エビリファイvsジプレキサ | kyupinの日記 気が向けば更新

エビリファイvsジプレキサ

今日は、非定型抗精神病薬の中でも代表的な2剤、エビリファイとジプレキサの効能効果、副作用についての話。今回の記事は、ちょっと長くなる。

ジプレキサとエビリファイの2剤は、同じ非定型抗精神病薬でありながら、前者がさまざまなレセプターに作用するのに比べ、エビリファイはピンポイント系の薬物で、プロフィールはかなり異なる。

また、ジプレキサ、エビリファイいずれも公式に統合失調症だけでなく双極性障害にも適応を持ち、その他さまざまな精神疾患にも適応外で使われる薬でもあり、新時代の自在タイプの抗精神病薬である。

エビリファイは大塚製薬による創薬であり、まず海外で上梓され臨床医から高く評価されている。これは従来の抗精神病薬にありがちな副作用が少なかったからである。

なぜ日本で創薬されたものを海外でまず発売するのかと言えば、海外の方が治験が日本より容易なことが大きい。日本での治験は色々と面倒な上、発売まで時間もかかるからである。おそらくだが、大塚製薬はそれまで向精神薬を創薬していなかったこともあり、他の製薬会社やその他の関係者からアドバイスを受けたと想像する。

いったん海外で高評価を受けると、日本でも治験が順調に行きやすい。しかし、代表的SNRIのベンラファキシンは日本で治験を失敗しており、今後発売されることはほぼないと思われる。このようなことを見ても、まず海外で治験を行おうとする企業方針が理解できる。(もしベンラファキシンが日本の製薬会社の創薬であれば、日本での治験で失敗した薬は、いっそう海外で治験しにくいのではないかと思う)

さて、エビリファイは当初、鎮静や肥満が生じにくい非定型抗精神病薬としてプロモーションされた。これは今でも大きなメリットである。

プロモーションのポイントを「鎮静・肥満が生じにくい」ことにした理由は、一般的に言われていることだが、旧来の抗精神病薬と非定型抗精神病薬は効果には大差がないが、副作用が少ないとみなされていることがある。

平均して非定型の方が古典的抗精神病薬に比べて副作用が少ない。この主な副作用は、主に錐体外路症状であり、いかにも抗精神病薬っぽい有害作用と言える。従来の精神科薬物療法は、この錐体外路症状にずっと悩まされてきたのである。


しかし非定型抗精神病薬は肥満する薬物が多い。肥満は決定的な重大な副作用とは言えないが、現代社会では心理的、日常生活の面で、問題にならない副作用とは言い難い。エビリファイはこれが少ないメリットがあるため、プロモーションに使われたと言える。

肥満しやすい非定型抗精神病薬
クロザリル
ジプレキサ
セロクエル
リスパダール(中程度)
インヴェガ(中程度)


肥満が少ないか稀な非定型抗精神病薬
エビリファイ
ルーラン
ロナセン
(ルラシドン)
(ジプラシドン)


日本の製薬会社が創薬した非定型抗精神病薬(エビリファイ、ルーラン、ロナセン、ルラシドン)は、いずれも肥満を来しにくいのは興味深い。海外では、元々肥満の人が多いためか、ジプレキサを使うと大変なことになるようである。したがって、初発の統合失調症の患者にはジプレキサは処方されにくくなっていると聴く。

このブログでは、ジプレキサが合っている人は肥満しにくいかむしろ体重減少すると言う記載がある。僕は、ジプレキサという薬はそれほど体重増加するように見えないのよね。こういうことを言うのは自分だけかもしれないが。(笑)

ただし、少し使って体重が増加する人はすぐに止めることが多い。多少増加しても、それを凌駕する効果が得られている人や、適切な代替薬がない人はそのまま使うが、際限なく太っていく人は皆無である。使う価値がある人は+4㎏程度で止まることが多い。ジプレキサで重要なのは、僅かでも使うと太る人は太ること。用量依存性があまりない。

一方、エビリファイは肥満の欠点がないかというと、一部に肥満する人がいる。ある時、エビリファイとプロピタンを併用していてどうしても太るので、プロピタンのせいかと思ったら(精神科医なら誰でもそう思う)、エビリファイによる肥満だった。エビリファイでの肥満はありうる。しかし、他の非定型抗精神病薬に比べると断然少ない。

時々、アメブロメールで、「エビリファイで太るみたいなんですが?」と言う質問を受けるが、その人はそういう体質で、かなり少数派の方と言える。

エビリファイは当初、統合失調症の適応しかなかったが、躁うつ病に対する適応も初期大量療法で認められるようになった。これは劇的な事件である。その理由は、「エビリファイは鎮静がない抗精神病薬」に矛盾するからである。

