「う~ん、篠山さん。やはり『師匠』や『イエス様』よりもシンプルに『先生』とお呼びした方が宜しいかと思いますわ。」
「流石はお嬢様。見事な演出です。
台詞1つで篠山さん演じる表情が変わりました!
愛と忠誠の狭間で苦悩する様子が見違えるようです!」
「山際、パリサイ派にイエスを銀貨30枚で売り渡す決断をする前と後でメイクを変えなさい。
心労からヤツれて蒼白く!」
「はっ。」
(もう!表情が変わるって当たり前じゃない!
憧れの赤尾先生(ホントは赤尾助祭と呼ぶべきだけど)を舞台の上でも『先生』って、読んだら『これはお芝居なんだ』『この人はイエス=キリストで、私はユダなんだ』って思い込めなくなるじゃない!
駄目よ…。ユダが師を慕う気持ちが愛情に変わり、イエスもエルサレム生まれのユダを頼り、金銭管理はユダに丸投げだったし…。
必要とし合う二人が惹き付け合うのは当然よ…。
ユダはイエスを愛していた。
愛故に憎しみ、愛故に裏切った。
愛故に後悔し、愛故に自ら命を断った。
私も同じ気持ちだよ。
この舞台が終わっても…。貴方が電気屋さんでも、司祭に合格しても…私は貴方をひっそりと愛し続けます。
真理亜と弥生が教えてくれるまで知らないなんて、私バカだね…。
うん、神父さんは生涯独身だもんね…。
私が先生の夢を邪魔しちゃ駄目…。
でも、赤尾先生が誰とも結ばれないってことにちょっと安心しちゃった。
今、凄く…ユダのやり場の無い気持ちがわかる…。
だって…このやり場の無い敗北感。
下賤な元売春婦にギリギリの所で出し抜かれるなんて!」
「男のおままごとも潮時ね、ユダ!
ごめんなさい、あたし妊娠してるの。
つまり、選ばれたのは、あ・た・し!」
「カット~!そこの庶民!過剰に修羅場の演出するなと言ってるでしょう。
似合い過ぎですわ…。
もう、高校生の色気じゃありませんわ…。」
「その部分では流石にお嬢様も負けを認めましたね。」
「まだ負けてませんわ山際!あんなの直ぐに老けてババアに…あら…失礼。」
「てか、真理亜!あんた聖母マリア
役なのに、何しれっとマグダラのマリア
と二役やってんの?」
「あら、前回、『役…マリア』としか書いてなかったでしょう?」
「こら、メタフィクションはやめて」