第十一話 「リリーン・ピゼット少佐のリポート」




信じられない報告があった


日本国に潜入した、仲間から


恐るべき能力者が日本国にいるというのだ


能力者は先進国に現れないという


定説が覆されたわけだが


私も俄に信じられない


その能力が我々の力を凌駕して余りあるものである事


我々は幼少より特殊訓練を受けてきた


こんな温室同然の国で、何の訓練もせずに


我々を凌駕する力など


この目で見るまでは信じられなかった


しかし、その能力者は確かに存在した


本来この能力は


人間それぞれ固有の体質が存在していて


その体質に応じて得意不得意がうまれるように


一つの特質ある能力が特化して行く


ごく稀に、二つの力を同時に持つものも居るが


我々はそんな者たちを特Aクラスと呼んでいる


特Aクラスの中でも


三つの能力を持つ者も居たが


大体は特殊訓練中に絶命している


しかもその死因は不明


突然生命という電池が切れたように


全ての機能が停止していた


或いは今はまだ科学では解明されていない


生命を維持するのに必要不可欠な


ある種のエネルギーが異常に消耗してしまい


能力を使いすぎると生命機能を維持出来なくなるのかもしれない


いずれにせよそれらは未だ仮説に過ぎず


未だに実証は出来てはいない


仮にそれを生命エネルギーと呼んでみよう


その生命エネルギーは


同じ能力者同士が戦う場合思った以上に消耗してしまうようで


絶命する兵士は後を立たない


この能力には未だ未知数な事が多すぎる


しかし、多くの同胞達の犠牲は無駄にはしない


多くの研究データを基にして


解かったことも、少なくないのだ


我々はその研究データを母体として


特殊訓練を構築して、能力を最大限まで引き出す技を身につけてきた


ただしリミッターはある


それは生命維持出来なくなるまでの能力放出できる容量を


一つの法則性を元に数値化したものだが


個人差があまりにもありすぎて


結局一人ひとりの能力限界値は違う


ただ、その数値を超えて使い続ければ


確実に生命は機能を停止する


つまり、我々のこの力は一定量しか使えないのだ


ある程度使えば回復するまで休息を必要とする


面白い事に、特Aクラスの者達は能力こそ凄いが


限界値は低く、短時間しか力を発揮できない


これでは軍事利用するのは非常に困難である


そこで、能力者を増やす政策取られた


貧しいわが国が他国を打ち破る力を手に入れる為には


この力に頼る他はない


幸いわが国には、能力者が異常に増殖している


しかし、それでも軍事利用するためには、交代制は必須となる為


全然足りない


そこで、世界中にスパイを進入させて密かに能力者を見つけ出し


拉致して、傭兵として洗脳し訓練をする事になった


我々は能力者を調達する任務を与えられて世界中に散らばった


もちろん、能力者の中には、その力を使い戦いを挑む者もいる


しかし、我々はその能力と戦う術を叩き込まれてきているのだ


対能力戦ではスペシャリストである


実践も今まで何度も経験してきて


それなりの自信とプライドを持っているが


今回のターゲットは、特Aクラスで


しかも限界値が未知数と聞いた


そんな話は今まで聞いた事がない


特Aクラスの限界値は我々Bクラスの半分以下が平均だ


われわれBクラスは、一つの能力に特化していて


それを戦う事に特化させた部隊であり


チーム編成する事で、互いに足りない能力を補完する事で


特Aクラスの能力者をも倒す事は出来る


でも今回の相手の限界値はあくまで推定だが


我々の三倍以上だと報告書に書かれていた


こんな恐るべき能力者が果たして存在出来るのだろうか?