エビリファイは統合失調症だけしか適応を持たない時代は、少量から増量する方法が推奨されていた。しかし、双極性障害を初期大量(24㎎)で治療するようになると、いかに初期少量&漸増が拙い方針だったかよくわかった。

エビリファイは振戦は少ないが、アカシジア様副作用がしばしばみられる。つまり、エビリファイは上半身はそれほどではないが、下半身に錐体外路様の副作用が出現することがポイントである。なぜアカシジア様症状と言うかと言うと、あのアカシジア?類似の症状は「アカシジアではない」と言う医師もいるからである。このエントリでは面倒なので、今後アカシジアと単に記載する。

極めて重篤な躁状態では、初期にエビリファイを投与しても、少量から始める手法に比べ、このタイプの副作用(アカシジア)が出現しにくいように見える。この理由だが、3つの考え方ができる。これら3つはいずれも私見である。

1番目は、従来型抗精神病薬のように大量を投与するため、アカシジアまで抑え込んでしまうと言うメカニズム。2番目は、エビリファイも5HT2Aの拮抗作用を有しているため、多くなればこの作用も増加する一方、エビリファイはD2の部分アゴニスト作用が主体で、大きな用量ではD2拮抗作用が増したとしても、そのメカニズムで釣り合いが取れそうに思われること。3つ目は、重篤な病態では、大量の投薬も体が受け止めるという相対的なもの。

この3つの意見は、実際の治療中に気付いたもので、間違っているかもしれない。個人的には、上のように考えると治療初期から寛解に至るまでの副作用の出現の推移に矛盾が少ないのである。

上のエビリファイの大量を重い躁状態に処方すると相対的に副作用が目立たず、かえって忍容性が増すことは、自分にとって、驚愕すべき大事件であった。その理由は、過去にエビリファイのアメリカ製30㎎錠を投与した時に、全然うまくいかなかったからである。

また、エビリファイの大量を重い躁状態に限らず、統合失調症の初発の精神運動興奮や老年期の精神病状態(統合失調症ではない)にも、同じように奏功することに気付いた。このような病態では、エビリファイを少量から増量するより、大量で始める方が失敗がかえって少ないことが多いのである(感覚的には使えない方が稀)

余談だが、ある時、極めて忍容性が低い統合失調症の診断の患者さんが転院してきた。その患者はそれまでの抗精神病薬治療により著しい遅発性ジストニアを生じており、このため、普通はパーキンソン病に施行されるDBS植え込み術を受けていた。(脳深部刺激療法)。

パーキンソン病の患者さんにDBSを植え込むと不随意運動が電気刺激により減弱する。自分の患者さんで年配の患者さんが1名実施されていたので、どのような意味があるのかは理解していた。あの装置は電気刺激が発せられることもあり、5年に1度くらいバッテリーの交換が必要になるのである。もっと驚いたのは、その転院の患者さんはまだ随分若くで施行されていたことである。なぜ施行されたかと言うと、それしか方法がなかったからと思われる。

彼女は、DBSを施行されていたが、決してジストニアは目立たないほどにはなっていなかった。独歩では、極めて不自然に尺取虫のようにしか歩けない。しかし、それでもDBS施行後は、軽くなっているらしい。

遅発性ジストニアは、抗精神病薬の副作用のうち対処しにくいものに入るが、打つ手がないほどではない。過去ログでは、遅発性ジスキネジアはまだ良くなる方と言う記載をしている。しかし、遅発性ジストニアは遅発性ジスキネジアほど簡単ではない。

僕は彼女に、今飲んでいるルーランからエビリファイに切り替えることを提案した。その理由は、明らかにルーランよりはエビリファイの方が、このタイプの副作用は生じにくいと思われるからである。それと幻覚などが軽くないため、ルーランの用量が結構多かったこともある。用量が多いなら、忍容性のパラドックスが生じるエビリファイの方が断然、優れている。

彼女は怪訝そうな目で僕を見た。彼女によると、今までエビリファイはアカシジアが酷くなり全然合わなかったと言うのである。僕は、「使い方によると、副作用のあり方は全く異なる」と言う内容を説明した。彼女はその時の会話の範囲では、厳密には統合失調症ではなく、何らかの器質性疾患と思われた。しかし、器質性幻聴と思われる重い病態があるので、統合失調症の診断でも社会的には問題ない。

彼女には最初からエビリファイを24㎎OD錠を処方し、ルーランを自分にしては比較的短い期間で漸減した。

その結果、明らかにジストニアが改善し、自然に歩けるようになったのである。一時、他患者とのトラブル(相手が悪いものだったが)の際に、一時的に歩行状態が悪化したが、自然経過でその後、改善している。この経過を見てもわかるが、ジストニア様歩行障害は純粋に薬理的なものでなく、心理的なものも混入している。

