇ~なっっ何すんだよっっこの石頭」


どうやら、まるの頭よりほんの少しボクの頭の方が硬かったようだ


まるはその場に座り込んで頭を手で押さえた


でも、そのお陰で少しは冷静になれたようだ


ボクは壊れかけた小次郎の心を癒そうとしたら、そのまま彼は気を失った


「詩織アイツに通訳してくれ」


ボクは悠里以外にテレパシーで語りかけたことが無い


「高谷小次郎を帰して欲しければ、悠里をつれて来い、こいつはそれまで預かる」


上手く伝えられたのか岸谷誠司はゆっくりと頷くと姿を消した


でも、どうして彼は小次郎を置いて行ったのだろう


一緒にテレポートで連れ出す事が出来たはずなのに


ボクはまるを見た


「テレポートの様子を見ていたが、奴は自分の手で直接触れたものしかテレポートできないと判断した、未だに気を失っている矢部の時も奴は一瞬矢部を掴んだのが見えたからな」


まるの洞察力は凄いとしか言いようが無い


あんな緊迫した一瞬の出来事も見逃さなかったんだ


「まる、一体何をする気ですの」


比美加さんがようやく落ち着いたようにガラステーブルに刺さった扇子を


思いっきり引っこ抜いて歩いてきた


「知れたことだ、こいつを人質にして、悠里と交換する」


「バカな事はおよしなさい、見たでしょあんなバケモノを本気で相手にするつもり?」


比美加さんの口から出てきたパケモノという言葉の響きはボクの心に突き刺さる


「はあ?あいつらは人間だ、こいつを見ろ」


まるは気を失ってボクの膝の上で眠っている小次郎を指差した


「こんな気の弱いパケモノがいるものか」


「たまたま勝てたから良かったものの、一つ間違えれば、そこで倒れていたのはあなたの方だったわよ」


突然まるは大笑いした


「勝算が無くて戦うものか」


「それではハッキリ言って御覧なさい、一体あなたの勝率は何パーセントだったの?」


「50%もあったぞ」


まるそれは一か八かだよ・・・


掌を広げて向けられた手を扇子でどけた比美加さんは更に一歩まるに近づいた


「あなたの無謀さには呆れるばかりだわよ、ジャングルの奥地で素手で猛獣に挑むのと同じくらい危険な戦いになるわ、おやめなさい、こんな恐ろしい能力を持った者たちを人間だとは認められないわ」


比美加さんの言葉の響きはまたボクの心に突き刺さる


「そうだ、こんなのは人間じゃないバケモノだ」


確か柿崎というクラスメートがそういうと


その友達らしき彼が


「その通りだ、今回は関わらない方が良い」


と同意するとここにいるまるのクラスメート達はみんな賛同した


もちろん黒子はその中に含まれない


みんなは口々に小次郎たちをバケモノ呼ばわりした


ボクは小次郎と自分を重ねてしまう


その言葉はまるで、自分に向けられているように感じるんだ


「あぁぁケツの穴が小さい奴等だなっっまったくよ~」


まる女の子がそんな事言ったらダメだよ


「人間だバケモノだと線引きしやがって」


まるは自分の頭をクチャリとするとみんなを見回した


「こいつは、ちょっとばかり特殊な才能に恵まれただけで、同じ人間なんだ、その証拠にこうして床にのびているだろ」


そうか、まるはそれを確かめようとしたんだね


「こいつもこいつだ、自分が人間を超えたと勘違いしてやがる」


拳を握り閉めたので、ボクは小次郎を庇ってまるを睨んだ


まるは舌打ちすると拳ではなく、


気を失っている矢部とかいうクラスメートを蹴った


「ちょっとまる、矢部に八つ当たりする事ないでしょ」


「いや、こいつにもちょっとばかしムカついているんだよ」


そういうとチラりと柿崎を見た


まるはクラスメートには快く思われていないのかもしれない


柿崎とかいうクラスメートはたちどころに負のオーラに包み込まれた


「同じ人間をクダラナイ線引きでみるから、争いの火種になるんだ」


「線引きは必要ですわよ、人間として生きて行く上で、これは差別ではありません、何事も区別はしないと世の中は成り立たないからですわ」


「今回の事に関して言えば、区別とは言いがたいぞ、お前のような考えを持った者にマルチン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたんだ」


