ある認知症専門医の回顧録

認知症治療にかかわって20年を超えます。
現在は慢性期の認知症専門病院の認知症治療病棟でまったりと仕事をしています。
今までかかわった認知症の方から学んだことを、忘れないように書きとめいて行こうと思います。更新は、たまにしか出来ないと思います。


テーマ:
①病識の有無について
MCI(経度認知機能低下)~アルツハイマー初期を除くと、高齢のアルツハイマー型認知症の方は病識が無いことがほとんどである。これに対してレビーの場合、短期記憶障害が高度でも病識が残っている場合が多い。
アルツハイマーの方の病識が無くなるのは、短期記憶障害のため最近の出来事である自分の短期記憶障害をも忘れるためと考えてるが、これだけだとレビーの短期記憶障害の強い方について説明ができないが・・・。

両者の差はある質問をするとはっきりする。
私は認知症が疑われる方にある程度コミュニケーションが取れるようになると、
「皆さん年をとると物忘れが酷くなると言いますけど、〇〇さんはどうですか(大丈夫ですか)?」と聞きます。
相手の反応によっては「私も最近物忘れがひどくて困っていますけど」と付け加えます。

アルツハイマーの方は(初期を除き)、
「(皆さんそう言いますけど)私は大丈夫です。」などとあっさり、明るい表情で答える。
あといろいろ聞くと、聞いたことに対して、自分の過去の経験や常識で作り出したもっともらしい答えを言う場合が多い。
決して「忘れました。」とか「判りません」と言う言葉を口にすることはない。

レビーの方の場合、
短期記憶障害が目立たない方でも
「忘れっぽいです。」と困ったような・暗い表情で答えることが多い。
あと「頭が馬鹿になった」とか「頭の中が空っぽ」などと言う表現を付け加える方が多い。
いろいろ質問しても「判りません」とか「忘れました」などと回答することが珍しくない。

この質問だけでもアルツハイマーとレビーの差は明らかになる。
(この質問は、家族はしないほうが良い。人を馬鹿にしてと相手を怒らせるだけで、介護上悪影響が出てくることが
多いと予想されるからである)。

若年性アルツハイマーは、ほとんど診察したことはないが、短期記憶障害の自覚は強いようである。かなり進行しても一人にしておくと表情が険しいのはこのためと考えている。
アリセプトがアメリカで使用され始めたころ、アメリカの専門医が次のような発言をしている。
「私はアルツハイマーの方にアリセプトを使用することに罪悪感を感じる。と言うのは、アリセプトを使用すると、
記憶がなくなると言う恐怖感を二度味あわせることになるから。」と書かれた記事を目にした。
アリセプトを使いのも善し悪しだなと思ったが・・・。日本で発売される見通しがまだ無かったころの話である。

若年性アルツハイマーの高齢発症した方が(と言っても70~71歳で発症)、私がアリセプトを使用した最初の症例である。
この方は、短期記憶障害に対してアリセプトが非常に良く効いた。物の1か月程度の服用でほとんど異常を感じないレベルになった。それまでは短期記憶障害の不安で、精神的に非常に不安定だったのが、穏やかになってきた。
たまに「私はどうなってしまうのかな?」と不安を口にしたが、「薬が効くから大丈夫」と言うと安心されていた。
アリセプト服用を続けていったが、本当に良い状態は半年程度しか続か無かった。徐々に短期記憶障害が再度進行してきた。
短期記憶障害の進行より頭頂葉の機能障害である認識の障害(失認)の方が先に目立っていたが・・・。
このためか、不安により精神状態が再度不安定になっていった。
その後1年ほどして、短期記憶障害も服用開始前より低下し、もはや効果がないと思いアリセプトを中止した。すると徐々に日常生活動作の喪失が認められるようになってきた。家のトイレの場所が判らない・着替えが出来ない(介助でも)・食べ物の食べ方が判らないなど・・・。
この時は、アリセプトの短期記憶障害に対する効果が限定的なことと、アリセプトによる頭頂葉の機能保持が図られている(日常生活動作の保持)ことなど、その後徐々に判ってきたが・・・。
私はいまだに高齢者のアルツハイマー型認知症と若年者のアルツハイマー病とは全く別の病気だと考えているが・・・。

②運動能力について
アルツハイマーとレビーの顕著な差は、運動能力の低下についてである。
レビーはパーキンソニズムのため徐々にADLが低下してくるが、アルツハイマーは基本的にADLの低下はほとんどないことである。ある90歳台の男性であるが、アルツハイマー型認知症と考えられたが、冬場の寒い時期(12月~2月くらい)は、寒いと言って一日のほとんどをベットの中で過ごしていた。トイレや極限られた用事など自分が必要と認めない場合は、ベッドから起き出すことはなかった。このような長期安静にもかかわらず、ADLの低下はあまり感じなかった。さすがに3シーズン目を過ぎたあたりで、徐々に筋力の低下を感じていったが、95歳と言う高齢であることを考えると、その程度は仕方がないと言う感じであった。
この時いわゆる廃用症候群と言うのは、実はあまりないのでは無いかと考えるようになった。運動機能の低下が急に進行する場合、脳梗塞・脳出血による片麻痺もあったが、多くはパーキンソニズムの急速な進行である。すなわちレビーであることが判る(一部ピックもあるが)。
河野先生は講演会などで、アルツハイマーを元気ボケと表現することがあるが、運動能力の低下を認めない事が多いことを示していると思う。

③最後は尿意の有無である。
アルツハイマーの方はかなり進行しても尿意がある場合が多い。脳梗塞や大腿骨頚部骨折などで運動能力が低下すると、おむつを使用するようになるが、オムツを使用している方は多くはない。
時に進行し、トイレの場所が判らなくなると、部屋の隅やゴミ箱などに排泄する方も出てくる。記憶の中にある昔のトイレをイメージさせるような場所を選ぶ。有る施設で、良く放尿される場所に、赤いテープで鳥居を描くと不思議としなくなると言う話を昔聞いたことがある。男性と女性で排尿時の目の高さが違うので、目の高さに鳥居は作らないといけないと言う話も聞いた。
昔の方は鳥居は神聖なものなので、放尿してはいけないと言う教えが、身に付いているためと考えられる。三つ子の魂100までと言うことわざが、正しいことを感じさせるエピソードである。
アルツハイマーで尿意がなくなった場合脳血管因子の影響が考えられる。このような場合はプレタールやプラビックスを使用すると、劇的に改善することがある。尿意以外の認知機能にも非常に良い効果がある場合があり、プレタールやプラビックスは積極的に使用したほうが良いと思うようになった(バイアスピリンなどのアスピリン製剤だと効果がないと思われる)。

私は尿意がなくなりオムツを使用せざるを得なくなった方は、基本的にレビーと考えている。

河野先生のレビースコアや、レビーの診断基準を用いなくとも、この3点について確認できれば、ある程度アルツハイマーかレビーか区別できると私は考えている。
特に短期記憶障害に対する質問への回答の仕方と言うのは、両者で大きな差があると言うのが私の実感である。
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