つまり、彼女にはDBSの埋め込み術は必要がなかった。薬の使い方が悪かっただけなのである。しかし、今さら装置の抜去などできない(その手術にリスクがあるし、DBSが埋め込まれている悪影響もなさそうであるため。総合的に手術の意味がない)。抜去の決断をするチャンスは、バッテリーの交換時期にそれをせず、自然経過でジストニアが悪化するかどうかを観察することであろう。全く変化がなければ、DBSはもはや必要ないことが証明できる。

エビリファイは、初期から躁状態の人に24㎎処方すると早期に効果が出ることが多い。たいてい4~5日目に躁状態は収束気配になること多いが、この早さに、さほど個人差がないことに驚いている。

ひょっとしたら、4~5日で収まらない人もいるのではないかと思うが、その際には他の抗精神病薬も試みるべきだと思う。現代社会では、ジプレキサ筋注やザイディスの大量(20㎎)も推奨できる。古典的薬物では、セレネース液であろうが、定番は時間がかかるがリーマスである。(20日くらい)

エビリファイ24㎎を躁状態や幻覚妄想状態(統合失調症や老年期精神障害)に最初から処方する場合、重大な欠点がある。それはエビリファイの特性に由来する。

エビリファイを24㎎を処方した場合、躁状態を抑え込むにつれて、忍容性が変化し、相対的に病態とエビリファイの大量に釣り合いが取れなくなる人が存在する。そのような人は、アカシジアなど継続しがたい副作用が出てくるので、減量せざるを得なくなる。

しかし、エビリファイは減薬すればするほど、かえってアカシジアが酷くなる傾向があるのである。したがって、このような人は、エビリファイ自体が続かず、全て中止するしかない。この事態は、躁状態で入院した時には見極められないため、このような展開になる人は、当初から、エビリファイを選択しない方がむしろ良かった人たちに入る。その後に他の向精神薬を探さないといけないからである。大抵の場合、リーマスやデパケンR、あるいはラミクタールなどを選ぶことになる。

このような人は、躁状態のような双極性障害は、やはり基本にかえり気分安定化薬で治療すべきだったと思う。エビリファイの優れる点は、服薬のしやすさ(ODの1錠なので)と、即効性であろう。エビリファイの鎮静の少なさはどうだったんだ?と言う話である。(笑)

エビリファイ24㎎は減薬しようとすると、とたんにアカシジアが生じて困ることになるが、24㎎使いっぱなしだと全然副作用が生じず、なぜかうつ転もほぼなく、非常に良好なコントロールになる人たちがいる。生涯にわたり服薬しなくてはならないような重い双極性障害ないし統合失調症の人(特に統合失調症や老年期精神障害の人)には、最も理想に近い抗精神病薬と言える。止めない前提であれば、全く問題にならない。

双極性障害の人たちは、精神のまとまりという点で本来障害がない(寛解すれば、一般の人たちと全く差がないと言う意味)。しかし、統合失調症の人はそうではないので、統合という仕事をしてもらわないといけない。

実はエビリファイは精神の知・情・意のスプリットを統合させる能力が、ジプレキサより劣る印象である。つまり、特に重い病態での治療のクオリティが若干低い。

上記、DBSの植え込み術を実施された人は、ルーランからエビリファイに変更した当初、一時的だが、精神症状が悪化した。しかし、話してみないとそれがわからないレベルなのである。エビリファイは表情を改善させる力が大きいため、精神面のいくらか悪化の時期ですら、全てが改善しているように見えた。彼女は一般の抗精神病薬はジストニアを悪化させ使えないため、他の一般的ではない併用薬で次第に改善している。

エビリファイ24㎎を使い、躁状態なり幻覚妄想などが改善しないケースや、いったん寛解したように見えても、奇行や遁走などにわかにはわからない精神所見が残る場合、やはりジプレキサが優れていると思う。学校に復帰できるとか就労まで至るのは、ジプレキサの方が確率が高い印象である。たぶん、ジプレキサの方が精神の統合の能力がエビリファイより優れているんだろうと思う。

感覚的には、3:7か4:6の割合で、ジプレキサの方が結局は良かったと言う結末が自分は多い。(他の医師はしらないが)。

エビリファイの大量で十分な人は、本来、統合の必要のない厳密には統合失調症ではない人や、心因反応的な病態の人たちなんだろう。

彼ら(彼女ら)は寛解の流れで、アカシジアが生じ、結果的にエビリファイは去っていく。それは精神疾患に限らず、多くの疾病の自然な経過でもあると思っている。

参考
リスパダールvsジプレキサ(付録 ルーラン)
エビリファイのパラドックス