「佐田星明(さだ せいめい)23歳雑貨屋店員です!」
余がウルエル姉さんの恋人役とは…何とも皮肉なものだ…まさしく、道化の姉弟ということか?
いやいや、余には奈々子が、ウリエル姉さんには近藤刑事が…。
ウリエル姉さんの大切な近藤刑事が危険に晒されてる以上、余は自分に出来ることをするのみ…。
それがいち早く余を「弟」と認めてくれたウリエル姉さんへの恩返し…。
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二千数百年前。
「ミカエル!どうしてなの?」
天使長ルシファーは魔界をさまよっていた。
全能なるヤハウェに弓を引いたルシファーは、大天使ミカエル殿によって返り討ちに遇い、右腕を切り落とされ、アビス(奈落)に落とされたからだ。
しかし、ミカエル殿は憎しみでルシファーを切ったのではない。
誰よりもルシファーを愛していたからだ。
ルシファーは誰よりも生真面目だった。
媚びへつらい、讃美歌を歌うだけで出世する熾天使と違い、傲慢なるヤハウェが許せなかったのだ。
ミカエル殿も実直過ぎるほどルシファーを愛していた。
だからこそ二人が直に剣を交えることは避けられなかった。
「せめて生きてさえいてくれれば」
海よりも深いミカエル殿の愛は、味方を欺き、ヤハウェを欺き、ルシファー本人も欺いた。
心意と真意を伝えなかったことでしか、愛する者を守れなかったミカエル殿。
それほど全能なるヤハウェは、自分に歯向かう者を許さなかったからだ。
ミカエル殿はルシファーをアビスに落とした後も、自ら魔界に赴き、ルシファーと天界に帰還することだけを望み、捜索し続けた。
そのミカエル殿の傍らには常にルシファーの姉、ウルエルが居た。
「天界の美人四姉妹」と呼ばれるほど、長女ガブリエル、次女ラファエル、末娘のルシファーと美しかったが、三女のウリエルの天真爛漫さは、その美しさをより際立たせた。
魔界でルシファーは傷ついていた。
「裏切られた。」
「捨てられた。」
「味方をしてくれなかった。」
何度も同じことを繰り返し、何百年も二人の愛を疑った。
そして…ルシファーの心の中から、男性である余は生まれた。
「一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ。すべてが失われたわけではない。
まだ、不撓不屈の意志、復讐への飽くなき心、永久に癒すべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!」
大魔王サタンが産声を上げたのだ。
ルシファーの心は封印された
続