ジプレキサとおにぎり | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサとおにぎり

統合失調症や妄想性障害などの疾患で、決して服薬しない人がいる。このような人は昔から対処に困っていた。困るのは主に家族だが、主治医も同様である。

入院させた場合、定時に半ば強制的に服薬させるが、巧妙に舌の下などに隠して後で捨てていることがある。

このような時、入院時はともかく、退院したらこの人は服薬などしないだろうなと思う。

統合失調症の場合、薬への反応性が良くても、全く服薬しない人は99%以上の確率で予後不良である。薬の反応性が悪い人からみると、非常に恵まれているが、全てを台無しにしている。

しかし、不思議なことに統合失調症の人は全く病状と服薬することの関連性がわかっていないのに、服薬してくれる人の方が遥かに多い。

ただし、生活の不規則さなどから一定の割合で飲み忘れるので、僕の場合、70~80%程度入れば御の字だといつも思っている。

決して服薬しないような人は、人格面で荒廃がむしろ少ない妄想性障害や、今風に言うと、広汎性発達障害で妄想状態を呈している人たちにみられる。

彼らはたいてい極端に頑固で、聞き耳を持たない。この人たちは打つ手がない。これらは、被害関係妄想などもいくらか関係しているが、本質的に「自分は精神疾患ではない」と思っている部分が大きい。(例えば電磁波がどうこうとか言っているような人々。)

このような人たちは家族も困り果て、昔はセレネース液をこっそりみそ汁などに入れて飲ませていた。

信じられないことだが、初診時から1回も精神科病院に来たことがないのに20年以上、毎日奥さんがセレネース液を1㏄ずつ飲ませていた家族を診たことがある。毎回、奥さんしか受診しないのである。

セレネース液はほとんど味がないので、みそ汁に入れたら全く分からないし、ご飯にかけてもわからないという話だった。

このように、本人が知らないうちに家族が飲ませるのは好ましくないことだが、実際問題として、そういう方法しか取れないのなら仕方がないのではないかと。

仕方がある?と思う人がいたら、代替策を挙げてほしい。

いつだったか、もう20年くらい前だが、精神保健指定医の講習会で、このような事例で精神科医同士が喧嘩になっているのを見たが、このような「極端な事例」を法律違反だとか、長期的に本人にとって良くないなどと糾弾する精神科医も、むしろ現場感覚が乏しく、融通が利かないタイプと自ら証明しているようなものだと思う。精神科医は、その辺りのことは超越しているのが一般的である。

精神保健指定医の講習会は、もう身体疾患のために仕事ができそうにないお年寄りの精神科医から、一線でバリバリ働いている比較的若い精神科医、研究者、教授クラスが一斉に集まっているので、ある種の特殊な光景である。

そのセレネース1㏄だけの人は20年くらい何も知らずに服薬し仕事もこなしていた。奥さんの話だと、数日、薬があくと次第に言葉が荒くなり、乱暴な状態になると言う。このような話から考えると、服薬するかしないかでは大違いである。

また、たぶんだが、その患者さんは統合失調症でも緊張型の病型と思われる。

近年、セレネース液ではなく、ジプレキサザイディスがこのようなこっそり入れる薬として、稀に使われているようである。ジプレキサザイディスは水に触れた瞬間、綿菓子よりも即効性に溶けて姿を消す。

これでおにぎりをつくれば大丈夫らしい。

この話を聞いて少し感心した。みそ汁でも問題ないという。

本当は軽いうつ病や神経症の人のように、薬の効果がきめ細かにわかる人たちの方が、医師もどの症状にいかなる効果をもたらすか説明できる。そのような話ができることは、ひいてはアドヒアランスを向上させる。

ジプレキサザイディスは明らかに錠剤より便利だが、服用感が悪いという人が一部にいて、そのような人は、その理由で吐き出したりする。甘いだけでは苦いよりましかもしれないが、万人には好感をもたれないようだ。

そのような人は通常の錠剤を処方し服用してもらっている。このような人は、病識が欠如しているとしても、決して服薬しない人には含まれない。

エビリファイODもジプレキサザイディスのように使えるが、なんとなくだが、このように薬を飲まない人は、第1感ではジプレキサではないかと。

ジプレキサの方が抗精神病薬として効果に厚みがあるし、エビリファイはアカシジアが出た時、すぐに本人にわかってしまうのが痛すぎる。

変な話だが、家族も含め安全性を求めるなら、ジプレキサが効果と副作用のバランスがとれているといった感じである。

参考
セレネース液とリスパダール液
統合失調症の患者さんの服薬中断
統合失調症の発病と再発