M. L. ステイリー 作 「盗まれた心」(9)
The Stolen Mind By M. L. Staley


*** [盗まれた心 (8)] のつづき ***


オフィスの敷物の下の隠し扉の下に螺旋階段があった。下に降りると、クレイソン氏は別なドアの錠を解除して、ところどころが小さな電球に照らされた、やけに長い通路を進んでいく。やがてまた扉があり、クレイソン氏は器用な手つきで開き、中に入ると背後でカチャリと閉じた。クエストは闇の深さに強烈な印象を受けて、その重さが両肩にのしかかってくるような気がした。坂になった通路を進んでいくと、くぐもった機械音が聞こえてきたので、そこは工場の背後の何かの部屋の地下なのかもしれない。

クレイソン氏がスイッチを入れて天井の明かりが点くと、クエストは低く驚きの声を発した。暗闇がほとんど超自然的な趣を持っていたのも無理はない。白色の昼光色アーク灯の強い輝きすら不気味だ。その光線が巨大な円形タンクの液体から目も眩むような色彩の輝きとなって跳ね返ってくる一方で、光沢のない黒い壁と天井が完全に光を吸収し、腕の長さほどの先には何も見えないような気がする。タンクの縁に立っているだけなのに、体を動かせば底知れぬ穴の中に落ち込んでしまうようだ。

だが、あちこち指さしながら矢継ぎ早に、リベレイターがいかに原形に忠実に作られたかというクレイソン氏の説明に注意が向いた。すべてが原形通りに作られて、壁からタンクの中央部まで届くように伸びた踏切板のような長い板と、その端からシャトル-ズ・ワインを思わせるような液体の表面に達する細い梯子が備えてある。板の根本の上に固定された双投型スイッチが、電解制御をするためのものであることは疑いない。

「スイッチをプラスに倒せば」 と、上にチョークで印を付けたところを指さしてクレイソン氏が言った、「遊離を引き起こすに必要な激しい電離現象を起こすことが出来る。それ以外の時は、その反応を起こさせないためにマイナスにしておかなくてはならん。

「では、予行練習といこうか。いざ実行という段になって、すんなりとやれるようにな」

「了解」 とクエストが頷いた。ギラギラした光線のために頭がぼおっとなっていて、自分が何を言っているのか、ほとんど自覚がなかった。


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(つづく)