(本の紹介)『ビジュアル英文解釈 Ⅰ・Ⅱ』(伊藤和夫著) その2 | 真面目に脱線話@リンガランド英語塾

真面目に脱線話@リンガランド英語塾

英語や芸能など、思いついたことを適当に書いていくという、そういうブログです。

考えてみると、『ビジュアル英文解釈』が実現しようとしたのは、人間が自然にことばを身につけていくときをシミュレートしたような環境です。そして、それはほぼ成功してます。1つの参考書でそれが成し遂げられたことは奇跡に近いと言っても過言ではないと私は思います。



『ビジュアル英文解釈』の英文選択や英文のとり方・並べ方は芸術的としか言いようがありません。



これほどの計算し尽くされた参考書は、日本には1冊もないと断言できます。ほぼ異次元のレベルを持っています。



これは伊藤和夫という希代の頭脳を持った英語講師だからこそできた名人芸でしょう。ただ、かりに「もう1冊、同じくらいの本を書いて欲しい」と言って書いてもらえたとしても、さすがの伊藤氏でも無理だったかもしれません。それほど奇跡的な力を持ってます。



むろん『ビジュアル英文解釈』にも短所があります。



その最たるものは、読んでいて、自分が何をやっているのかわからず、達成感が得にくいことです。それはちょうど地図を与えられず、標識だけで目的地に向かっている状態に似ています。



『英文解釈教室』では明確に何をやっているかをわかるのに、『ビジュアル英文解釈』ではすべてが伊藤和夫の意図の元に進むしかありません。何をやっているかわからないために、読み進みながらなんとなくわいてくる不安感とたたかっている読者もけっこういるのではないかと想像します(そういう意味で、『英文解釈教室』は指導者が指導法の参考にするのに向いています)。



『英文解釈教室』は批判的に読んでも力がつきますが、『ビジュアル英文解釈』は著者を信じて先に進むしかありません。あたかも宗教書のように盲信して読むほかない参考書です。自分を抑えて本を信じて読んでいくしかないために、知的水準の高い読者ほど挫折しやすい傾向があるはずです。



これは、伊藤和夫というひとが「自分ほど英文読解をちゃんと教えられる人間はいない」という、傲慢と言えば傲慢な自信があり、かつそれに見合う実力を持っていたからこそでしょう。その「独善性」についてけない読者ももしかしたら少なくないのかもしれません(本当はそれは独善ではありませんが)。



読解参考書を2つに分けると、品詞分解を土台とする「返り読み」系と伊藤氏の「英語の語順で処理する」系の2つがあります。ほとんどの参考書がこの2つの極のあいだに存在します。



その一方の極をになうのが『基本からわかる 英語リーディング教本』であり、もう一方の極をになうのが『ビジュアル英文解釈』です。



両者のちがいは「文法の無意識化」をどのように考えるかにあります。



英語を正確に読む道具として文法を駆使したいのであれば『英語リーディング教本』でもいいし、あくまでネイティブのような読み方を最初から目指したいのなら『ビジュアル英文解釈』がよいということになります。



私が英語講師のアルバイトをしていた(おもに大学生の)とき、伊藤和夫というひとはいろんなところで批判されていました。受験生のときに伊藤氏の本で勉強したひとが講師に多くいました。塾や予備校にも「伊藤和夫の欠点」をあげつらって、自分の正しさをうそぶく講師がたくさんいました。伊藤氏と自分とを差別化しようと必死だったのかもしれません。



そんな講師ほど参考書で自分の指導法を出し惜しみする傾向があります。なぜだかわかるでしょうか?



それはまさに市場原理のせいです。自分が得意とするやり方を公開すると、高い授業料を払って自分の授業を聞きに来てくれなくなるかもしれません。また、公開したとたん、ライバル講師の批判にさらされるかもしれません。苛烈な競争社会である予備校で、それは死活問題ですらあります。本を売って名前を売る、しかし、授業のプレミアになる情報は公開せず残しておきたいというジレンマに悩んでいます。



伊藤氏はそんなことにとんちゃくしませんでした。予備校内の地位より自分の指導法の普及をめざします。その恩恵を全国の学習者は受けました。



伊藤和夫を批判する先輩講師たちに、まだぺーぺーの私は「伊藤和夫はあなたのような小さなひとではないと私は思う。まちがっているのは伊藤和夫が理解できていないあなたではないのか」と心の中でつぶやきました。そして、それを声高に言えない私もまた小さい人間です。



私たちは伊藤和夫という天才が、多くのエリートを輩出した駿台予備校で指導したエッセンスを、わずか数千円で受けられることに感謝すべきだと考えます。『ビジュアル英文解釈』は、伊藤氏が駿台予備校という場をあえて離れて、全国で自分の指導を与えるためになした仕事にほかなりません。これは幸運と言ういがいにありません。



ただ、その幸運を得るためには、『ビジュアル英文解釈』がどんな本なのかを誰かが説明しなければなりません。もったいないことに、『ビジュアル英文解釈』は、一見してどんな本なのか見えにくい参考書です。だから賞賛を浴びる一方で、たくさん誤解を受けてきました。



そんなわけで今回『ビジュアル英文解釈』について書きました。この本や伊藤氏の本についてはいろいろ考え方があるでしょうが、その1つの考え方として提示しました。



(アマゾンのリンクです)
英語リーディング教本―基本からわかる
英文解釈教室
ビジュアル英文解釈 (Part1) (駿台レクチャーシリーズ)
ビジュアル英文解釈 (Part2) (駿台レクチャーシリーズ)


ネイティブ発想でやりなおし英文法-リンク


にほんブログ村 英語ブログ 英文法へにほんブログ村 英語ブログ やり直し英語へ