サインバルタの治験の失敗の歴史について | kyupinの日記 気が向けば更新

サインバルタの治験の失敗の歴史について

サインバルタは現在、アメリカ市場で最も売上高の高い抗うつ剤である。最近アップした「米国処方箋医薬品市場における販売実績2012年」の記事から、

2012年のアメリカ処方箋医薬品市場の金額ベースの順位。(単位:百万ドル)

1、エビリファイ 4066(抗精神病薬)
2、アドエア 4011(気管支拡張薬)
3、ランタス 3969(糖尿病治療薬)
4、エンブレル 3967(リウマチ治療薬)
5、サインバルタ 3918(抗うつ剤)
6、レミケード 3583(リウマチ治療薬)
7、リツキサン 3320(モノクローナル抗体)
8、Neulasta 3207(免疫賦活剤)
9、クレストール 3164(高脂血症治療薬)
10、Copaxone 2893(多発性硬化症治療薬)

上の表のように精神科以外の薬品を含めても第5位、40億ドルに迫っており、1位のエビリファイと遜色ない。米国ではプロザック、ゾロフトなどは既に先発品からジェネリックに替わっていることもあるので、トータルの処方箋数では1位ではないかもしれない。

サインバルタ(デュロキセチン)は1980年代後半にイーライリリー社により合成されている。1990年頃、アメリカで20㎎および30㎎の用量で臨床試験が開始されたが、なんとプラセボとの有意差が出ず、1995年には開発中止に追い込まれている。

この理由は、プラセボが効きすぎることと、新しい向精神薬は効きにくいため、有意差が出なかったこともあると思われる。精神科医も、使い慣れない薬は不思議に副作用だけ出て効きにくいものである。その記事は過去ログにある。

アメリカで開発が中断された当時、日本でも20~30㎎の低用量での臨床試験を実施していたが、良い結果が得られなかった。トフラニール、テトラミド、レスリンなどとの二重盲検比較試験が行われている。(2002年、日本でも申請却下)

当時の経緯だが、1990年ころ、イーライリリーと塩野義製薬との共同開発ではじめられたが、20~30㎎でプラセボとの有意差が出なかったため、第Ⅲ相試験に入らないことが決定された。その後、トフラニールとの比較試験では、イーライリリーが撤退し、塩野義製薬単独の開発になった。2002年に申請が厚生労働省に却下されて、40~60㎎の高用量の臨床試験を決断している。

イーライリリーは、塩野義製薬の臨床試験の成績をみて、高用量では臨床試験がうまくいくと判断したようである。その後、イーライリリー社は40㎎および60㎎の用量で、1999年に再び臨床試験を開始し、2001年にFDAに申請、2004年4月に承認されている。

日本では、40㎎および60㎎での試験を実施し、パキシルとの比較試験などを経て、2010年1月晴れて、日本でも承認されている。なんと開発から20年経って、やっと日本で上梓されたのである。

サインバルタのようにアメリカ市場で1位になるほどの優れた抗うつ剤でさえ、このように臨床試験は苦戦する。

また、このような経過を見ると、サインバルタの上梓には塩野義製薬の貢献は大と考えられる。現在、サインバルタのパンフレットでは、

製造販売元 シオノギ製薬
販売    日本イーライリリー株式会社


と記載されている。

参考
精神科医と薬、エイジング