「話が飛躍しすぎていますわ、第一人種差別と混同して話をすりかえるのは卑怯ではなくって」


「私には人種差別にしか見えないけどな、能力者だの人間などと線引きするのは白人と黒人という線引きと一体何か違うと言うんだ」


「そもそも、そこから論点がズレているのですわ、この能力者の力はもはや人間がもって良い領域ではありませんから」


「だからと言って全面的にその力とその能力を持ったものを否定するのは、火事の原因になるという理由で火そのものを否定しているのとかわら無い」


「また話をすりかえようとする、自然物と今回の能力は別物だと考えるべきですわよ」


「お前の頭は石ころより固いな、こいつらの能力は自然に発生したものだから自然物と捉えて何が悪い」


二人の論争は白熱するばかりだった


その時、黒子がボクの肩を指で二度叩いた


「二人のケンカは気にする事無いね、いつもの事だから」


「え?いつもの」


「あの二人は会えばいつもケンカするね、水と油のようなものだから気にするだけバカらしい」


ふと見るとクラスメート達も黒子と同じような雰囲気だった


また始まったみたいな感覚で座り込んで話を聞いている


いや、むしろ楽しんでいるようにも見えた


まると比美加さんの関係ってとっても不思議だと思った


ボクは、ひざの上の小次郎を感じながら


彼の心が壊れなくて、本当に良かったと今更ながらに感じた


この世の中で数少ない仲間のように感じる


この気持ちはまるの言う線引きに入るのだろうか?


「それよりまる、あの子泣いていますわよ」


「気にするな詩織は昔から泣き虫なんだっ男のクセによ」


まるがそういうと、まるのクラスメート達はみんな驚いてボクをみた


「まるっっこいつ男なのかっっ全然見えないぞっっ」


ボクはクラスメート達に取り囲まれてしまった


もしかして・・・女の子と勘違いされたのか?


「あんた男だったの?この裏切り者」


イヤイヤ、黒子まで今更何を・・・


「詩織あなた男の子?本当に?」


イヤイヤ比美加さん、あなたとは子供の頃から時々会っていたでしょ


まさか悠里から何も聞いてなかったとかっっ


結局、ボクが男の子だと認識してくれていたのは、まるだけだったらしい


「あなたねぇ~女の子みたいな名前で、しかもどう見ても女の子にしか見えない顔しているから、紛らわしいのよ、ずっと恋敵だと思っていたわよ」


そんな比美加さんの一言で、またクラスメート達が叫び声をあげた


「比美加、悠里って、あなた親戚ではなく、恋人な訳?」


今まで一言も話さなかった女の子の一人が黒子のように


海外の人のような訛りかたで言うと、クラスメート達は一斉に比美加さんをみた


どうやら、二人の関係についてクラスメート達は知らなかったようだった


「詩織あなたのせいよ、どうしてくれるの」


そんなのボクはしらないよ


だけど、やっと悠里に会える


ボクは、何故か大騒ぎになっている応接間とは関係なく


希望に胸が高鳴っていた



つづく


第八話 「未知なる能力(ちから)」



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いや~途中から


コメディみたいになってしまいましたねΣ(@@;)


この先どうなるのか


私にもよく判りまへん(--。。


しかし・・・比美加は何年も詩織の事女子だと勘違いして


恋敵的に思っていたなんて・・・


実は私も知りませんでしたよΣ(@@|||



ありえへん話ですけどね(>▽<。。)ノ))


ちょこっと次回まで間が空くかもです




まる☆