水筒に入ったお茶を飲ませるのは、密着度をUPさせる五月の周到な作戦だった。
蓋がコップになってるので、飲み終われば必ずコップを返す時に手が触れる。
ペットボトルなら渡して終わりだし、最悪未開封で持って帰られる。
赤尾俊光は一気に飲み干し、爽やかな笑顔でコップを返した。
その手に触れた時は、篠山五月に取っての満願成就を意味するものだったが、電化製品の修理技師にしては、いや成人男性にしては華奢過ぎる手に驚き、その喜びよりも戸惑いが先行したのだった。
「ありがとう。
ええと…篠山さん…だね、美味しいお茶だったよ。」
五月は赤尾の視線の動きが嬉しかった。
純白のワンピース型の制服に付けた胸元の名札。
そこに書かれた自分の名前を読み取り、名前を呼ばれたことが嬉しかった。
そしてその視線も、自分が過去に出会った工業系の男性らしからぬ優しい視線だった。
自分好みの華奢な体格は同じでも、男性らしさが前面に出た北条学園の高坂漣とは違うんだなと改めて思った。
「さて、天使のリフレッシュタイムが終わった所でもう一頑張り…と言いたいけど…今日の僕には限界だな…。」
「限界?どこかお身体でも?」
修理工らしからぬ繊細な手のひらにギャップ萌えを感じた五月は、赤尾の「限界」との単語に「病弱萌え」を勝手にイメージした。
それはアニメや漫画のキャラクターよりも、昭和や大正の小説に登場する結核を患った書生に近いイメージだったかもしれない。
先走った五月の言葉に当然ながら赤尾は戸惑い…。
「ううん、言っとくけど僕の腕が悪いとかじゃなくて、アンテナは直せても…アンテナを据え付けてる土台からやられてるよ…。
これは流石に電気屋というより土木建築の分野だね…。
取りあえず直ったけど、地面が不安定だとその分受信環境も不安定になるから…学院の専門業者に言っとくよ。」
赤尾が担当する修理が終わった。
この当たり前の事実に寂しさを感じたのは五月だけではなかった。
「五月!今よ。ここで押さないと今生の別れよ!」
「何ですの?
何故あの女だけ赤尾さんと同じ屋上に居られるんですの?」
「あれは…三好真理亜の取り巻きの一人。確か聖歌隊選抜の篠山…。」
離れて見る真理亜達も、隣の屋上から監視する剣崎達も、ここで五月が成否に関わらず告白して終わりと思ってた。
だが…。
「これ、本当に台風の仕業?」
赤尾の言葉に返事出来ず、五月は逃げてしまった。
続