そして我々は、遂にターゲットの存在を感じ取り


追跡して、追い込んでいった


車での移動中だったので、山林でその車の捕獲に成功した


念動力で車を宙に浮かせたまま


3人で取り囲んだ


ところが、報告書に無い事態に陥る


瞬間移動をしたのだ


車の中には三人


しかし一人増えたかと思うと消えた


瞬間移動の能力者が参戦したようだった


もちろん、我々チームの一人は同じ能力を保有している


私はそのとき脳内で報告書とこの不測の事態を整理していた


ターゲットは特Aクラスではなく


我々と同形態の組織だった能力者集団ではないのか


複数の能力者がチームを組んでいる


それなら、立場は我々と同じ


同じ条件化では、当然特殊訓練を受けてきた我々に勝機がある


瞬間移動を追跡する能力は備わっていて


彼らの力の消耗を待ちながら


少しずつ追い込んで行く作戦に出た


ところが、奴等は恐るべき事にダミー移動の技を使って


我々を巻こうとしたのだ


こんな能力の使い方は、特殊訓練でも受けない限り思いつかないはず


我々は日本国を甘く見ていたのではないのか


戦争反対と国中をあげて叫んでいるのは実は


我々と同じように、この能力者による軍事利用の開発をしてるい事を隠すため


ターゲットたちは、素人離れした戦術で


我々の追跡を次々に交わして行く


これは本国に新たな事実を報告しなければならない


もちろん、ダミー移動に対する対策は出来ている


「久々に骨のある相手と出くわしたな」


大佐はとても楽しそうな笑みを浮かべた


念動力を持つ大佐は好戦的で、時々ターゲットを絶命させていた


「大佐、力余って相手を殺さないようにして下さいよ」


私は大佐を勇める様に言うと相手の足取りを追跡した


私と同じ思念波を読み取る能力者がいるようで


思念波によるシールドが張り巡らされて相手の情報までは読み取れない


これも訓練なくしては、自然に身に着くものではない


明らかに相当の年数を訓練してきた手練れだと思われる


「どうやら、ターゲット達は、我々と同じように特殊訓練をしてきたようです」


瞬間移動の能力を持つリースン少佐が言うと


「面白い、これは初めての能力者による戦争と言う事になるな」


好戦的な大佐はとても嬉しそうにしているが


私は彼の残虐性を好まない


何度か、目の前で体をバラバラにされたターゲットを目の当たりにした


もちろん、戦闘ではそういう場合もあるのだけれど


彼の場合力の差は歴然なのに


逃げ惑う姿が気に入らなかったようで


生前の姿が判別出来ないくらいバラバラに砕いた


「こんなものは、どんなに訓練しても使い物にはならない」


彼は口封じに消したというより


明らかに自分の能力を試したがっていたと感じた


人の思念を読み取る力というのは


時として知りたくも無い事を知る羽目になるから厄介だ


今は私の上官であるから従っているが


今回の任務を果たせたり転属願いを出そうと思う


大佐がこんな状態では、無事にターゲットを捕獲するのは困難かもしれない


特に相手が大佐と互角の力を有していた場合


命の遣り取りをする事になるから


とても捕獲は難しい


ターゲットは四人、しかもそのうち三人は我々と同じ能力を保有している


問題はあと一人だ


思念波によるシールドは強く、特にその一人の情報がまるで判らない


もし彼らと同等に訓練されたものであるなら


不利なのは我々と言う事になる


「リリーン・ビゼット少佐、君が案じる事態にはならんよ、たかが日本国の能力者ごとき遅れを取るような事は我々には有りはしない」


大佐は過信していると私は思った


リースン少佐は余り感情を示さない


というより、自分をマシンのように扱っている傾向がある


つまり、感情を持つ事が不利だと考え、感受性を遮断している感じだ


特に瞬間移動は集中力がずば抜けていないと


体をバラバラにしてしまう可能性が高い


それだけ難しい能力なのだ


感情の乱れはそのまま自分の命取りになるから


この能力者は次第に寡黙になって行くようだ


私は微かに臭うターゲットのシールドを感じ取って


相手の移動先を予測しながら


それを思念でリースン少佐に指示した


彼女は指示通り的確に、ターゲットの移動先に移動してくれている


ところが、相手の限界値はリースン少佐を上回っていた


移動距離が一向に縮まらない


そこで、私は相手の消耗を促す作戦を止めて


相手の移動する場所に移動する事で相手と対峙する作戦に切り替えた


これはとても危険な事で


もし、少しでも場所がズレたら


相手も自分たちの体もバラバラになってしまう


私の作戦は見事に成功した


リースン少佐は瞬間移動の相手を


大佐は念道力の相手を


そして私は思念波を操る相手と対峙した


直接相手を目視した時、流石の我々も驚きの顔は隠せなかった


相手はまだ十代の子供なのだ


こんな子供と互角の戦いを強いられてきたというのか


「これは、面白い、子供でこれだけの力を操ることが出来るのだ、もし捕獲できたら、即戦力になるぞ」


