日本の医療費と調剤薬局について | kyupinの日記 気が向けば更新

日本の医療費と調剤薬局について

日本の2013年度の医療費は前年度より約8千億円多い39兆3千億円だった。今や、国民の医療費は40兆円を超える時代になっているのである。この大きな理由は、主に日本国民の高齢化によるところが大きい。

厚生労働省は、医療技術の高度化も指摘しているが、明らかに高齢化の影響の方が大きいと思われる。実際、75歳以上の1人あたりの医療費は92万7千円で、74歳以下の4倍以上だったと言う。

かつて、国は医療費が上昇するのは、医師数の増加によるものが大きいと錯覚していたところがある。当時、医学部の定員の削減対策を取り、入学定員120名の医学部は100人くらいに減らされた。しかし、国民医療費は増え続けたのである。

その政策により、特に過疎地域で医師が不足し困る事態に至った。そのようなことから、国立大学医学部定員を昔に戻し、新しい医学部の増設の話も出ているようである。

国民医療費の年次推移を見ると、昭和60年頃、今から約30年前は国民の医療費は15兆円だった。その当時から日本経済はバブルに突入するが、年次推移を見る限り、バブルのように高騰はしていない。日本の医療費は医療保険制度から一定のルールを国が決めているので、理由なく増加などしないのである。

厚生労働省は、この国民医療費40兆円のうち、「調剤」が7兆円だったと発表している。これは全体の医療費の約18%に及ぶ。

この7兆円は少しピンとこないかもしれないが、国民医療費全体の薬剤費は約10兆円で、このうち、調剤薬局に支払われる薬剤費が7兆円と言われている。一般の病院内の薬局の調剤などの技術料は極めて低く抑えられているが、調剤薬局での薬を分割するとか一包化するとか、患者さんに説明するなどの「技術」というか「手間」が極めて高価なのである。

実際、「調剤」の7兆円のうち、3兆円が薬で4兆円は技術料と言われている。(読者の方の指摘あり、この割合は間違いです。文末の付記参照)

極端なことを言うと、調剤の報酬の半分以上が薬剤師や補助のアルバイトの人たちが、薬を棚から取ってきて、患者さんに渡すような実のない業務に支払われているのである。調剤薬局は、より収益を上げるために、さまざまな無理にしなくても良いことをやっている。

かなり厳しいことを言っていると思うだろうが、調剤薬局にはちょっと考えられないほど能力の欠如した、それでも免許だけはある薬剤師が存在する。そのレベルたるや、調剤薬局の補助員の女の子の方が遥かに仕事が捌けるといった感じだ(比べるのもその女の子に失礼)。それでも調剤薬局は薬剤師は必須だし、薬剤師が相対的に不足していることもあり能力がなくても高い報酬で雇用されている。

医薬分業はいわゆるアメリカ風の施策であり、元々はコスト意識が欠如したバブル時代の感覚に基づくものだ。しかし、今や医薬分業でないと成り立たないクリニックも多く、今さら引き返せないのも現実である。これは介護保険制度と同様だと思う。

ブルームバーグによると、調剤薬局チェーンを展開する日本調剤の三津原博社長の2010年3月期の報酬が4億7700万円だったという。この高額報酬だが、これまで開示された中ではセガサミー ホールディングス里見治会長兼社長の4億3500万円を抜いて日本人役員で最高額と言われている。

この日本調剤という会社だが、四季報によると調剤では業界2位で、2014年は総売り上げ1653億円、純利益19億円、一株利益262.5円、配当はここ数年は70円ほどだったようである。つまりだ、三津原博社長のありえない高額報酬やその他多くの従業員の給与を支払って、なお19億円も利益を出しているのである。この社長は日本調剤の株式を234万株持ち、役員報酬以外に配当収入も1億6380万ほど得ている。

