渋谷大勝軒@渋谷 | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

ある夜、呑んだ後ほろ酔いで明治通りを歩いていると、興味深い看板を見つけた。

さてと、今夜はどこ行く?

「ついに渋谷に?!」
それは池袋を拠点とするラーメン、特につけ麺が美味しいお店と同じ名前のお店だった。
大勝軒。

さてと、今夜はどこ行く?

とうとう、渋谷にも来てくれたか!
と、嬉しく思うと同時に、頭に「渋谷」とわざわざ断り書きが付けくわえられているのに気付き、ちょっとした不安も感じないわけにはいかなかった。
同じ名前のお店が代々木上原や永福町にもある。
しかし、それら三者は全く内容の違う店なのだ。例えそれぞれに独自の旨さがあるとしても。
俺個人としては、できれば池袋のそれであって欲しかった。
いったいどこの大勝軒が進出してきたのだろう?
もしや、今までのとは全く別の新たなタイプの大勝軒か?
気付いたら、俺はその渋谷大勝軒の扉を開けていた。
「一人なんだけど・・・」
そう伝えるより早く、店員が足早に駆け寄って来て、すまななさそうな顔でに俺に告げた。
「申し訳ありません。ただいまスープが切れてしまって、新しいスープが完成するのが、あと、40分後なんですよ。恐れ入りますが、その頃もう一度いらしていただけますか。申しわけありません。」
たった40分でスープが完成してしまうという事に一瞬疑問を感じたが、ああそうか!、もっと前から作っていたスープが丁度あと40分後に出来上がるっていうことか!と納得した。
いわゆる二毛作作戦だ。一日分のスープが出来上がったからといってそれでスープ作りをやめてしまうのではなく、常に絶え間なくスープを作り続ける。
人気店故できる技だ。
「あ、そうですか、それではまたその頃。」
と後にしたものの、40分は短いようで長かった。
結果、一ヶ月近い時間が流れていた。

ある土曜の午前10時55分、俺は再び店の前に立っていた。
あと5分で開店だ。
もうこの5分を一週間とかにはしたくなかった。
俺は待った。
五分後、とうとう俺は念願の店内に入ることが出来た。
果たして、いったいどこの大勝軒か?
その疑問を解決すべく俺は興奮絶頂だった。

さてと、今夜はどこ行く?

そんな俺を迎えてくれたのは、たくさんのメニューを掲げた自動販売機だった。
困った。
何を選べばいいのだ。
しかし、そこで葛藤しているわけにはいかなかった。
俺の後ろには、自販機に千円札をつっこみボタンを押したがっている者が、3人ばかりソワソワしていた。
落ち着け。落ち着くのだ。
そう、自分に言い聞かせる俺の目に、ビールの文字が飛び込んで来た。
そうだ。
まずはビールだ。
こういう時は、余裕のある所をみせなければな!
俺はまず、ビールのボタンを押した。
ビールを購入してしまうと、そのおつりでは他に購入出来るものは限られた。
少なくともメインであるはずのつけ麺は買えない。
もう一枚、財布から千円札を取り出すと、慌てずに自販機にそれを押し込んだ。
千円札を押し込みながらメニューをささっと見渡す。
つけ麺とラーメンがあり、さらにつけ麺は冷たく締めた麺以外に「あつもり」なんていうのもできるらしい。
ここはやはりあつもりだろう。
俺はチャーシューつけ麺のあつもりのボタンを押していた。

ビールを飲みながらつけ麺を待つことおよそ15分。
やっとチャーシューの入ったつけ汁が届いた。

さてと、今夜はどこ行く?

ほどなく、麺も届く。

さてと、今夜はどこ行く?

俺は、もう麺に夢中だった。
旨い。実に旨い。
こんなの初めてだ。
大盛りボタンを押さなかった事が悔やまれた。

さてと、今夜はどこ行く?

ふと右隣をみると、すっかり麺は食べ終わり、最後に麺の入った器の底に残った「そば湯」ならぬ「麺湯」を、つけ汁の中に注いでそれを飲んでいる。
俺も真似てそうしてみた。
けっこう味が濃い。
だが、これをこうして全部飲むのが流儀なのだろう。
幸い飲めなくはないしょっぱさだし、何と言っても味が良い。
全部飲み終えた頃、俺の左隣が店員に言った。
「すみません、スープ割り、お願いします。」

さてと、今夜はどこ行く?

ええっ!そんなこともできたのか!
と、思うと同時に、
そういえば、この池袋系の大勝軒は、生まれてはじめてだったんだ!
ってことを、思い出した。