南の採掘現場
「ロイ内務大臣…。これは…!?」
「この様な保存状態が良い品は例がない。
だが、まだ決め付けるのは早い。
これは古代人の理想や願望の可能性もある。
そう、専門家の意見も聞きたい。
リディア…いや、ロンド騎士団長を喚べ!」
「はっ!」
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ロイが私を採掘現場に呼びつけるなどと…。
まさか、殿下からの求婚に対して私の心意を問い質すつもりか?
いや、どうせ発掘された物を私に見せたいだけだろう。
それでも…真っ先に私を喚ぶのは悪い気はしない…。
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「リディア=ロンド騎士団長参りました。」
「おお、来たか。開いてる、入れ。」
「失礼する。」
採掘現場にあてがわれたロイの個室。
リディアが扉を開けた瞬間にシャーと床を這う音が伝わる。
「しまった、罠か!?」
ロイの名を語って、自分の暗殺を目論む輩の仕業かと剣を握る。
「やめろ、ただの冗談だ。斬るな!」
『それ』が何かはわからずに、音のする方向に刃を向けたが、聞き慣れた幼なじみの声にギリギリの所で剣を止める。
漸く『それ』に気付き…。
「何だ、カラクリ荷車か?それにしても…。」
「古臭い年寄りみたいな言い方はやめろ、リディア。
ゼンマイ車だ。」
「あぁ、そうだったな。だが…この形は何と…?」
「俺にもこれについては古代人が何を考えて作ったかわからん。
馬を模した者なら騎馬戦車部隊の武勇を語る証拠だろうが、まさか…。」
「まさか熊とはな…。何と愛らしい…。」
「子熊を模した人形は多々発掘されている。
しかし、このゼンマイ車は、古代人が熊を愛玩してただけでなく、熊の軍事利用に成功していたのでは?
との仮説が成立するとは思わないか?
騎士としてリディアの意見が聞きたい。」
(フフフ、やはり…ロイはロイか…。)
「よし、次期将軍の私の見解を述べよう。
古代人は確かに屈強な軍事力を誇っていたが『熊戦車部隊』なんか絵空事だ。
それに子熊を可愛いと思っても、頭の良い熊を複数飼い慣らすなんて不可能だ。
屈強な軍事力で熊を無理矢理服従させるくらいなら、その軍備を増強させる方が現実的だ。」
「なるほど。軍人のリディアらしい全うな意見だ。
では何故古代人は
こんなもの
を作った?
「可愛いからであろう?」
「女みたいな意見で誤魔化すな!」
「私は女だ!」続