日本企業の社長で最も高額報酬なのは、たぶん日産自動車のカルロス・ゴーンCEOであろう。彼は約9億円の報酬を得ているが、日本人社長の場合、いくら一流上場企業でも、このレベルの報酬はない。例えば三井物産の飯島彰己社長は1億3500万ほどである。なぜ三井物産の社長を挙げたかと言うと、ストックオプションなどの毎年は得にくい報酬は含まないからである。例えばスクウェア・エニックスの和田洋一社長は2億400万だが、年間の給与に限れば1億円で、ストックオプションによる収入が他に約1億円ある。1流の上場企業でも日本人社長の報酬は1億~2億円が多い。(いずれも2010年の報道による)

日本の製造業やサービス業の大企業の社長が1~2億円貰うのと、日本調剤の社長が4億円以上の報酬を得るのは全く意味が違う。なぜなら、日本調剤は上場企業とは言え、報酬は日本の国家予算の社会保障給付費から来るものだからである。このような報酬が著しく高額なのは、税金を支払う日本国民感情を考えるにありえない。もちろん、国はカンカンに怒っている。近年の調剤薬局への厚生局の監査は非常に厳しいと聴いている。

今後、調剤薬局の報酬体系の見直しが行われると思われる。その理由だが、日本調剤の社長の年収が高いだけでなく、一般病院の薬剤師と調剤薬局の報酬に乖離が生じ、一般病院の薬剤師の募集が難しくなり、一般病院の薬剤師の報酬が次第に高くなっていることがある。また、薬剤師が報酬の高い調剤薬局に偏在する弊害もある。調剤薬局の薬剤師の新卒の給与がいかに高いか、ネットで検索するとすぐにわかる。

一般の精神科病院は100ベッドに薬剤師1名で良いが、外来数がある水準を超えて増えるとそれに応じて増やさなければならないルールになっている。従って、うちの病院ではやがて限界に達し、薬剤師を募集できないままでは、それ以上の外来患者も診られない事態に至る。それだけが原因ではなかろうが、土曜日の外来を閉めているとか、新患を予約制にし、積極的に診ないようにしている精神科病院が増えているのは、薬剤師の募集の困難さと多少関係している。

今後は新設の薬学部がかなり増えたことや、調剤費の報酬の見直しも行われると思われるので、薬剤師の就職先の方向性も変わってくると期待している。(精神科病院は慢性的に薬剤師不足)

参考
精神科医は書類に忙殺される(後半)
リスパダールコンスタの継続と中止の目安
医師国家試験の難易度
リエゾンの診療報酬と医療崩壊(この記事を読み比べると、いかに医療費削減の方向性が間違っているかわかる。)

付記)
厚生労働省のサイトによると以下のように記載されている。
平成25 年度の調剤医療費(電算処理分に限る。以下同様。)は6 兆9,933 億円(伸び率(対前年度同期比、以下同様。)6.1%)であり、処方せん1 枚当たり調剤医療費は8,857 円(伸び率+5.4%)であった。その内訳は、技術料が1 兆7,371 億円(伸び率+2.1%)、薬剤料が5 兆2,444 億円(+7.5%)、特定保険医療材料料が118 億円(+5.4%)であり、薬剤料のうち、後発医薬品が5,999 億円(+21.0%)であった。


このうち、薬剤料は診療報酬上の点数であり、この中には、調剤薬局が得られる薬価差益が含まれる(診療報酬上の薬価実際に納入される価格の差)。これは後発薬はより大きいが上記から、後発薬の占める割合は10%に過ぎず、全体への影響は比較的少ないと思われる。先発薬の薬価差益は、個々の調剤薬局の規模や製薬メーカーや卸との関係もあり予想しにくい。おそらく後発薬品の差益も含め、88~92%くらいではないかと思われる。つまり、上記の5兆2000億円のうち、約5200億円くらいは薬価差益として調剤薬局に残るであろう。すなわち、7兆円のうち、技術料が1兆7300億、薬価差益が5200億円、総計で2兆2000億余りが収益になると思われる。