やや残念な結果に終わった、TA-F555ESL様 は、
その一方で新たな知識を、わたくしに授けてくれたのです。
「 どうやら 「MOSえふ・いー・てぃー」 には、
いくつか種類があるらしい」
開発世代やメーカーの差が、随分と音にでるらしい、と、
そのことを知ったわたくしの、心の底にはまたしても、
例のはしたない助平心の、種が蒔かれたようでした。
その芽が出たのは2006年、
MOS採用がトレンドだった、90年代中ごろの、
各種のあんぷが中古市場にそれまでよりもこなれた値段で、
出回り始めた時期でした。
なかでも「UHC-MOS」と言う、DENON様のあんぷには、
おーでぃお雑誌の露出も多く、まず試したいと思ったのです。
もっとも当時、店頭にあった、この社のあんぷを聴く限りでは、
金物くさい高域に、押し付けがましい低域と聞こえ、
ちょっと自分に合わないかな?と、思った中で、このひとだけは、
全体的には陽性な、音の作りと感じても、
オーバーになる直前で、踏みとどまった纏めかたと、
僅かに固さをのぞかせつつも、程よく締まった低域と聞こえ、
90年代初頭の頃の、でんおん様のあんぷに感じた、
「良心」を思い起こさせたのです。
また、DENON様の各種あんぷが、年を追うごとに恐竜の如く、
その大きさと重さをば、とめどなく増していくのに比べ、
このひとだけは常識的な、サイズのぼでぃに留まっており、
弐拾とんで弐萬圓也の、その定価をば考えたらば、
ゴージャスな風は弱いけど、実際この手に抱えたときの、
手応え確かな凝縮感にも、好印象を持ったのです。
自宅のセットに組み込んでみても、大きな印象の違いは無くて、
鮮度の高さを良くアピールした、でも薄口一辺倒にせず、
中域あたりの密度にも、その定価なりの厚みを感じて、
確かに素性の高さをば、感じて取れる歌声なれど、
告白すれば、わたくしは、どれだけ 「暖機運転」 しても、
このあんぷでは2時間と、聞き続けられなかったのです。
当時わたくしがメインのあんぷに、
据えていたのは「らっくすまん」のL-540様 でした。
そのナチュラルで落ち着いた声に、いつか馴らされたわたくしの、
そうでなくとも四十路手前の、くたびれ始めたこの耳に、
かの陽性な歌声は、やや聴き疲れるようでした。
でも、この鮮度感も捨てがたく、
当時抱えた多くの機材が、この後程なくわたくしを襲った、
「シロアリ被害」の対策資金に、変わってこの手を離れる中で、
普段聞きでは無いけれど、新しい機器を試す用途にと、
このひとは手元に残したものの、
以前に書いたSM-SX10様 に、その地位さえも奪われて、
2008年の卯月の半ばに、わたくしのもとを去ったのです。