日本のいちばん長い日/穴 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

再見作では、DVDで観た岡本喜八の「日本のいちばん長い日」と文芸座で観た市川崑の「穴」。

前者は原作を読み、久々に再見したのだが原作に色濃くある敗者の美学感が払拭され(あるいは描ききれていないのかもしれないが)阿南陸相(三船な)は単に頑迷にしか見えないし、クーデターを企てる黒沢年男らは狂ってる。天皇責任を明確にしているのも凄いし、岡本喜八はこの戦争で何人の死傷者がでたのかを明確にするタイトルを入れることにこだわったと言うが、そのタイトルのもつ凄みに感動した。
上の方の偉いさんが薬袋もないことで右往左往してる間に、こんなに多くの人間が死んだんだ、と。勝手に切腹すればいいじゃないか、今更何なんだよ、と、そしてこいつらの多くは今なおふんぞり返ってるじゃないか、早く終わってればこんなに死ななかったんだよ、と。
森岩雄はこの字幕について「そういうタイトルを入れないと、この映画を作った意味がない」と岡本喜八を誉めたそうだ。みんな怒ってたんだよ。

市川崑は、愛好家がいっぱいいる中でこんなことを言っちゃ何だが(岡本喜八もそうだが)どうも、そのオフビートぶりと言うか、映像の遊び、と称されるようなアレコレが好きではなく、だから「ぼんち」や「おとうと」などの例外を除いてあまり好きな作品がない。本作も同様で、最初に観た時は、お話は面白いのに、もちょっと簡潔にクールに真面目に撮りゃいいのにと思ったものだが、再見したら、意外と面白かった。
もちろん、銀行を時間経過にあわせてオーバーラップでつなぐ冒頭のシーンなど、意図はわかるが、わかるが故にいかにもかったるいし、菅原謙二のオーバーなコメディ演技等もいかにも古くさく、ああこの時代の最先端は今どき見ても古いだけすよ、崑ちゃんと言いたくもなるのだが、話が素晴らしく面白い。
ミステリーマインドにあふれてる、というか、二転三転の頭脳プレイが面白く、その中で、まったく感情をこめず、ぶつぶつ独り言を言いながらアレコレ画策してはコトにあたる京マチ子が素晴らしい。
で思うに、久里子亭の片割れ、妻、和田夏十の大きな存在であって、何かの本で市川崑は撮り方が全くわからず和田夏十に電話しては指示を仰いでいたのだと言う。彼女が亡くなってからの市川崑の酷さを思う。