平井景セッション ~THE TRIO~ at DOLPHY | IN VINO VERITAS

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とあるヴァイオリン弾きの日々雑感

平井景スペシャル…ではなく、セッション!THE TORIO!
その命名にふさわしい、トリオの魅力を余すところなく味わえる、スーパーセッションでした。

トリオという形は、アンサンブルの原点だと思う。

難しさという点ではソロも難しいし、デュオはいちばん小さな合奏形態とも言えるけれど、そこまでは「個」の要素が強い。
それが3人…三角形になると途端に、バランスのとり方が難しくなる。
そこでアンサンブルの難しさに直面し、と同時に新しい感覚の楽しさが無限に広がってくるのが、トリオの醍醐味、魅力であると、私は思う。

…という話はさておき、

リーダーの平井景さんから「スペシャルではなくセッション」としたことについて語られて始まったこのトリオ。
1曲目は、景さんオリジナル曲「SORA」。

思い描く空は受け手の感性に委ねられているが、私の目の前にはちょうど今頃の季節の…天気のよい日の夕暮れ時の空が、ふわっと広がった。
夏の終わりなので、太陽の光は強烈なものではなく、むしろ涼しい風が吹いているような…。
空は刻一刻と、色を変え、表情を変え…やがて星の煌めきが見え始めた頃、圭司さんのピアノがそれを受けて空への階段を上る。

ここから先はもう、季節や時刻も時系列ではなく、実に様々な空の表情を見せながら、静かに静かに…ゆっくりと音が紡がれていく。

このくだりで既に、今日のライブが素晴らしいものになることが約束されたかのようなSORAでした。

2曲目は、ベーシスト平石カツミさんの曲で、Questions…?でよいのかな。
現在制作中のリーダーアルバムに収められる予定の、新曲ということでしたが。

この曲だけでアルバムの全体像を予想するのは難しい、というくらい、表情豊かで遊び心満載の曲で、早くも他の曲が聴いてみたい衝動に駆られます。

この日は、アルバムのリリースに向けて平石さんをフィーチャーする場面も多かったですが、松本圭司さんのピアノも炸裂。

なんというか、宝石を繋いだネックレスから、ダイヤモンドや何かがきらきらと輝きながら零れ落ちていくような…時にその紐が切れて、ザーッと宝石が飛び散るような瞬間もあったり…実に美しい音が奏でられていました。

1部最後の「Englishman in New York」では、景さんによって8分の7拍子にアレンジされたちょっと変則的に感じるリズムに乗って、圭司さんのピアノはいい意味で小節線を感じさせない流れと勢いがあって、本当に楽しい。
もう、指が折れるんじゃないか…っていうくらい弾きまくる圭司さんが紡ぐ音に釘付け!

そういえば、圭司さんのピアノをピアノトリオで聴くのは初めてでした。

デュオはありますし、3人という形態もあったと思いますが、フロントに誰かいる編成しか記憶にないので。意外にも、ピアノトリオをがっつり聴くのは初めてでした。

すごい!
ますます惚れました!

少し休憩を挟んで、興奮冷めやらぬうちに第2部に突入。

第2部も、3人の技と個性がバランスよく散りばめられた、飽きさせない…むしろ聴き入って時間を忘れてしまうほどのセッションが続きます。

圭司さんの「Fearless」…
ポジティブなイメージで付けたタイトルだそうですが、これまたいい意味で、何でもありな自由さが混ざり合って形成されていくような展開。

多国籍というか、あるいは無国籍なのか…。
アジアのようで…北欧のようでもあり…。
スパイシーな香りと、バニラのような煙草の匂いが混ざったような。

これも圭司さんらしさの一つの要素かなあ…と、惚れ惚れしながら聴いていました。

さてさて、平石さんのアルバムの話、録音は既に済んでいるとのことですが、懸案事項はジャケット!

いわゆる…ジャケ写をどうすか、とか。
キャッチコピーは?などなど…

客席にもアイディアを求められましたが、なんせ、一言では言い表せない多彩な表情を持つベーシストですので、「これ!」という限定されたアイディアが浮かびにくい…。

トリオで披露してくださった「Freedom」では、平石さんがトランペットを吹く場面もありましたが、Freedomというより、もっと直接的な、 Movementというか(躍動感、流動感…という意味での)、Actionとか、Motionを感じる曲で、この人は自由を与えられて動いているのではなくて、自ら自由を作っているんだなあ…と、あらためて思いました。

はてさて、ジャケットのデザインは、どうなるのでしょうか…。

そんなことをじっくり考えている暇などあるはずもなく、あっという間にお開きの時間。

「Buy Today's Honey By Tomorrow's Money」で、最後までご機嫌に突っ走ります。

借金してでも…!いや、お金の問題はともかく、明日のことより、今日できることをやろうじゃないか、というエールにも聴こえるこの曲。
明日はないかもしれないと思うと、一日一日、今日を、今を精一杯生きなきゃな、と思います。

いつも感じることですが、景さんのドラムは、打にキレがありながら、メロディアスというか…歌心を感じるので、これでもか!というドラムソロも、もういいよ!と思うことがないのです。
いつまでも聴いていたい。
もし一言で表せと言ったら、景さんのライブの魅力はこれではないでしょうか。

いつまでも聴いていたい。

平井景セッションでした。



松本圭司(Piano) 平石カツミ(Bass) 平井景(Drums)
At Jazz Spot DOLPHY(横浜)