学院内の教会へ向かう真理亜。
別にカトリックでもキリスト教徒でもないが、教会の建物そのものは好きだった。
女子校と女子寮ならではの喧騒から離れた教会は自分に落ち着きと癒しを与えてくれる場所だと思っていた。
幼少から叩き込まれた柔術の「静と動」に通じる雰囲気を見出だし、禅寺に共通する物を感じていた。
勿論、その学院内の喧騒の原因を、自分が多々作り出してるという因果には頓着しない真理亜だった。
二言目には学院の名誉だ、伝統だと、形式ばった事しか言わない理事長よりも、聖職者として根気強く自分を導こうとする修道院長のお話は好きだった。
だからこそ真理亜のイタズラはいつも命がけだった。
自分がやった事に関する罰は全て真正面から受ける覚悟がある。
それが真理亜の「今」を楽しむ最大の原動力だったのだが…。
教会内の事務室をノックする前に、隣の倉庫=資材室に目をやる。
「それで隠れてるつもり?
出て来なさい!」
と声をかける。
ややあって、倉庫のドアは開き、中から美しい黒髪の生徒が出てきた。
「流石だな、三好真理亜。最早、野生動物並みの勘だな。」
「山際さん、ごきげんよう。
そんなにギラギラした殺気を出してたら、私じゃなくても気付くわ。
主人が覗きで、召し使いが盗み聞きなんて、素敵な主従関係ね。
貴女がここに隠れてたってことは…剣崎さんも随分つまらない点数稼ぎをするようになったのね?」
「違う!お嬢様は関係ない。私独りの行動だ!」
「あらそう。私は剣崎のお嬢様よりも、貴女を高く買ってただけに残念ね。」
「わ、私にも自分で自分がわからない…。
ただ、修道院長に厳しく指導された後なら、私的に君から聞き出しやすいと思って隠れてただけだ。
バレたのなら先に質問するだけだ。」
「剣崎さんや私の親友抜きで私とだけお話したかったみたいね。
愛の告白は勘弁してね。間に合ってますから♪」
「私が君に聞きたいのは…その君の親友についてだ!」
「あら、鉄仮面の山際さんも、電気屋の赤尾さんに憧れる一人だったの?
大丈夫よ、五月は確かにじっくりお話はしたみたいだけど、まだまだよ。
だから、貴女にもまだチャンスはあるわ。」
「違う!篠山ではない。もう一人の方だ!」
「もう一人?弥生?
あんたお嬢様フェチ?」
「加納弥生本人じゃない!既に付き合ってるのか聞きたいんです!」
「……。」
「顔、真っ赤よ。佳澄ちゃん可愛わね」