レビー小体型認知症診断の問題点 -その2 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

レビーの特徴であるパーキンソニズムも誤診を招く大きな要因である。


振戦は目につきやすいので、一般の内科医も見逃すことは少ないのですが、固縮やそれに伴う姿勢の異常・小刻み歩行などは見逃しやすいようです。オーラルジスキネジアは高齢者に多いのですが、多くは脳血管障害に伴うと考えられています。レビーでもオーラルジスキネジアを認める事はあるのですが、手の振戦はあまり目立ちません。
姿勢の変形も高齢者で起こり易いと考えられています。
特に女性の場合、骨粗鬆症に伴う腰椎の変形により腰が曲がる事が多いので、パーキンソニズムの姿勢の異常は見逃されやすいでしょう。
私もフェルガード100の試用で、多くの方の腰の曲がりが改善したのには驚きました。
レビーの固縮は、河野先生は歯車様固縮と言っておられますが、必ずしも歯車様固縮とは限りません。河野先生はファーストリジットと名付けていますが、最初のみ筋の緊張の高まりから抵抗を感じますが、すぐ固縮がなくなり抵抗が全くなくなります。また自分で動かすときは、固縮がほとんどなくなる場合もあります。非常に素早い動きが瞬間的に出来ます。私はパーキンソン病の静止時振戦をもじって、静止時固縮とこの現象を呼んでいます。静止時振戦とは、意識的に力を入れない場合、振戦が目立ち動かそうとすると消失する現象です。
また関節の曲げ伸ばしをしていると、本人が明らかに動かしている場合もあります。この程度の異常の場合、認知症のためこちらの指示に従っていないだけと考える医師が多いようです。パーキンソン病を知っている医師ほど、認知症のためとしがちだと思います。
後は曲げ伸ばしを10回程度繰り返していると、急に筋緊張が高まり、全く動かせない場合もあります。格闘技のアスリートならこの現象も判りますが、高齢者ではこれほどの筋力は基本的に出るはずがないと言うレベルです。
レビーの方の歩行では、すり足の傾向があっても歩幅が広い方も多く、見つけづらい場合も少なくないという印象です。
このように、レビーのパーキンソニズムは、知識がある方ほど理解困難な症状が多いのです(こんな事は起こりえないと考えがち)。
認知症治療病棟には病棟ごとに専任のOT(作業療法士)がいます。彼らは、身体的なリハビリも学生時代に勉強はしています。そのOTでさえ、レビーのパーキンソニズムについては理解に乏しいのが現状です。さすがに今までここに私が指摘した症状がある事は気づいていますが、このような奇異な症状を呈することは理解できないようです(今までの医学的知識では理解できない現象もあると思います)。
私がレビーの場合こうなるよと説明すると、すぐ理解してくれますが・・・。
私が指摘した指の変形は、パーキンソン病で認めることがあると言う記載を教科書で見つけました。ただこのような指の変形を呈する方は多くはないようです。
レビーの方でも、母指以外の錐体外路障害に伴う指の変形は見られることは少ないです。
この指の変形はあまり知られていないようです。この指の変形のうち母指の変形は良く見ます。特に歩行障害が進行してくると、かなりの率で認められます。
このようにレビーのパーキンソニズム自身も十分理解されているとは言えません。
錐体外路症状(広い意味でのパーキンソン症状)の知識がある方ほど、判断を誤るでしょう。
レビーをパーキンソン病と誤診する医師が多いようです。

厳密に言うとレビーとパーキンソン病では障害される脳の領域に差があるようです。
剖検した例では、認知機能の低下があるとレビーであり、認知機能に問題がない場合パーキンソン病とはっきり分けられるようです。

認知機能の低下とパーキンソニズムを合わせもった方は、認知症専門医はレビーと診断します。神経内科医はパーキンソン病と認知症(レビー小体型認知症と判っても)は別々に発症したと考えたがるようです。抗パ剤の副作用に無頓着なのも神経内科医に多いようです。精神科医に抗精神病薬による副作用に無頓着なのと同じように・・・。どちらも治すためには、多少は仕方がない。と言うことで、効果がなければ薬をどんどん増やす傾向まで同じです。このため河野先生はレビーを神経内科医と精神科医に見せてはいけないと言っています。
少し話がそれましたが、パーキンソン病で幻視が出てくれば、レビー小体型認知症と考えるべきなのです。最近では、レビー小体型認知症とパーキンソン病を合わせてレビー小体病として取り扱ったほうが良いと言う意見も多くなってきています。このように同一の疾患と考えたほうが良いと言われるものを、無理に分けると、間違いが起こりがちになります。

パーキンソン症状もかなり進行しないと見逃されやすいです。
パーキンソン症状が進行し、体幹~下肢の固縮が高度となり、ベッド上で寝たきりとなり寝返りも困難になった方が、療養型病床(特に介護療養型で)で多数見かけます。当然認知症もありますので、レビーと考えて良いと私は思っていますが、その方々は、レビーと言う診断も付いていない方が大部分です。
最近は在宅で訪問している方で認知症がある方と確認できる方の中でも、レビーの方が目立ちます。
確かにアルツハイマーの方は、取り繕いが上手なこととなどから他人には見つけづらい傾向にありますが、それでもレビーの多さに危機感を感じています。