それどころの話ではない


やはり大佐は楽観的過ぎるようだ、もし彼らがまだ新兵だとしたら


この能力の開発は我々より日本国の方が進んでいるという事になる


とはいえ、強敵を目の前にして


その事に考えをめぐらせている暇は無い


同種の能力者との戦いは避けたかったが止むを得ない


思念波を操るもの同士の戦いというものは


相手のシールドを破りその心に進入したものが制する


しかし、それはそのまま自分の心をさらけ出す事にもなるのだ


相手の全てを知る事になるけれど


同時に相手に自分の全ての情報を読み取られることになってしまう


力の差が大きければ、シールドを張りながら相手の心に進入出来るけれど


力の差が殆ど無い相手には、


シールドは思念波により攻撃の防御以外意味をなさない


大佐は近くの川の傍の石を数十個も念動力で少年に投げつけた


すると少年の前で次々に石は砕かれて行く


もちろん、その石は囮で、大佐はそのまま少年の傍まで走って行く


能力者というものは、とかく能力にばかり頼るものだ


大佐はただ好戦的なだけではなく、戦いのプロフェッショナルなのだ


相手がまだ子供だとみるや、能力で戦うより体術により戦う事を選択した


能力は確かに訓練されてきたようだが体は見るからに貧弱だった


つまり、肉体的な戦闘力は皆無だと見て取れる


私も大佐に習い、体術で相手と戦う事に切り替えた


こうなれば、絶対的に我々が有利となる



ところが・・・


私が唯一気にかかっていた四人目のターゲットの能力が発動した


突然身動きが取れなくなったのだ


まるで生命エネルギーを吸い取られているような感じだ


直ぐに立っていられない状態にまで疲弊した


一体何の能力なんだ私は四人目のターゲットを見た


これも十代の子供だ


生命エネルギーを吸い取る能力なんて聞いた事がない


大佐もリースン少佐も同様に疲弊していた


三人もの兵士を相手に・・・・


力の差は歴然だった


「悠里もう良い、それ以上力を使えば彼らは死んでしまう」


思念波の少年が言うと


途端に生命エネルギーの消耗はストップした


しかし、我々は覚醒していられずそのまま気を失ったようで


目が覚めたら相手は痕跡すら残さず消えていた


それから、ターゲットはまるで消滅でもしたかのように


手がかりすら掴めなくなった


「確か悠里と呼ばれていたな、恐ろしい能力だ、恐らく特Aクラスで、いくつかの能力を融合させた技なのだろう」


大佐は悔しそうに舌打ちすると


「その名は忘れない、この借りはキッチリ返させてもらうぞ」


まるでヘビのような目で悠里とか言う少年が立っていた場所を睨んだ


この時点で


大佐は悠里という少年を捕獲するつもりは無くなったようだ


彼から根深い殺意を感じるから


ターゲットを皆殺しにするのは明らかだ


私は大佐とは違った感覚でターゲットを見ている


出来れば生きて捕獲したい


能力者はまだ少ないのだ世界中探し回ってそれは嫌と言うほど実感した


言わば仲間のように思える


同胞達の殆どは私とは異なる感覚を持っている


子供の頃から特殊訓練を強いられてきた我々にとって


ぬくぬくと育ってきた能力者を仲間として加える気にはなれないのだろう


だけど、私は軍人としてはあるべき思想ではないかもしれないけれど


能力者のこの力の意味について考えてしまう


わが国はそれを軍事利用しようとしているけれど


本来この能力は別の役割があって発生しているのではないだろうか


その考えで世界を見れば、能力者はみな同胞と感じられる


だから


私はどうしたら大佐に彼らを殺させないかを考えている


或いはこのまま見つからなければ良いとまで思えるのだから笑える



リリーン・ビゼット少佐



つづく


第十話 「迫り来る危機」


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詩織の事で少しパニック起こしましたが


気を取り直して


今度は相手側の視点で描いてみました



小学生の頃面白半分で


椅子を二つ用意して


物語のキャラ同士の対話をそれそれ


椅子を座り直しながら、口で語って演技した時期がありました


不思議と椅子に座りなおすと気持ちも切れ換わるようで


景色も変わるせいもあってか


そのキャラになりきれたのですヾ(@^(∞)^@)ノ


そんな遊びをしていて気がついたのは


必ずしも相手も主人公も正解であり続ける必要は無いな


なんてことです


読者さえ理解できれば


必ずしもキャラ達の誤解を解く必要は無いかもしれない


むしろ誤解しているからこそ解決できる場合もあるのではないか


そんな妄想が膨らみました


今まで、モンスターたちの脅威を感じてきましたが


こうなると、むしろ小次郎たちの正体の方が疑惑に包まれてきますね


能力戦においては互角に戦ったのだから・・・


彼らは何故能力を訓練してきたのか?


仲間は一体何人くらいいるのか?


Σ( ̄□ ̄;)←それは作者も知らない汗



お後がよろしいようで((((((ノ゚⊿゚)ノあせる



まる☆