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恋愛小説『Lover's key』

#25-2 一歩前進(shinichi's side)





「運転お疲れ様」


由愛の住んでるマンションの駐車場に着くと、由愛が笑顔で出迎えてくれた。


と、同時に。


俺は由愛の印象が違っていて驚いた。


「何だよ。結構髪切っちゃったんだ」


美容院に行ったことは聞いていたけど、まさかバッサリ切ってるなんて思わなくて。


車の窓から手を伸ばし、髪を触ると、由愛はニコっと照れくさそうに笑った。


「あ、お客さん用の駐車場はあっちだから、あっちに停めてほしいんだけどいいかな?」


「ああ、いいよ」


由愛に誘導されて、俺は来客専用スペースに車を停めた。


車を降りて、由愛と一緒に話をしながらマンションのエントランスに向かう。


「由愛はまだ緊張してない?」


「ううん。。。少し緊張だよ。でも今は、進一のほうがドキドキしてるよね、きっと」


「まぁな。でも、大事なコトだから今日は俺なりにビシっと決めるよ」


そんな会話中に由愛がエレベーターの上階行ボタンを押そうとすると、丁度、マンションの住人が子連れでエレベーターから降りてきた。


由愛が「こんにちは」と会釈をして挨拶を交わしたから、俺も軽く会釈をする。


開いたエレベーターにすかさず俺たちが乗り込むと、2人だけの空間ができた。


「……髪、すごく似合ってる」


俺がそう言うと、由愛もまんざらでもないような笑顔で「ありがと」と答えた。


由愛が住む階は3階だ。エレベーターに乗ってる時間は短い。俺は髪をすぅっと撫でてから由愛の右肩に自分の左手を置き、由愛がこちらを向いた隙に唇に軽くキスをすると、すぐに扉が開いた。


共用通路を抜け、305号室のドアを由愛が開けると「どうぞ」と、俺から入るように促してくれて。


2人が中に入り、ドアが閉まるのとほぼ同時に、部屋の奥からパタパタとスリッパの音を立てながらやってきた由愛の母親に、笑顔で「進一くん、いらっしゃい」と出迎えられた。


「お邪魔します」


俺は若干緊張した面持ちで挨拶をすると、靴を脱いでスリッパを履き、誘導されるままリビングへ向かった。


今日は結婚の承諾を得るために由愛の家に来たから、俺は私服ではなくスーツ姿だ。コートは邪魔になるからと、車に置いてきた。


それを察したのか由愛の母親が「今日はお天気いいけど寒いわね。ソファーほうが暖かいからそちらに座って」と促してくれた。


俺は「はい、ありがとうございます」と言ってソファーに向かうと、先に手土産の御菓子を手渡してから腰掛けた。


由愛はそんなやりとりをキッチンで見ながらお茶を3つ淹れて持ってきてくれて。テーブルに置くと、御盆を片付けてから俺の隣に腰掛けた。


由愛の母親は斜め向かいのソファーに腰掛けている。


何から話そうか、と考える間もなく、由愛の母親が軽い雑談を振ってきてくれて。


それに乗っかるように、俺の仕事の話や由愛の大学の話、病院の話など各自様々に話して少し会話に花が咲いた頃、隙を見て俺から本題に入った。


「今日、こちらに伺ったのは他でもない、由愛さんとの将来のことについて承諾を得に来ました」


少し姿勢を正し、由愛の母親へ頭を下げて。とうとう、人生で初めての“あの言葉”を伝えた。


「娘さんと結婚させてください」


…ドラマなどでよく見かけるセリフだけど、他に上手い言葉は思い当たらなくて。


緊張しながら返答を待っていると、意外にすんなり由愛の母親は答えてくれた。


「娘を宜しくお願いしますね」


顔を上げると、由愛の母親は嬉しそうに微笑んでいて。


「娘を褒めるなんて親バカかもしれないけど、由愛は本当に家族想いのいい子なの。だから進一くんのようにきちんとした男性が由愛を好きになってくれて、お嫁にもらってくれるなんて本当に嬉しいのよ」


面と向かってそう言われるとは思ってなかったから、俺も照れくさい気分になる。


ふと、隣に居る由愛を見ると由愛も母親の発言に照れているようだった。


「お母さん、恥ずかしいよ……」


そんなこと言わなくてもいいじゃない…とでも言いたそうな素振りで、由愛の顔が少し赤くなっていた。


その後は、俺から海外赴任の説明をしたり、今後のことについて今分かる範囲で話をすると、由愛の母親は熱心に頷きながら聞いていてくれた。


「そうよね…。来年の4月なんてあっという間よね。そうなるとお式とか挙げる余裕はやっぱり無いかしら…」


娘の花嫁姿は見たいと、子を持つ親ならきっと切に願っているに違いない。俺もそんな気持ちは酌みたいと思っている。


由愛の母親の発言の後、俺はとある提案をした。


「実はまだ自分の両親にも話していないんで何とも言えないんですけど、できたらフランスでの挙式を考えてるんです」


日本で式を挙げるには時間が無さ過ぎる。バタバタするよりはゆっくり準備するのもいいかなと思った。


「7月15日が由愛の誕生日なんで、その頃に家族だけをフランスに呼んで身内だけの結婚式を挙げたいんですが…」


「え…私の誕生日に?」


由愛は突然の俺の提案に目をまんまるくさせて驚いている。それはそうだろう。由愛にも今初めて言う話だったから。


「うん。実はこの間からそう考えてたんだ。せっかくだから由愛の誕生日を俺たちの記念日にもしたくて」


そんな説明をすると、由愛は「ありがとう」と言って再び頬を赤く染めていた。


でも。実はそれにはひとつ心配事があって。


もしそうなった場合、由愛の母親は看護婦という仕事柄、長期休暇を取れるかが心配だった。


それを口に出して確認しようとした矢先。


「あら。それ名案ね!もしそうと決まったら私はリフレッシュ休暇を取るから大丈夫よ。娘の結婚式じゃ尚更、誰も文句は言わないだろうから」


見透かされたように的を得た言葉が返ってきて、俺はホっと胸を撫で下ろした。


「よかった。それじゃ、ちょっと自分の両親ともよく相談してみます」


そんな話からまた会話に花が咲いて、俺もその辺りからは大分リラックスして過ごせたと思う。


途中で昼飯をごちそうになったりしていたら、あっという間に時計は午後2時を回っていた。





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