Takeda Actos訴訟、懲罰的損害賠償額減額→でもまだ通常賠償額の25倍 | 日々、リーガルプラクティス。

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現在、上場企業で法務を担当、
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CAL Bar Exam合格を目指しています。

先日、第3回ライトニングトークが開催されましたね。今回は残念ながらエントリーが遅れたために参加することができませんでした。それにしても皆さん(はっしーさんとかKataxさんとかMSUTさんとかはややさんとか川井先生とか伊藤先生とか柴田先生とか)のブログを見ているとめちゃくちゃ有意義な内容だったようで羨ましい限りです。。。実は10月29日は妻と子供たちが里帰りから帰ってくる日だったので(すっかり忘れてました)、結局いずれにしても参加できなかったのですが。。。

それにしても、子供というのは1人と2人というのは大きな違いですね。。。身をもってひしひしと感じ始めました。子供の夜泣きのタイミングで上手く朝早く起きて勉強するようにするか、夜勉強するかは、現在手探りのなか思案中。


って余談はこれくらいにして本題。

以前からこのブログで紹介している(このエントリとか、あのエントリとか)、武田薬品工業の2型糖尿病治療剤「アクトス®」に起因する膀胱がんを主張する製造物責任訴訟ですが、先日ルイジアナ州西部連邦裁判所にて、当初60億米ドルが課されていた懲罰的損害賠償額を約2,700万ドルに減額する決定がなされました。(裁判所の本決定の全文はコチラで見られます。武田薬品のプレスリリースはコチラ。)

やっぱり減額されましたね。以前のエントリで、合衆国憲法の修正第14条が定めるデュープロセス違反かどうかがポイントになる、という話をしましたが、60億ドルという懲罰的損害賠償額は違憲、ということで減額されました。


それで、懲罰的損害賠償の額等について少し興味深い点があったのでいくつかメモ程度に残しておきます。



減額されても、未だ最高裁判例によるメルクマール超え


まず、前回のエントリでは"Motion for remittitur"がなされているのかどうか分からないという話をしましたが、今回の決定文の最初に、"Motion for New Trial"、つまり再審の申立て(=もう1度公平な陪審員を選びなおして陪審員裁判の部分をやり直してほしい、という申立)において、Remittiturの申立が含まれていた、とのことです。このあたりの実務まではよく分かりませんが、そういうものなんですね。なお、「Remittitur」というのは、陪審員裁判後の判決における損害賠償額を、裁判官の判断で減額することを言います。


それで肝心の懲罰的損害賠償額の減額の判断についてですが、決定文のポイントとなりそうなところだけ斜め読みした感じでは、まず懲罰的損害賠償の額について、懲罰的損害賠償を課すための要件事実/構成要素を1つ1つ分析し、その要件事実/構成要素ごとに、今回の具体的事実状況と過去の判例における判断とを照らし合わせて検討し、今回の事案は非常にFact Specificなので真の類似事案はない、と触れつつも、それらの検討内容を踏まえて、通常の損害賠償額に対して、懲罰的損害賠償として課し得る最高額はその25倍だ、と結論付けています。

最初の60億ドル、という懲罰的損害賠償額が通常賠償額の5,424倍(!!)だったこともあり、この「25倍」という数字はめっちゃ減額されている印象のみで終わってしまいそうですが、「25倍」という数字は結構スゴイ数字だと思います。

というのも、懲罰的損害賠償の合憲性に関するリーディングケース(合衆国最高裁判例)であるBMW of North America, Inc. v. Gore, 517 U.S. 559 (1996)において懲罰的損害賠償の合憲性の検討に関する3要素テスト(Three Prong Test)が確立された後、同じくリーディングケースであるSTATE FARM V. CAMPBELL, 538 U.S. 408 (2003)にて、「懲罰的損害賠償の額は、憲法上の要請から、通常の損害賠償額の10倍未満に抑えられるのが通常」という1つのスタンダード/メルクマールが確立されているからです。

そういった意味で、25倍の懲罰的損害賠償額が維持されている、ということは、未だに結構厳しい見方がされている、ということになるのではないでしょうか。


RemittiturとReductionとの違い


あともう1つ興味深いのがコレ。裁判所は今回の懲罰的損害賠償額の減額において、今回の決定はReductionであって、Remittiturではない、と述べています。

というのも、Remittiturについては、陪審員の評決及び判決内容がUnreasonableである場合に裁判所の裁量によって行われるのに対し、デュープロセスの観点から陪審員の評決及び判決内容に違憲性があれば、裁判所が修正するのはMandatoryである、と述べられています。そして何より、Remititturというのは、原告にとっては合衆国憲法修正第7条の陪審員裁判を受ける権利を侵害する可能性があるため、被告側への賠償額を裁判所の裁量によって減額しようとする場合、原告側には、それを受入れるか、または再審(New Trial)を選ぶかの権利がある。一方、陪審員の評決及び判決内容における賠償額が違憲であれば、その減額は強制的であり、陪審員裁判を受ける権利の侵害には当たらない、という判断となっています。

なるほどー。そういえばRemittiturの判断が下されるときは、原告にNew Trialを選ぶ権利がありましたね。Bar Examでも出る可能性ありです。

今回も非常に勉強になりました。


ところで武田薬品側は、今回の裁判所の確定判決に対しては、控訴する予定、とのことです。あとはこの「通常の損害賠償額の25倍の懲罰的損害賠償額」というのが連邦控訴裁判所でも支持されるのか、というのが注目される点ですね。

本件はスルーさえしなければ、またとりあげようと思います。